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特別な日に少し幸福なリップをするように特別な日に高めのディナーを頂いたり。
そんな日の最後に絶景の景色を見たり
チルとかそんな軽い言葉ではでない深みが特別。
そんな特別に立ち会えるのがファッション業界の要だと考えて業界に飛び込んで早2年。
期待の新人と言われてた同期もいつの間にか退職をして、変哲もない、なんの特別もない普通の空間の店内は果たしてそれをファッションと呼べるのだろうか。
自分が憧れた時は、男女問わず笑顔でお客様に提案をされている店内が煌びやかでマネキンだって新作のドレスや小物を持っていたはずだ。
それにマネキンの顔だって凄く綺麗だったのに今じゃ少し劣化が目立っている。
しかしそんな店舗も今日でさようならだ。
まだ経験がない俺は系列店へ移動になった。
そこで沢山経験を積んで最初にいた店舗をしっかり治したい。そんな思で系列店のバックヤードへ入る。
「おはようございます。西店から移動になりました伊藤光希です!今日からよろしくお願いします!」
バックヤードのドアノックを3回。
深呼吸を2回。
ドアノブを触り、硬いドアを押して
過ごしやすい環境ですようにと願い
深呼吸をもう1回。
「あぁ!君ね西店から移動の!
私は店長の佐々木真子ですよろしく。
こっちは光希くんの教育係。色々教えて貰って!
私もう行かなきゃなのよごめんなさい。また明日ね!」
想像してる何倍も明るくて、西店とは大違いの店長だった。
西店はすごくピリついた雰囲気で男性店員も俺しかいなかったからいじめられるようなことも多々あった。店長も勝手にするなという圧のまま
いつも作業をしていた。
しかし系列店の東店は真反対で初日から皆さん優しくて物扱いされないのは久しぶりだった。
「教育係の矢野春馬です。よろしくお願いします。
えっと〜これなんて読むの?みつき?こうき?」
「みつきです!よろしくお願いします!」
「ごめんね漢字弱くて。なんかあったら言ってね
いつでも頼っていいから、基本的には西店と一緒
あ、あと有給はちゃんと使ってねクマなんてお客さんに見せられないんだから。それか隠す努力をすること。」
憧れていたストイックさがまだ生きていることを実感した。
みんな笑顔でいるのはきっと影の努力が少しづつ積み重なって苦しい時実るためだろう。
「あ、すいません…コンシーラー買ってきます。」
メイクの悔しいことは分からない
どんな手順でやるとか何がいいとか。
ただ一つ一つの役割しかわかってないから
咄嗟にコンシーラーを買ってきますと言い走り出してしまった。
「ちょっと待って!」
矢野さんが腕を掴んで引き止めた
痛んだ。
前の店舗でよく腕を引っ張られてバックヤードに
連れていかれていたから。
いつも痛くて、何をしても痛くて
誰にも言えなくて辛くて。
「痛…!」
「ごめん…光希くんそんな強くしたつもりなかったんだけど。」
「大丈夫です!気にしないでください!」
袖幅が少しある服だから腕の赤みが見えてしまった。咄嗟に隠したが多分見えてるだろう。
だんだん目に涙が滲む。
「光希くん、大丈夫じゃないよね。」
「大丈夫ですよ…笑びっくりしただけだし…
売上もいい東店に迷惑かけれないです。
しっかりクマ隠して店頭に立たせてください!」
