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「さて、儂も稽古に戻るとするかの。お主たちはどうするかね?」

「少し見学していきます」

「そうか、ゆっくりしていくといい。……アウレーリア君に助言じゃ。まずは目を閉じて周囲の気配を感じる練習をしなさい。目に映るものに囚われ過ぎてはいけないぞ。自然と気配を感じられるようになれば、目を開けても変わらず感じることが出来る」

「はい」

目を開けてても無言合戦にしか見えないからね、丁度いいよ。

わたしは目を閉じて周りに意識を集中することにした。


「……」


……うーーん。さっちゃんと数人の気配は感じられるようになったけど、それだけだね。

道場には20人くらいの人達がいる。みんな気配を消してるのか、わたしが感じ取れないだけなのか分からない。

さっちゃんが難しい顔であっちを見たりこっちを見たりしてるから、きっと殺気も出てるはず。

もう一度目を閉じて集中してみる。


「……」


うん、なにも変わらないね。もっと深く集中しないとダメなのかな……。

……よくある瞑想とか? 無心になって意識を部屋全体に広げるイメージ……。

あれ? これって魔術のイメージと似てない?

そういえば、シズカさんが訓練所で100体切りした時は、魔力でかかしの場所を感知したって言ってたよね。

部屋全体に魔力を張りめぐらせて魔力で感知する。

魔力で感知っていうのがピンとこないけど、やってみればわかりそうな気がする。

魔術もどき「感知」とか?

……やってみる? 前に試そうとした「冬の空気」に近い違和感を感じるけど、悪寒とかは感じない。

……ダメもとでやってみよう!

部屋全体に魔力を張り巡らせるイメージをして……。


「……感知」


うっがぁーーー!!!

痛い! 頭痛い!! すっごく痛い!?

なにこれ!? ストップ! ストップ!


「アリアちゃん!?」


わたしはあまりの痛みに床にうずくまった。

……痛い、すっごく痛い! 痛みは徐々に引いてるけど、すっごく痛い!


「うぅぅぅ……痛い……」

「アリアちゃん大丈夫!? どうしたの!?」

「うぅぅ……さっちゃん……痛い、頭が痛い……」

「アリアちゃんどうしたの? どうすればいい?」


……なに、これ……? 何の痛み? 魔術の失敗とか?


「落ち着きなさい、ザナーシャ君。アウレーリア君はこれを飲みなさい、痛みが引く薬だ」

「うぅぅ……ありがとう、ござい、ます……」


渡された薬を飲むと痛みが急速に引いていった。

けど……今度は気持ち悪い……。


「痛みは引きました……でも、気持ち悪いです……」

「ふむ。ザナーシャ君、アウレーリア君をおぶってもらえるかの。1階の休憩室にベッドがある、そこに運ぶ」

「はい」

「うぅ……ゴメンね、さっちゃん……」

「大丈夫だよ。とにかくゆっくり休もう」

「……うん」


さっちゃんに運ばれてベッドに寝かされる。


「ありがとう、さっちゃん。迷惑かけて、ゴメンね」

「大丈夫だよ。気にしないでいいから、ゆっくり休んで」

「うん……」


1時間ほどだろうか、少し寝て起きたら大分楽になった。


「うん、と……」

「起きて大丈夫?」

「うん、だいぶ楽になったよ」

「無理しないでね。起きたら師範代が話があるって言ってたけど、話せそう?」

「……大丈夫」

「それじゃ今呼んで来るね。動いちゃ駄目だよ」

「うん」


きっと怒られるよね。騒がしくしちゃったし、薬まで貰っちゃった。

さっちゃんに心配かけたし迷惑もかけた。

……はあぁーーー、落ち込むよ……。


「ふむ、大分元気になったようじゃな。先程の件について少し話がある。よいか?」

「はい」


怒られる覚悟は出来てる。それだけのことをしたから。


「まずは、桜花武神流の師範代として謝罪させてほしい。すまなかったの」

「へ?」

「魔術について、中途半端な指導をしたがゆえに起きた事故じゃ。これは魔術を指導した師範の責任であり、監督役の儂の責任でもある。辛い思いをさせてしまい、誠に申し訳ない」

「え、あの、わたしが勝手にやったことです。こちらこそすいません!」


なんでわたしが謝罪されてるの!? 意味が分からないよ!?

