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夕食を食べ終え、バルコニーに置かれた二人掛けのソファに座っていた。昼間の海は太陽の光を受けて輝いていたが、今は月明かりが反射して、ほんのりと輝きを放っている。

恭介の足に挟まれるように腰を下ろし、彼の胸に体を預けていた。包み込まれる温もりに、眠くなるほどの安心感を覚える。

「私ね、旅行とかほとんど行ったことがないの。一人で日帰り旅とかはしたけど」

「そういえばアメリカも一人で行ったんだろ? 海外に一人で行くってすごい勇気だと思うけど」

「まぁね。でも一花の家に泊めてもらったし、一人だったのは飛行機だけかな」

滞在したのは三日だったが、初めての海外にワクワクした。その時、自分が旅好きなのかもしれないと思ったが、重い腰が上がらず、なかなか行動には移せなかった。

「だからね、今日はすごく楽しいよ。二人で車で目的地に向かうのも初めてなら、助手席も初めて乗ったの。でも旅行なのに、ホテルから一歩も出られていないことには不満もあるけど」

「ま、まぁまぁ、明日もあるしさ! 今日はゆっくりしようよ」

「……仕方ないなぁ」

恭介は智絵里の体に腕を回して優しく抱きしめる。首にキスをしてから、智絵里の匂いを吸い込むと、脳裏に懐かしい記憶が蘇る。

「……ちょっと昔話してもいい?」

「うん……なんか今日はこんな話ばかりだね」

それだけ智絵里との思い出はたくさんあるんだ。親友だったのは一年半なのに、学生生活の中であの頃が一番輝いてる。

「高三の夏休みだったかなぁ……部活を引退した次の日に智絵里の家に行ったよね」

「……そうだったっけ?」

「うん。二人で宿題しながら、なんか俺は達成感と喪失感が半々くらいで存在しててさ、なかなかやる気が起きなかったんだ」

六年間ずっとサッカーを続けてきた。だから生活の一部がなくなってしまったような気持ちになった。

「智絵里がさ、雲井さんと一緒に作ったってチーズケーキを出してくれて。そしたら肩を抱いて『明日は何する?』って言ってくれたんだ。引退して感じた喪失感を、智絵里がすぐに埋めてくれた」

その言葉を聞いて思わず笑ったのを覚えてる。『なんだよ、それ』って言いながら、すごく満たされたんだ。

「高二の夏に、二人でいろいろ出かけただろ? 最初はズケズケ物を言うし、何が高嶺の花だよって思ったけど、だから俺も思ったことを素直に言えてさ、すごく楽だった」

「そうだね……私もだよ。真っ直ぐ思ったことを口にする恭介だから信頼出来たし、一緒にいることを『嫌じゃない』って思えたの」

学生時代の恭介の口癖を言ったものだから、懐かしくて二人は笑い合う。

智絵里の匂いとともに、いくつもの記憶が呼び戻されてくる。

「智絵里ってば、動物園では小獣館に時間を割くし、水族館では巨大魚ばっかり見てるし、遊園地ではジェットコースターに連続で乗ってからのお化け屋敷。本当におまえといると飽きないんだよ」

「……半分悪口に聞こえるのは私の勘違い?」

「当たり前だろ。そこがかわいいって言ってんの」

「……物好きめ……」

「そうだよ。智絵里がくれる刺激がクセになっちゃってるからね。もう智絵里じゃないと満足出来なくなってる」

すると智絵里は急に立ち上がり、振り返ると恭介の足に|跨《またが》るように座ると、彼の首に両手を回して抱きつく。

恭介はクスクス笑いながら智絵里の体を抱きしめた。

「智絵里ってば、かなり喜んでる?」

「……うるさい……」

あの頃はこんなにかわいい智絵里に気付かなかった。どちらかといえば同志のような存在だった。俺も子どもだったんだろうな……。

恭介は智絵里の体を離すと、髪の中に指を滑り込ませる。

君のそばが一番安心出来るということだけは、あの頃も今も変わることのない事実だった。

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