テラーノベル
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4話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
パーティーの喧騒が一瞬、静まり返った。
会場のライトが正面の壇上を照らし、そこに立つひとりの男に視線が集まる。
キヨだった。
普段の軽口やいたずらっぽい笑みはそこになく、まるで別人のように凛としていて――
赤いスーツを纏った彼は、まるで舞台の主役のように輝いていた。
『えー、本日はお忙しい中、こんなにたくさんの方にお越しいただきありがとうございます』
穏やかな声。落ち着いたトーン。
それだけで、レトルトの胸がきゅっと締め付けられた。
(……キヨくん、なんか……かっこよすぎる……)
いつものような飄々とした雰囲気は影を潜め、きちんと姿勢を正して話すキヨに、
レトルトの目は釘付けになっていた。
周囲の声も、グラスの音も、なにも聞こえない。
キヨの声だけが、真っすぐに胸に届いてくる。
『今日という日が迎えられたのは、本当にいろんな人のおかげです。
それぞれに感謝を伝えたいけど……中でも、“特別な存在”にだけは……今この場で、ちょっとだけ、言わせてください』
会場がざわめいた。
その空気に、レトルトの心臓が跳ねる。
“特別な存在”――?
『…名前は出しませんが。
いつもそばにいてくれて、僕のどうしようもないところも笑って受け止めてくれて……
ちょっと照れくさくて、まだうまく言えないけど……この場に来てくれたこと、本当に、嬉しかったです』
ドクン――。
レトルトの心臓が、強く打った。
(……え、これって……)
気づけば、頬が熱い。
思わずうつむくと、視界の端でうっしーが「……ほぉ」と小さく口元を歪めて笑っていた。
やめて、ばれる、そんな目で見ないで……!
レトルトはひたすら、顔の火照りをごまかすように水を口に含んだ。
』……というわけで、皆さん。どうか最後まで楽しんでいってください。
本日は本当に、ありがとうございました』
スピーチが終わると、会場は拍手に包まれた。
でも、レトルトにはそれすら遠く感じる。
ただ、キヨが視線をこちらに向けて、微かに――ほんの微かに、笑った気がした。
(……気のせい、じゃないよね?)
鼓動は収まらないまま、レトルトはそっと唇を噛んだ。
スピーチが終わり、会場が再びにぎやかさを取り戻す。
グラスを片手に笑い合う人々の中、レトルトは自分の頬がまだ熱を持ったままであることに気づいていた。
隣でうっしーが、ニヤニヤと笑いながら視線を向けてくる。
「……おいレトルト。真っ赤じゃん笑」
「う、うるさいな……!」
思わず顔を覆ったレトルトの手を、うっしーが軽くどかす。
「で? あれ、完全に“お前”の話だったよな」
「ち、ちがっ……断定するなよ……」
「へぇ〜? でもタイミングも目線もドンピシャだったけどなぁ〜?」
「うるさいうるさいうるさい!!」
ますます顔が熱くなる。
ただでさえスーツなんて慣れない格好をしている上に、こんな視線の集まる場所であんなスピーチするなんて。
「でさ、なに? “かっこいい……”とか思っちゃったわけ? ドキドキしちゃったわけ?」
「う、思ってないし!」
「ふーん? 目ぇ泳いでるぞ?」
ニヤニヤが止まらないうっしー。
レトルトは俯いたまま、飲み物をグラスごと口に運ぶ。
「……やっぱ、レトルトって分かりやすいなー。あのスピーチの間、ずっと目離せなかったもんな。
顔とろけてたぞ?」
「う、うっさい、ほんとに……!」
照れ隠しに背中をパンッと叩くレトルト。
でも、うっしーは悪びれもせず、むしろ得意げに笑うばかり。
——だけどその笑顔の裏には、
“幸せでよかったな”って、どこか安心したような気配も、確かにあった。