「そっか。わかった。光希くんここに座って」
鏡置いてケープをかけて、前髪をピンで止めて
矢野さんはまるで美容部員のような立ち振る舞いをした。
「俺、昔ここに入ってる化粧品メーカーの
美容部員だったんだよ。だからメイクは任せて。」
コーヒーを心に注がれるような温かさが
少し震えている手を落ち着かせた。
矢野さんの大きな手はどれだけの人を幸せにしてきたんだろう。
美容とファッションは隣り合わせの世界だ。
自分の経験値を活かせる仕事につくなんて
いつかはそういう大人になりたい。
矢野さんみたいにかっこよくなりたい。
「情けないな俺…ほんとに。」
「情けなくないよ。光希くんはすごいよ。
よかったら話してみて?」
堪えきれなかった涙がだんだん溢れてくる。
本当に弱くて、憧れるばかりの人生はもう辞めたいのに。
「俺、前の店舗でいじめられてたんです。
圧倒的女社会っていうか。男一人だったんで仕方ないんですけどね笑。
いつも腕引っ張られてバックヤードに連れてかれてこっぴどく叱られてそんな生活だったんです
だから矢野さんに腕を引っ張られた時またなんかやらかしたかなってびっくりしちゃって…ほんとすいません。」
「いい子だな〜。そんな子と一緒に働けるなんて嬉しいよ。光希くんはすっごく強いんだね。
仕事熱心なのもいいけどまずは自分に熱心になってね。いっぱい泣いていいからね。」
ティッシュで涙を拭うなんて小さい子みたいで恥ずかしい。
けど嬉しい。
「今日は自分のペースで頑張ろうね。
明日からちゃんと合わせてくれたらいいよ。
どうする?今日メイクするのやめとこっか?」
「いや!します!自信もって店頭に立ちたいので
お願いしてもいいですか?」
「任せて。OPENまでまだ時間あるから
何かあったら言ってね。例えば少し休憩したいとか。人に何かされるって身構えちゃうから笑」
気づいてたらコーヒーが入ってて
気づいたら涙もとまってて。
何も知らないとこで俺を笑顔にする。
人の温かさと本質に触れたようだった。
「せっかくならさもっとかっこよくしていい?
もちろんベースメイクだけでもいいんだけど…」
「は、はい…!矢野さんが思うようにしてください!」
「目を閉じて。」
ひんやりとしたパフが肌に付く。
最初は密着するようにだんだん広げていく。
矢野さんの経験が伝わるような手さばきが
綺麗になるように人を変えてく。
「うん、いい感じ。もう目開けていいよ。
光希くんはこっちとこっちどっちがいいかな?」
大きな手の平に、ピンク寄りのアイシャドウと
オレンジ寄りのアイシャドウの2つを乗せて
選ばせてきた。
「矢野さんはどっちが似合うと思いますか?」
「光希くん顔は、顔の雰囲気が優しめだからピンクの方が似合うかな?」
「じゃ、ピンクの方にします!!」
また目を閉じて、矢野さんの手が止まるまで待った。
右目、左目、優しく筆が走る。
メイクされるってこんなに心が踊るのかと
感心をした。
最後に唇に赤みのあるリップを乗せて
目を開けた。
「いいじゃん…光希くんめっちゃかっこいいよ。」
「ほんとに…すごい。」
別にガッツリメイクをしている訳じゃないのに
少し血色が足されてクマは消えていた。
いかにも健康良児という雰囲気の顔立ちでさっきの疲れた自分の顔とは大違いだった。
「矢野さんすごい…俺じゃないみたいです!