それに、魔術を指導した師範ってシズカさんのこと?

え、シズカさんって師範だったの? 師範って師範代の上、道場の一番偉い人だよね?


「ふむ、お互い謝罪しあったということで、ひとまず落ち着こうかの」

「あ、はい」

「先程起きたこと、説明してもよいか?」

「お願いします……」


……シズカさんのことは後でいいか。今はあの頭痛のことだよ。

あれって明らかにわたしの魔術が原因だよね。たぶん、失敗してああなったんだと思うけど詳しく知りたい。


「簡潔に言うとな、あれは魔力暴走じゃ」

「魔力、暴走?」

「発動した魔術が制御できず、暴れた状態じゃな」


……んん?


「ほっほっほ、難しかったかの。確か、お主は焔が使えるんじゃったな」

「はい」

「魔力暴走を焔に例えると、通常は顔くらいの大きさの炎が10mくらいの大きさに勝手になる、と言えば分かるかの?」

「ほえ!?」

「魔力が勝手に引き出され、魔術の規模が想像以上に大きくなる、それが魔力暴走じゃ」


怖すぎる! 10mの焔なんて使ったら大惨事だよ!

……わたしって魔力暴走で倒れたんだよね? そんな大惨事、起きてないよね?


「今回の魔力暴走は、お主が気配を察知しようとした魔術じゃな。あの量の魔力が部屋に張り巡らされた時は正直あせったの」

「あの「感知」の魔術もどきのせいですか?」

「もどき、ではないの。あれは立派な魔術じゃ。それにしても「感知」か、なるほどのう……」


あれってもどきじゃないの? 頭痛しか起きない失敗魔術だよ?


「まずは魔術の定義からじゃな。魔術とは魔力を使って想像を顕現させるもの。どんな些細なものでも、魔力と想像をつかって顕現したものは全て魔術じゃよ。シズカから教わらんかったか、魔術の種類は無限大だと。人が想像できるものは魔力次第でどんなものでも顕現できる、それが魔術じゃ」

「聞いた気がします……」


そっか、じゃあ泡洗浄や砂漠の風もちゃんとした魔術なんだ……。


「その様子じゃと、規模の小さい魔術は何種類か使ってそうじゃの」

「はい……」

「だからこそ、今回のような事故が起きたわけじゃな」


使い過ぎたせいで事故が起きた?

便利だからって気軽に使い過ぎたのがいけなかった?


「本来、ある程度の規模の魔術になるとしっかりとした想像固めが必要じゃが、規模の小さい魔術ではある程度曖昧な想像でも顕現出来てしまうんじゃ。そして、その曖昧な感覚のままで大きな魔術を顕現させようとすると、今回のような魔力暴走につながる」

「……すいません」

「お主を責めておる訳ではない。先程謝罪した通り、中途半端に魔術を教えたこちらの責任じゃ、本当に申し訳なかったのう。シズカも儂も、お主の能力を見誤っておった。本来は、次にシズカ達が来た時に今のことを教える手はずじゃったんだが……予定が大きく狂ったわい、ほっほっほ」

「ホントにゴメンなさい……」


焔を覚えたからって、調子に乗って魔術を軽く考えたわたしの責任だ。

うぅ……シズカさんに思いっきり怒られそう……。


「いじわるを言ったかな、すまんの。若い才能がうらやましくてつい口が軽くなってしまったようじゃ」

「いえ、調子に乗って魔術を軽く考えたわたしのせいです。ホントにごめんなさい」

「ほっほっほ、謝罪合戦じゃな。謝罪はここまでじゃ、お主が倒れた原因の「感知」について話そうかの」

「お願いします」


倒れないためには正しい魔術の知識が必要だもんね。

もうさっちゃんに心配はかけたくない。


「さて、お主の魔術「感知」じゃが、あれはシズカの魔術を真似たのではないか?」

「……はい」

「あの魔術はの、使い方次第で下級魔術にも上級魔術にもなる非常に高度なものなんじゃよ」

「上級魔術!?」


上級魔術って、天才しか使えないような魔術だよね!?

