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ここまで気が狂うなんて思わなかった。
それは一体誰のせいか。……わかりきってる、自明の問いだ。他でもない自分のせい。長い時間をかけて育った孤独が暴れ出したんだ。
「寂しいなんて思ったことない。秦城に会うまでは独りが好きだったんだ」
そして全く変わらない、成長しない。未だにこんな強がりを吐く、この口が嫌いだ。
俺達は変わった。歳も立場も、関係も、名前すらも。彼はともかく、俺はさらに弱くなった。
馬鹿みたいに涙脆い眼も、覇気のない声も、本当に嫌になる。もし生まれ変わることができたらもっと男らしくなりたい。
強くなりたい。
迷惑をかけると思う。人に自慢できるような人生は歩めないと思う。
「独りが好きって思ってたのに……秦城に会ったら、そう思えなくなっちゃった。おかしいな……」
それでも今は、逃げるのをやめよう。
「おかしくない。それが普通だよ。誰だって独りは嫌だ」
どうせ逃がしてもらえない。重なった足元の影を見て確信した。
「辛いけど、今のお前は俺がいる。大丈夫だよ……今度こそ」
涙を隠すように顔を手で覆った匡を、清心は抱き締める。それはほんの少しの時間だったが、二人にとっては十年の空白を埋めるような時間だった。
「ははっ……秦城、最近は俺みたいになってる。現実と向こうで、二人に分裂してるよ。気付いてる?」
「あ……やっぱりそうなのか。俺、自分にそっくりな人を見かけて焦ってたんだ」
清心の言葉を聴き、匡はひとつの推測を上げた。
恐らく、この世界に来ているのは精神だけ。肉体は常に現実に残っている。そしてこちらの世界に留まり続けると、もう片方が実体を持ってしまう。
匡は精神だけこちらに来た。現実に取り残された肉体だけの自分は、抜け殻のよう毎日を生きてしまっている。
「どちらか一方に留まるのは、無理な話なんだろうね。俺達は死んだわけじゃない。二つの世界のバランスから、どちらにも存在しなきゃいけなかった。きっと皆、気付いてないだけでこの世界を持ってる」
十という単語。十字路が関係したのは何故か分からないけど、と付け足した。