でもなんで一式持ち歩いてるんですか?」
「ほんと?それは良かったよ。
なんでだろうね?癖かな〜なんか一式持ってなきゃ落ち着かないというか。よくスタッフにもメイクしてるんだ。今日は来てないけどあと2人くらい男性店員もいるんだよ。今度あったら一緒に挨拶しに行こうね。」
なんだ俺だけじゃないんだ。そんな言葉がツンと胸をさした。
「
光希?」
「あ、いや!みんなを笑顔にしてるんだなって
もうすぐOPENですよ!早く行かなきゃ
ありがとうございました。」
別に嫉妬とかじゃない、なんか特別な時間みたいでわくわくしたの自分が恥ずかしくて
少し早歩きでその場を離れた。
OPENの10時。
お客さんが少しずつ増えていく
笑顔でお店を向かう人がなんだか心をわくわくさせる。
「あの…新作のこれ、欲しいんですけどどこですか?」
「いらっしゃいませ、新作のニットはこちらにご用意しております。」
早速、新作の紫色のニットを求めてお店に人が来る。
なんだろう心もキラキラしてるようで
世界がスパンコールみたいだ。
「それじゃMサイズをください。あとこれに似合うよなスカートとか…」
「承知致しました。
こちらのツィードのスカートなどいかがでしょうか?紫色のニットの色味が大人っぽさを出して大人可愛い感じになりますよ。」
「じゃぁそうします!それもMサイズでお願いします。」
東店での初めての接客は上手くいった。
そう思いながらお会計へ向かう。
服を包装紙に包んで手提げの紙袋に入れて
店頭へまでお持ちする。
「またご来店お待ちしております。」
お客様が最後まで笑顔になれる接客。
自分の中の格言が今日も一人笑顔にした。
「光希くんすごいねちゃんとコーデも組めてたし
もう俺が教えることないよ笑」
「いやいやそんな、僕はまだ業界の新人ですよ。」
褒められるの嬉しいけど、どうせみんなに
そういう褒め方してるんだろうなって思ってしまう。別に特別扱いをして欲しいとかそういうのじゃないのに本当に欲深い。
「光希くん…?どうしたの?」
「いや…えっと、矢野さんって優しいなって笑」
自己嫌悪になっている自分の顔を見て
矢野さんにまた心配をかけてしまった。
矢野さんは優しすぎる。
「違うでしょ、朝から言いたい本音
あるんだよね?」
「矢野さんに恋してもいいですか?」
本当に頭がおかしいこと言ってるなってわかってる。だけど好きなんだろうな。
こんな些細なことで胸がツンとするのも
優しくされて涙が止まらないのも
移動初日に優しく包んでくれるのが嬉しくて
きっと恋に落ちたんだ。
矢野さんが俺の中の不安な所に触れてくるから
きっと恋に落ちたんだ。
「急だな〜笑。光希がその気なら俺もその気になっていいの?」
「なって欲しいから言ったんですよ。」
「もっと1人前になってからなってあげるよ笑
さ、仕事戻るぞ」
バックヤードはある意味秘密の部屋。
なんでも知ってる部屋。
毎日どうしたら1人前になれるのかをひたすら考える。
俺が思う1人前は誰かを特別というリボンで飾ること。それがファッション業界の1人前になるということだと思う。
──────三年後
かれこれ、東店に移動して3年。
一人前とはなんだろうとひたすら考え続けて3年。
いつの間にか西店は潰れていた。
店長が問題を起こしたとかどうとか。
お客様の幸せと特別を守るために隠蔽された裏側は無惨だ。
「光希、今日本社に行く用事があるから光希も同行して。13時からミーティングだからそれまでに資料作っといてね。」
「わかりました。もうすぐタクシー着くそうです。」
あれから俺たちは教育係と新人の関係から
なんだかバディのような関係に変わっていた。
店長も相変わらず忙しくて他の社員も別の雑誌や、テレビドラマの関係でスケジュールを埋めている今、唯一手が空いてる俺たち2人もいつの間にかスケジュールが埋まっていた。
「矢野さん俺いつになったら一人前ですか?」
「うーん分からない俺も。」
「え、俺一人前にならないと矢野さんがその気にならないから焦ってるんですよ。」
「焦るから一人前になれないのかもね笑」
矢野さんって本当に何考えてるかわからない。
俺があの時どんな気持ちだったのかわかってるのだろうか。
そんなことを考えているの本社前に着く。
「光希頑張ろうね。」
「頑張りましょう矢野さん!」
俺たちは今どんなことをしているのかと言うと
ファッションショーのコンセプトを決めるとても大事なところにいる。
なぜ俺が選ばれたのかは分からない。
矢野さんは兎も角、俺が選ばれる理由が思いつかない。しかし、任されたからにはしっかりやり遂げて凄いものにしたい。
「それじゃ、ミーティングを始めます。
前回のコンセプトは小悪魔ガール。
しかし、前年の冬から今年にかけて天使のようなキュートさを求める流行りが中心です。
そこで考えたのが、前年のコンセプトを活かした
エンジェルガールにしたいと考えてます。」
矢野さんがめちゃくちゃ考えて決めた案。
通って欲しい。と願いながら僕は書記を務める。
「エンジェルね…けどエンジェルもパンチがないんじゃない?小悪魔ガールだってパンチが弱くて盛り上がらなかったじゃないか…」
眼鏡を揺らして、あたかも自分の意見が当たり前だと言うよな口調のミーティング。
それがこの業界の鉄則なのだろうか。
「えっと…そうですねそこを今日埋めて行けたら
いいと思っています。」
「ちゃんとそこまで考えてきて欲しいんだけどね
時間ってさ無限じゃないんだよ矢野春馬くーん。」
矢野さんがどんな思いで仕事してるのかも分からないで、煽るのは大人として情けない。
「あの僕から提案してもいいですか?