あの頭痛魔術が上級……あ、だから暴走したのか!


「使ったのが下級魔術程度なら倒れることもなかったのう。せいぜい1~2mの気配を探れるだけじゃ」


……あの時って、確か部屋全体に魔力を張り巡らしたよね……。


「お主は、あの広い部屋全体に魔力を張り巡らせ、そこにあるもの全てを「感知」しようとしたんじゃ。人や物の形、色、動き、気配、殺気、諸々全部じゃな。明らかに上級魔術の域にある。情報量が多すぎて、普通の人間なら脳が耐えきれずに死んどるな。死なんかったのは不幸中の幸いじゃ、ほっほっほ」


死んでるって!? 全然笑い事じゃないんですけど!?

あの物凄い頭痛って、情報量が多すぎて脳みそが悲鳴を上げてたんだね……。


「シズカですら、あの部屋全体を対象にした場合は情報をある程度絞っとるからの。お主にはあの規模の魔術は早過ぎる」

「……はい、2度と使いません」

「ほっほっほ、そう心配するな。同じような魔力暴走が起きそうな時は感覚で分かる。この魔術は使ったら駄目だと本能が教えてくれるはずじゃ」

「……あ、前に使おうとした魔術ってそういうことだったんですね」


冬の空気の魔術を使おうとした時、すごい悪寒が走って使うのをやめた。本能が使うなって教えてくれたんだね。

……あれ? 冬の空気を使ったことってないよね? 魔力暴走も今日が初めてのはずだ。


「……どんな魔術を使おうとしたのかの?」

「冬の空気っていう魔術です。暑かったので部屋全体を冬の空気のように冷やそうとしたんですが、発動しようとしたらすごい悪寒が走って使うのをやめたんです、けど……」

「けど、なんじゃね? 疑問は全てここで吐き出すといい」

「あ、はい。えっと、悪寒が走って結局は使うのをやめたんですけど、わたし、その魔術を使ったことがないんです。どうして悪寒が走ったんでしょう?」


悪寒の正体も分かったし、「感知」の時の違和感も今なら分かる。きっと、冬の空気に近い魔術だったから違和感を感じたんだ。広さは違うけど、部屋全体って相当やばいことだと今なら思う。

……でも、冬の空気の悪寒がどこから来たのか分からない。


「ふむ、それは記憶が飛んでおるな。なるほどのう、2度目だから今回は無事だった訳じゃな」

「えっと……記憶が飛んでるって……」

「お主は以前に「冬の空気」を発動したことがあるんじゃよ」

「ほえ?」

「冬の空気を発動し、魔力暴走を起して魔力枯渇を起したんじゃ。魔力が枯渇すると、死亡するか仮死状態になるかの二択じゃの」


……は? 死亡とか仮死状態とか物騒な単語が出て来たよ。


「幸いにも、その時は仮死状態になったんじゃな。それが原因で魔術を使った記憶が飛んだんじゃよ」

「ほえー……」

「ふむ、これも伝えておこうかの。よいか、広範囲に影響を及ぼす魔術は大半が上級魔術に分類される。広範囲が故に想像固めが難しく、魔力暴走を起しやすい。必要な魔力も非常に多い為に魔力枯渇を起す確率も高い。決して安易に使ってはならんぞ。今のお主が使ってよいのは単体を対象とした初級魔術のみじゃ」

「……はい」


うん、もう部屋全体とかは絶対に考えない。

次に使うときはシズカさん達の許可があってからだ。

……わたしが今使える魔術も確認しといたほうがいいかな?


