〜冬磨〜 某大学。ここでは最近、奇妙な事件について噂になっている。なんでも連続殺人事件なんてのが流行っているらしい。そして被害者全員、妙な死に方をしている。詳細は分かっていない。洒落にならない。そんなことを考えながら帰りに向かっている俺は雛乃冬磨。えっと……趣味はスポーツ……。今でも色々とやっている。事件に興味はなかったが、聞いてしまうと無視できない。何が起こったのか調べてみよう。図書室でパソコンを開く。ふと横に見えたのは見覚えのある背中。
「……」
「……」
その青いつり目。黒髪ストレート。そして何よりこの寡黙さ。間違いない。
「粋雪さん?」
思わず呼び止める。ナンパでもされたかのような警戒ぶり。小柄な体がぴくんと跳ね、おそるおそるといった様子で振り返ってきた。
「冬磨さん!」
中学の時に知り合った白銀粋雪さんだ。同じ学校ではなかったが、同じ塾に行っていて、仲良くさせてもらっていた。短大を卒業して去年から働いていると聞いていたが。とりあえず席に着いた。しばらくすると話しかけられた。
「あ、あの……塾以来……だね……」
「久しぶり」
数年振りの会話……。何故この大学の図書室に来たのか。何やら事情があるようだ。
「冬磨さんも事件を調べているの?」
「まあな」
まさかの目的一致。一緒に帰ることになった。昔からだったが彼女の方から話しかけてくることはない。最寄りを降りてしばらく歩いていると遠くでサイレンが聞こえる。何やら辺りが騒がしくなってきた。自分の家の方からだ。考える前に駆け上がってしまう。なんてことだ。野次馬と警察が集まっている。事件が起こっている。人がおっ死んでいるようだ。粋雪さんの手を引きながら水泳の如く人ゴミをかき分けていく。顔が見えた。やはり近所の人だ。親しかったわけではないが、ショックである。粋雪さんがテープから体を乗り出している。怖くないのか。
「あそこ見て」
指が一本被害者の足元に向く。顔ばかり見ていて気づかなかったが足が焼け爛れている。足元には鉄の靴。そして……本。白雪姫の本だ。
「これって……まさか……確かに白雪姫みたいだとは思ったけど……」
久しぶりに粋雪さんから話を切り出された。どこで鉄の靴と白雪姫がくっついたのか。
「え? ど、どんな話だっけ?」
そしてスマホで電子書籍を立ち上げながら話は始まった。
〜粋雪〜
冬磨さんに伝えないと。白雪姫はある国の妃が娘を産んですぐに亡くなってしまうところから幕を開ける。次の妃は美しかったが、決して良い妃ではなかった。妃は魔法の鏡に美しさを確認していた。かつては妃が一番と言っていたその鏡は白雪姫が七歳になってからは白雪姫が一番というようになったの。それにメッチャ怒った妃は狩人に白雪姫を森で殺して証拠に血をとってくるように命じた。それでも狩人は白雪姫を逃して代わりにイノシシの血を持って行った。
「よく考えたら自分より美しいから殺そうとするって恐ろしいね……」
感想を聞きながら話を続ける。そして妃に生きていることがバレるのにそう時間はかからなかった。
鏡よ鏡ry
白雪姫ry
実は白雪姫は小人と生活をしていたことを鏡に告げられる。
「律儀に場所まで……」
何故、言ってしまうのか。そして妃は姿を変えてしめ紐を売ってしめ殺そうとしたり、毒を塗った櫛で刺し殺そうとするも、小人たちのお陰で未遂に終わる。
「小人たちナイス」
そして最終手段として妃は半分だけ毒を塗ったリンゴを持って白雪姫の元へ向かった。もう流石に信じられないという白雪姫に妃は毒がない方を食べてみせた。それで信じた白雪姫は毒がある方を食べて倒れてしまった。
「白雪姫マジ危機意識」
それで小人たちが棺に白雪姫を入れて運んでいると、ある王子に出会い、棺の中の姫に一目惚れして欲しいと懇願してくる。
「ちなみに白雪姫はまだ一〇才にもなってない」
「一〇才の女の子の死体、欲しいって……ロリコンで、ネクロフィリアなんだな!」
「王子に変な設定つけないで! 生きてるおじいちゃんもイケたかもしれないじゃん!」
「これ以上、王子の癖、壊すな」
「結局、小人たちは姫を渡すのよね」
「何で?」
「それで王子の家来が棺運んでたら転んじゃって、その反動でリンゴを吐き出せた白雪姫が生き返るのよ」
「何で?」
「姫が目を覚まして早々、王子はプロポーズするし」
「何で?」
「何やかんや承知した姫は見事、王子と式を挙げることになった」
「何で?」
そしてその式に何故か呼ばれた妃は真っ赤に熱された鉄靴で死ぬまで踊らされた……というのが白雪姫の物語。
〜冬磨〜
「原作、怖すぎる」
個人的にこれが話を聞いた第一の感想だ。
「童話って元は結構エグいシーンとか多いからね。やっぱり何か関係あるんだよ。実際、こうやって本もあるわけだし」
そんなバカなと笑い飛ばせない。
「うーん……ありえる」
この事件、何かありそうだ。というかこの落ちている本……どこのだ? 目を凝らす。なんとなく見えてきた。『梶ノ木図書館』。被害者はこの梶ノ木図書館で本を借りていたらしい。
「粋雪さん、梶ノ木図書館って知ってる?」
「ううん。冬磨さんも知らないのね」
どうやら梶ノ木図書館に何かあるようだ。行って話を聞く必要がある。まあ違ったら違ったでいい。後で謝ろう。まさかかつて一緒に塾に通っていた人とこんな形で再会するとは思わなかった。最早、今日なんとなく興味を持って調べ始めただけの人間が首を突っ込んでいい話でもない気がしてきたが、一緒に真実を突き止めよう。
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