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そこには同情も、軽蔑も、驚きさえない。
ただ、鏡のように私の絶望を反射しているだけだった。
「〝お前も私と同じ、愛を葬り去る側の人間なのだよ〟…確か、そう囁かれたのでしたね?」
「……そこまで、調べたの?」
乾いた声が出た。
隠していた醜い傷口を、鋭利なメスで丁寧に開かれたような感覚。
けれど、不思議と怒りは湧かなかった。
むしろ、この世で最も残酷な真実を
同じく普通の人間とはかけ離れた男と共有している事実に、歪んだ安堵さえ覚えていた。
「ええ。貴方の父君が貴方に教え込んだ『愛は人を殺し自分を壊すための最も効率的な凶器だ』という教訓。私にとっては、これ以上なく信頼に足る情報でした。愛などという不確かなものを信じない貴方だからこそ、私はこうして背中を預けている」
アルベルトは、掬い上げていた顎から、ゆっくりと首筋へ、そして私の喉元へと指を滑らせる。
その動きは、先ほど彼が遺体の関節を外していたときの、あの機能的で合理的な手つきと全く同じだった。
「貴方は母を殺したのではない。ただ、怪物に慣らされただけだ。……そしてこれからは、その役割を私が引き継ぐ。エカテリーナ、貴方のこと、すべて私の檻の中で管理してあげましょうか?」
彼の瞳に、澱のような暗い熱が灯る。
それは支配欲とも、あるいは彼なりの救済とも取れる、恐ろしく甘美な光だった。
「…………ふっ、面白いジョークね。アルベルト、貴方の方が怪物でしょ?」
私は努めて冷ややかに笑い、彼の指を振り払った。
私を管理するなど、誰にも許さない。
ましてや、この底の知れない男にだけは。
「おやおや、失礼ですね」
彼は小さく肩をすくめたが、首筋に残った彼の指の冷たさが、毒のように全身へ回っていくのを感じていた。
私たちは共犯者。
お互いの現状といういつ崩れるか分からない地獄を分かち合い、もう誰も信じられない孤独な玉座に、二人で並んで座ってしまったのだ。
「話が逸れてしまいましたが、貴方の父君はまだご健在でしょう」
「そうだけど、私はあくまでも共犯者。それにあんな父親殺す価値もないわ。……関わるだけ時間の無駄よ」
「そうですか……まあ、気が変わったらいつでもお声がけください。掃除は、得意分野ですから」
バーの淡い光の中、私たちは今宵、二人きりの王となって密やかな祝杯を交わす。
窓の外では新しい一日が始まろうとしているが、私たちの舞台は、永遠に夜の中。
朝日がすべてを照らし出しても、私たちの影だけは決して消えることはない。