今から言うのは僕が話を聞いてて今思いついたものです。
エンジェル=パンチがない。その気持ちは分かります。だったら流行りを今のまま延長するのではなく流行りを我社のものにしてみてはいかがでしょうか。例えば、チャイナ服に天使の羽をつけるみたいに物理的にパンチをきかせたり、白やピンクの可愛げあるものじゃなくて黄色やオレンジのように明るくて活発なイメージの色を取り入れるなどしてみたらどうでしょうか。」
「ふーん…君の上司矢野くんだよね?
矢野くんの意見を聞いてみたら?俺はさ、上手く行けばいいんだよ上手く行けば。」
「俺は凄くいい提案を頂いたと思っています。
皆さんがこの意見に反対がなければ伊藤光希の案を採用したいです。」
矢野さんが俺の意見を盾にミーティング関係者に伝えると拍手が上がった。
次回のミーティングでどんな衣装コンセプトにするかブランド力を伝えれる物をどう見せるか
などもっと詰めていく段階に行く。
今日のミーティングが終わって缶コーヒーを買ってベンチに座る。
「光希ほんとにありがとう。光希が居なかったら俺またやり直して、また最初からで…そして…やばい光希…」
「え、ちょ矢野さん…大丈夫ですか」
張り詰めてた緊張が解けて今までの疲れが
押し寄せたんだろう。
矢野さんは俺の肩に横たわってきた。
幸い、人通りの少ない廊下だったからあまり人目はなく助かった。
「光希…俺本当はさずっと怖かったんだ。
光希が移動してきた日に、美容部員だったって話したじゃん、俺も光希と同じでいじめられっぽいことが多かった、だから光希が泣かないでいいようにって必死で頑張ってたけどいつか崩れちゃうだろうなって怖くて…ごめんその張り詰めた糸が切れちゃったみたい…」
「矢野さん、俺矢野さんが思ってるよりいい子だよ。いい子で強くて、矢野さんを救える。
だから矢野さん、たまには俺に甘えてください。」
「ほんと、光希は俺をその気にさせるのが上手
まだ好き?俺の事」
誰も居ない廊下夕方に差し掛かる時計
青空がだんだんオレンジに染まってく。
「大好きです矢野さん。今日、うち来てください
お疲れ様会しましょう。」
気づいたら育んでる恋心の色もキットオレンジ色で、空のように移り変わる。
いつしか、深夜の暗闇で泣いてしまう時も
明け方の光が涙を拭く。
春の空が何かを包むように。
包装紙に恋を包んで紙袋に愛のクッション材を入れて2人の思い出を運んで、赤いリボンを結ぶ。
きっとその2人は綺麗な顔をしていてピンク色のアイシャドウがよく似合うだろう。
オレンジ色の光が今日も恋人を隠す
光とは不思議なもので反射してたら見えるものも見えない。
「光希ダメだよ調子乗ったら。」
「…タクシーが来るまで。お願い」
オレンジ色の光が、唇を消してくれると信じて。
誰もいない廊下だからキスをする。