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坂田銀にゃん
26
花梨
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哀雷🥀
356
# 第1章:天国からのバンジージャンプ(後編・前編)
「脈、ありません! 心停止!」
「救急隊、早く担架を!……いや、もう、これは……」
救急隊員や機動隊の同僚たちの、絶望に満ちた声が飛び交う。
地面に横たえられた松田の肉体は、防護服越しでもわかるほどにボロボロだった。爆風による全身の骨折、そして衣服を焦がす熱傷。心電図のモニターは、非情なフラットの平坦な線を刻み続けている。
美和子はボロボロのサングラスを握りしめたまま、松田の傍らに膝をついた。
「嘘……嘘でしょ、松田……目を開けてよ! 終わってない、まだ何も始まってないじゃない!!」
その時、松田の魂が天国から墜落し、肉体へと「衝突」した。
凄まじい衝撃。魂が肉体という器に閉じ込められた瞬間、松田を襲ったのは【完全な暗闇】だった。
視覚はない。聴覚もない。匂いもしない。ただ、自分の身体が信じられないほど「重い鉄の塊」になって底なしの泥に沈んでいくような、圧倒的な閉塞感。
(あ……クソ、何も見えねぇ、聞こえねぇ……身体が動かねぇ……)
死の世界から引き戻された肉体は、まだ機能を開始していない。五感が完全に遮断された暗闇の中で、松田の意識は再び漆黒の底へ溺れかけていた。
だが、その暗闇の鼓膜に、微かな、しかし絶対に聞き間違えない「振動」が届く。
――松田!!!
美和子の声だ。魂の奥底を激しく揺さぶるような、必死の叫び。
その瞬間、松田の止まっていた心臓が、ドクン、と猛烈な一撃を刻んだ。
脳に電気が走る。遮断されていた神経が、一気につなぎ合わされる。
「みわ……こ……」
松田の唇が、かすかに動いた。
「え……?」
美和子は息を呑んだ。確かに、今、自分の名前を呼ばれた気がした。
「今、松田が……!」
しかし、隣にいた隊員が悲しげに美和子の肩を掴む。
「佐藤さん、落ち着いてください。……幻聴です。彼はもう……」
「違う! 確かに動いたのよ! 松田!! 起きなさいよ松田ァーーーッ!!!」
# 第1章:天国からのバンジージャンプ(結)
周囲が「諦め」の空気に包まれ、美和子が絶望に唇を噛み締めた、その次の瞬間だった。
ピ――ピ――ピピピピピピピピピピピピピ!!!!
狂ったように鳴り響く心電図の警告音。
蘇生措置も受けていない遺体が、突如としてビクンと跳ね起きるように震えた。
そして。
「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!区域外まで響く勢いで叫び散らすッ!!!!」
東都水族館の全域、いや、誇張抜きで「ブラジルの裏側」まで届きそうな、大気圏を突き抜けるほどの規格外の大絶叫が炸裂した。
「痛い!痛い痛い痛い!全身クソ痛ぇ!!骨折れてる!火傷熱い!つーか萩原の野郎マジで力任せに押し出しやがって腰やったわクソがぁぁぁ!!おま、救急車ぁぁぁ!早くしろ!!死ぬ!痛くて死ぬ!!!」
五感が戻った瞬間、全身の骨折と火傷の激痛が一気に脳に押し寄せたのだ。
あまりの痛さに、松田は涙目で地の果てまで届きそうな声を張り上げ、五条大橋の弁慶ばりにのたうち回っている。
「「「「「………………」」」」」
周囲の機動隊員、救急隊員、そして佐藤美和子の動きが、完全にピタリと止まった。
さっきまでの、映画のクライマックスのような涙と感動のシリアスな空気は、どこか遠い宇宙へと吹き飛んでいた。
美和子は、ヒビの入ったサングラスを握りしめたまま、完全にポカンとした顔で松田を見つめている。涙は一瞬で引っ込み、代わりに引きつった笑いが頬に浮かぶ。
「い、生きてる……生きてるけど……うるさい!!!松田っ!!!」
コメント
1件
いやもう、第2話でこの温度差を持ってくるとは思いませんでした……! 美和子の「松田!!」って魂の叫びで心臓が動き出す瞬間、ゾッとすると同時にじんときました。そこからの「いってぇぇぇ!!」での大ギャグ転換、笑いと涙が同時に来て忙しいです。シリアスからコメディへの振り幅が気持ちよくて、読み終えたあと変な顔でにやけてました。続きが気になります!