轟音が響く。
大地が揺れる。
大地に僅かな亀裂が走る。
発生点はただ1点。
闘争心を焦がすような赤と銀の斧。
斧の持ち主は、額の汗を拭う。
アマラ「ここからはお前の仕事だぞ。アリィ。」
アリィ「最初は砂煙を上げるだけ?って思ってたけど…こりゃ凄いね。100%の出力しか出来ないって事だったんだ。」
アマラ「無駄口を叩くってことは、期待してもいいんだな?」
アリィ「仕込み済みだよ。城にも戻れない。アマラ、後何回行ける?」
アマラ「2回だ。」
アリィ「別地点にも1ヶ所やりに行こう。」
アマラ「任された。なぁ無駄口を叩いてもいいんだろ?」
アリィ「どうぞ。」
アマラ「お前はどうしてそんなに怯えてるんだ?”自分”に。」
アリィの足がピタリと止まる。
アマラ「ずっと気になってたんだ。」
アリィ「私が私に?」
アマラ「ああ。本当は本人に聞きたかったんだがな。」
アリィ「……。」
アマラ「お前、誰だ?」
アリィ「…はぁ、驚いた。我には気づいたのはお前が初めてだ。」
アマラ「別に取って食おうって訳じゃない。ただ、気になっただけだ。」
アリィ「…知識意欲があるのは、素晴らしいことだが…何でもかんでも得ようとすれば、身を滅ぼすぞ。」
アマラ「知識に殺されるだなんて素敵だな。足を止めてていいのか?アイツが忍び込めるように、もう少し時間を稼がないと…」
アリィ「問題ない。支障のないレベルだ。銀の童のことだろう?心配しないでよい。それより、お前は自分の心配をした方がいい。」
アマラ「……。」
アリィ「我がこうして表に立ったのは、お前のためでもある。これ以上、余計なことに首を突っ込むな、赤の童。」
アマラ「いや、童って…」
アリィ「我からしたら、皆童だ。警告はした。我はもう戻る。」
アマラ「名前は?」
アリィ「…はぁ…。命知らずめ。そうだな、偽名でも構わないなら…”アノ”と名乗っておこう。」
アマラ「アノ…か。覚えた、またな。」
アノ「またが長いことを願おう。この娘に余計なことを吹き込むでない。」
アマラ「へーい。」
アノと名乗ったアリィの肉体は瞼を閉じる。再び、瞼を開けると肉体は歩き出した。
アマラ「動くならせめて一言、言ってくれよアリィ〜。」
アマラが慌てて、アリィを追いかけてゆく。
ー決行日当日、第一段階成功
慌ただしい足音が鳴る。
「なぁ、今のって地震か…?」
「いや、暴動って聞いたが…」
「おい馬鹿共!なんでこんな所で突っ立ってんだ!さっきの騒ぎで、あっちこっちの壁がダメになってる!早く民間人の避難誘導にあたれ!」
「やべっ!」
「悪魔じゃありませんように、悪魔じゃありませんように…!」
焦燥の入った罵声が飛び交う。
ジーク「思っていたよりは、簡単に入れたな。」
潜入にしたジークは小さく、そう呟く。
ジーク(…頭の中に、城の地図は入ってる。どうしてあんなにコフリーが詳しかったのかは、不思議だが…)
ジーク「…今はそれを考える時間じゃない。行くか。」
草木に身を隠し、正門を見つめる。
ジーク(兵士の出入りは正門から…ここは無理だな。もとより、ここから入るつもりはないが。)
ジークは振り返り、二階の窓までそびえ立つような高さの木を見上げる。
ジーク「見栄だけじゃなく、実際に役立ってくれるとは。」
慣れた手つきで、木に登る。
ジーク(散々、自国で木登りはしてたからな。この背の低さなら余裕だ。後は窓が空いてるかどうか…。)
ジークは、コフリーとの会話を思い出す。
コフリー「この潜入作戦なんだが、時間が限られてくる。」
アマラ「というと?」
コフリー「まずは正門は無理だ。兵士の出入口にも使われるからな。そうなってくると、現実的なのは窓からになる。」
ジーク「換気の時間を狙うってことか?」
コフリー「ああ、ずっと窓を閉じたままでは不衛生だからな。必ず換気は行われる。…恐らくは昼時に行われると思う。」
ジーク「自信はなさげだったけどなっ…!」
木に登る前に拾った小石を窓に向かって投げる。
ジーク「…当たった音はなし。」
(後は距離の問題…。)
ジーク「よっ…と。」
取っ掛りの付いたロープを窓に投げ入れ、引っかかっているか数回引き、確認をする。
ジーク「アリィと旅をするようになってから、使ってなかったけどいけそうだ。」
ジーク「ふっ…!」
ロープを伝い、窓から城に侵入する。
ジーク「後は探すだけだ。」
カチャリと金属の擦れる音がなる。
ジーク「っ…!?」
慌てて音のする方へジークは顔を向ける。
巡回兵「な、何奴…!」
ジーク(見つかったか。仕方ない。)
ジーク「今からお前になる人間だよ。」
高く足を上げ、巡回兵の顎を蹴り上げる。
巡回兵「がっ…!」
巡回兵は慌てて、武器を構える。
ジーク(…勘違いするな。今のは奇襲が成功しただけだ。まともにやって勝てるわけが無い。ならやることは。)
ジーク「メイアちゃんは元気か?少し前まで病気だったんだろ?な、ハベイさん。」
ハベイと呼ばれた兵士は明らかな動揺を見せる。その僅かな動揺を見逃さない。鎧の隙間から、もう一撃蹴りを入れる。 攻撃を追うことを許さず、首にロープを巻き、別箇所から首を絞める。
ジーク「あんまり暴れないでくれよ。殺したいわけじゃないんだ。ミヘイが心配するぞ。」
巡回兵「っが…どうし……」
ジーク「大丈夫。ハベイとして上手くやってやるさ。生き物の生態を観察するのは好きなんだ。」
この状況にそぐわぬ興奮した瞳をジークは兵士に向ける。
兵士「ばけ…の…」
ジーク「そんな凄いもんじゃない。ただの変態だ。」
だらんと兵士の腕は落ち、重力に従う。
ジーク「…やっと気絶してくれたか…。あー…びっくりした…!まぁでも…」
ジークは兵士に一目向ける。
ジーク「体格も大体同じくらい。これ幸いだな。」
そう言って静かに笑みを浮かべた。
ー第二段階、ギリギリ(?)成功。
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