テラーノベル
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ひとつの娯楽として創作した怪談夜話を、おもしろ半分に流行らせた人間たち。
人から人へ、恐怖心は見る間に伝播を果たし、心ならずも生を受けてしまった妖怪たち。
習性に従い闇に向かう者がいる一方で、彼女の御先祖さまのように、日陰でひっそりと暮らす者もいた。
「ご先祖さまの受けた呪いが、子々孫々……、 末裔の貴女にまで及んでしまったと、こういう事ですね?」
「はい………」
身に覚えのない事で、何十年・何百年と後ろ指を差され続ける恐ろしさとは、いったいどれほどのものだろう。
彼女らは“呪い”と言った。
まさにその通りだ。
それは紛れもなく、呪縛そのものじゃないか。
「………………」
先まで気丈に振る舞っていた童女が、今はさめざめと泣いている。
拭っても拭っても、後から引っきりなしに溢れてくる涙と、切ない格闘を続けている。
妖怪を生み出した人間と、人間によって生み出された妖怪。
私的には、どちらか一方に、安易に与するのは憚られる。
人間の味方をすれば、それは単に立場に則した惰性でしかないし、妖怪の味方をすれば、それは単なる肩入れでしかない。
けれども、こうして“被害者”が目の前にいる以上、心の天秤がどちらに傾いているかと言えば。
「それで、今になってお山を下りた理由は何です?」
「え………?」
「どうして今? 私たちは、ずっと高羽に居ましたよ」
友人の問いに、童女は「殺生石……」と、か細い声で応じた。
殺生石。
かの巨石が数年前に割れた旨を指しているのだろうと、すぐに見当がついた。
当時のネットの声を思い返す。
“九尾狐が解き放たれた”
“九尾狐の呪いが消えた”
憶測は多々あったが、こうした声が特に大きかった気がする。
後者が言う“呪い”の本質は別にせよ、何れも“解放”に関する事柄だった。
「それである程度、自由に動き回れるようになったと?」
「はい………」
殺生石の件については、友人のお母さんが何らかの形で関与している風な事を、あの御社で話しているのを聞いた。
娘として、何を思うのかは知れない。
思い余って後頭部をガリガリとやった彼女は、やがて心を落ち着けるように息をついた。
「つまり、お願いってのはあれですね? 呪いを解いて欲しいっていう」
「はい………。 我ら一族の、悲願なれば」
「なにとぞ、お取次ぎの程を……!」
そろって深々と頭を下げる二名の姿を受け、友人は俄かにたじろいだ。
元来、崇め奉られる事に慣れておらず、こうした繊細な物事にも不向きな彼女である。
「分かりました。 分かりましたから、お手を。 それに、呪いなら私でも解けますから」
「………御神子さまが?」
「えぇ、それにはまず───」
以前、同様の処置について訊ねたことがある。
つまりは、呪いの解き方についてだ。
「まず、私を一発シバいてください」
「は………?」
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