「さて、今お主が使える魔術、全てをここで話してもらおうかの。これ以上の事故は避けたいからの」

「……はい」


わたしは素直に全てを話した。

シチューブルブル、泡洗浄、氷、砂漠の風、ゼリー人形、お湯マッサージ……。


「これは予想以上にまずいの……」

「……あの、今言った魔術ってもう使わない方がいいですか?」


師範代が難しい顔をして考えてる。

相当にまずいことをしでかしてたみたいだ。


「泡洗浄と氷、砂漠の風は問題ないの。むしろ、積極的に使って魔術に慣れ、魔力を鍛えるべきじゃな」

「そうですか……」


お湯マッサージは? あれがなかったらノルマをこなせないよ。


「注意すべき魔術は3つ、シチューブルブルとゼリー人形、お湯マッサージじゃな」


ゼリー人形は何となく分かる。魔力枯渇だよね。

でも、シチューブルブルとお湯マッサージって……。

シチューやお湯を温め直すだけの魔術と、単なるマッサージ魔術だよ?


「……まず、ゼリー人形については先程説明した魔力枯渇に注意じゃな。間違いなく魔力を常時消費しておる。30分を限度とし、普段は安全を考慮して10分で消しなさい」

「はい」


うん、だよね。確信が持てたよ。今後は注意しよう。


「次にお湯マッサージ。これは自宅などの狭い浴槽でのみ使用することじゃな。広い浴槽では使用しないように。公共の大浴場や温泉などじゃな。下手をしたら上級魔術相当に魔力を消費する可能性がある」

「はい」


……よかった。自宅で使えるなら十分だよ。

温泉でさっちゃんにやって上げられないのが残念だけど……。


「最後、一番危険なのがシチューブルブルじゃ」

「危険?」


……シチューを震わすだけの魔術が?

わたしが最初に思いついたほんわか魔術だよ?


「このような物騒な魔術をよく思いついたものじゃな」

「物騒?」

「焔の比ではないの。対生物においては非常に強力で残虐な魔術じゃ」

「ほえ?」


焔ってすごい物騒な魔術だよね? あれより物騒で残虐ってどれだけ……。


「難しいことは今は考えんでよい。シチューブルブルの使用と公表を当面禁じる。使用、公表した場合は入門の取り消し、及び破門とする。注意せよ」

「は、はい!」


師範代の雰囲気がすごい威厳に満ちたものになった。

シズカさんと同じくらいの威圧感を感じる。


「もうひとつ。魔術を新たに想像した場合、魔術の規模に関わらず、使用前に必ず儂かシズカやユリカの許可を取ることを厳命する。これを破った場合も入門の取り消し、及び破門とする。よいな」

「はいぃぃぃ!」


……こ、怖い。これはシズカさん以上だよ。

これが師範代の本気モードなんだね。武術界の重鎮って言われても素直に納得するよ。


「……厳しい話は以上じゃ。儂は2階に戻って稽古をしておる、何かあれば聞きに来なさい。後は休んで、落ち着いたら好きに帰りなさい」

「はい!」


師範代は2階に戻っていった。

……はぁーーー、怖かったよーーー。

シズカさんはもちろんだけど、師範代にも絶対に逆らわないようにしよう。

……うん、緊張から解放された今こそ、さっちゃんに癒されたい!


「怖かったねー、さっちゃ……え?」


さっちゃんが泣いてる。

今まで見たことがないくらい号泣してる。

口に手を当てて、声を押さえて泣いてる。

身体を震わせて、全身で泣いてる。


「さっちゃん! どうしたの!?」

「ア、アリ、ア、ちゃんが、し、死んでるって……、ッ……に、に、2回も、死ん、でるって……」

「だ、大丈夫だよ! ほら! 今はなんともないよ!」

「無理、しないで、って……なんども、言った……のに……なん、で……なんで、なんでっ!?」

「もう無理しないよ! 絶対に! さっちゃんとずっと一緒にいるから!」


とにかく抱きしめる!

抱きしめて、謝って、安心させる!


「ゴメンねさっちゃん。もう絶対に危険のことをしないよ。魔術も剣術も、全部師範代の言いつけを守るよ。さっちゃんと一緒に地道に強くなる。だから大丈夫、ずっと一緒にいるから、ね!」

「……アリアちゃんを、守る……。私が、アリアちゃんを守る……。アリアちゃんを守る、アリアちゃんを守る、アリアちゃんを守る、アリアちゃんを守る、アリアちゃんを……、……、……、……」


ダメだ! さっちゃんが壊れちゃったよ! ど、どうしよう!?

永遠のフィリアンシェヌ ~わたしと私の物語~

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