「俺ちょっと飲み物取ってくるわ。すぐ戻るからちょっと待っとけ 」
そう言い残して、うっしーは人混みに消えていった。
にぎやかな会場のざわめきの中にぽつんと取り残されるレトルト。
気まずさと照れが残る身体を持て余して、手元のグラスを見つめていた。
——そこへ、不意に声が落ちてくる。
『……レトさん』
振り向くと、目の前にはキヨがいた。
さっき壇上にいたときと同じ、ピシッとしたパーティースタイル。
けれどその横に、もうひとり、妙にキヨに近い距離感で立つ男がいた。
『この人、紹介するね』
キヨは自然な調子で言った。
『大学の同期で、P-Pっていうんだ。ゲーム作ってて。
今度、一緒に新しいアプリ作ることになったんだよ』
「そ、そうなんだ….」
「あっ、どうも。P-Pです。初めまして」
丁寧だけど、どこか余裕のある口調。
差し出された手はあたたかく、指先まで手入れが行き届いていた。
「レトルト……です。初めまして」
キヨとその男——P-Pの距離の近さがやたらと目に入ってしまう。
「僕たち、学生のときからずっと組んでてさ。
今度のアプリも、キヨくんのアイデアをほとんど僕が形にすることになってる。
まぁ、もう長いからね、こういうの。お互い、言葉にしなくても分かるし」
そう言って、P-Pは軽くキヨの背を叩く。
“ただの仕事仲間”の距離感ではなかった。
『P-Pは俺のアイデアをめちゃくちゃ形にしてくれる奴でさ。
俺、表に立つけど……裏で支えてくれるのがこいつって感じ』
レトルトの胸の奥で、小さなモヤがふつふつと湧いてくる。
(“支えてくれる”……? なにその、特別な感じ……)
気づけば、P-Pとキヨの横顔を交互に見つめてしまっていた。
2人の間に流れる、長い付き合いにしか出せない空気感。
その温度に、レトルトはひそかに息苦しさを覚えていた。
P-Pはグラスを手にしながら、軽やかに微笑んだ。
「……じゃあ、僕もちょっと挨拶回りしてくるよ。」
そう言って、軽やかな足取りで人混みに紛れていった。
気づけば、キヨとレトルトの二人きり。
さっきまで人の視線に気を取られていた空間が、急に濃密になる。
レトルトは胸の奥のざわつきを、顔に出さないように努めた。
キヨの隣にいた男──P-Pのことが、妙にきになる。
ただの同期?それとも、それ以上に分かり合ってる“何か”があるんじゃないか──
そんな考えが、頭を離れなかった。
だけど、それを悟られたくなくて、曖昧な笑みを浮かべた。
「キヨくん、スピーチ凄くかっこよかったよ。俺、見惚れちゃったよ」
返事はない。
代わりに、鋭く刺さるような視線を感じて、レトルトはビクッと震えた。
──目が、変わっていた。
さっきスピーチしてたときの、堂々としてキラキラしていたキヨの目じゃない。
もっと深くて、じっとりと熱い。
確かな“怒り”と“欲”が宿っていた。
『……レトさん』
囁くように、低い声。
人混みの中なのに、まるで二人だけの世界に閉じ込められたような感覚になる。
『うっしーと随分楽しそうに話してたな。エスコートまでされていい気分だった?』
「え….?」
『今日、パーティーが終わったら……レトさんの家に行くから』
言葉の意味を理解する前に、キヨの顔がぐっと近づいた。
耳元、ほんの少しの距離で。
「──今夜は、抱くから」
吐息がかかるほどの距離で囁かれ、レトルトは背筋を震わせた。
鼓動が一気に跳ね上がる。
返事なんてできるわけもなく、ただ顔が真っ赤になってうつむくしかなかった。
キヨはそんなレトルトをじっと見下ろしながら、満足げに、笑った。
つづく
コメント
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あはぁぁぁぁぁ!!抱く宣言あざます!