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え!?
「な、なにを言ってるんだ?」
「姫様?」
カーディナル皇太子殿下も侍女さんもなにも聞かされていなかったんだろう。
ふたりとも大慌てだ。
わたしまで心臓がバクバクする。
「パナシェ姫、どうかされたんですか?」
わたしはパナシェ姫にその言葉を放ってから、あることを思い出した。
カーディナル皇太子殿下の使者としてガフ領に手紙を持ってきたトム殿にクリス殿下が話されていたこと。
それは、クリス殿下が次にカーディナル皇太子殿下に会えたら謝ると話していた。
悪いことではないけど、カーディナル皇太子殿下が怒ること。
そして、今日のパナシェ姫の話と行動とがやっと繋がったのだ。
パナシェ姫はキール様のそばに居たいんだ!!
口にして良いのか憚れる。
開いている扉の外で待機していたキール様に救難の視線を送る。
キール様は部屋の外にいて、わたしの視線には気づかず、カーディナル皇太子殿下と一緒に来られた側近の方たちと談笑をされていて、いま中で起こっていることにも気づいていないようだ。
「パナシェ、理由を聞いても?」
カーディナル皇太子殿下が悲しそうに訳を尋ねた。
「あと1か月だけ…」
パナシェ姫が声を絞り出すような小さな声でひと言。
わたしは懸命にキール様に視線を送り続ける。
先にカーディナル皇太子殿下の側近の方が気づいてくれて、キール様に伝えてくれた。
そして、ようやくキール様と目が合った。
そっと手振りでパナシェ姫とカーディナル皇太子殿下を指し、ふたりの異変を知らせる。
優秀なキール様のことだ。
きっとそれだけで察することができる人だ。
部屋の中を覗き、異変を理解したキール様の表情がきゅっと引き締まった。
「お話し中、失礼します」
キール様が真っ直ぐにカーディナル皇太子殿下を見据え、入室される。
キール様に声を掛けそうになるパナシェ姫を手で静止し、優しく微笑まれた。
「キール殿、どうされた?」
「昨夜、パナシェ姫からご相談を頂いていたのですが、お伝えすることが遅くなって申し訳ありません。学園の卒業式の前に仲の良いご学友と思い出作りのお出かけのお約束をされていたことを忘れておられたようでして、卒業式まではニコラシカに残られたいとのことでした」
「パナシェ、そうなのか?」
パナシェ姫が不安そうにキール様を一瞬見てから、頷く。
「そうなんです。だから、あと1か月だけニコラシカにいさせてください」
カーディナル皇太子殿下が腕組みをして天を仰ぎながら、何かを考えておられる。
「わかった。その方が良いだろう。友達は大事にしなさい」
カーディナル皇太子殿下がパナシェ姫に微笑まれ、部屋中が安堵の空気に包まれた。
「ありがとうございます。必ず、一度はマッキノンに帰ります」
カーディナル皇太子殿下が苦笑いしながら大きく頷かれた。
「では、俺達のお見送りをしてくれるかな?」
「もちろんです!」
急に元気になったパナシェ姫に侍女さんは必死で笑いを堪えている。
カーディナル皇太子殿下も察したのだろう。
「「一度は…」か。俺は妹に甘過ぎる」
部屋を後にされる時にボソッとボヤかれた。
わたしもパナシェ姫の用意が整ったので、退出させて頂く。
扉の外で立っていたキール様に声を掛けようとして、ほぼ同時だった。
「「共同墓地に…」」
思わず、お互いが目を大きくした。
「「あははは!!!」」
ふたりして、声をあげて笑ってしまった。
「3人でまた共同墓地に集合したいんだけど。相談したいことがあるんだ。俺達はまだ「同士」だよな」
「いまでもわたしも僭越ながらそう思っています。作戦会議をしましょう。わたしも集合したかったんです」
そして、ふたり同時に同じ人の顔を思い浮かべた。
「クリス殿下は今後どうするんだろう?」
「さあ?わたしはなにも」
「なにも聞かされていないのか?」
「なにも」
キール様が頭を抱えてしゃがみ込んだ。
「やっぱり、俺がそばにいた方が良さそうだ」
キール様もいろいろ大変そうだ。