課長の風見斗利彦が役に立たないせいで、ちょっと前から全然先輩の玉木天莉に仕事を押し付けることが出来なくなった。
それだけで、紗英は会社に来るのが本当に面白くなくて。
(何で紗英が真面目にお仕事しなきゃいけないのぉ? 超面倒くさーい)
会社はいい男を見つけるための狩場であって、あくせく働くための場所じゃない。
(パパだってそう言ってくれてたのに)
天莉以外の人間に仕事押し付けることも考えたけれど、誰に頼ろうとしてもすぐさま風見が出てきてブロックしてしまう。
(何なの、アイツっ! ちょっと前まで紗英の言いなりだったくせに手のひら返したみたいに! パパの飼い犬の癖にホント生意気ぃー!)
興味本位で一度だけ相手をしてあげたら、しばらく勘違いにも何度も迫って来て本当に気持ちが悪かった。
(先輩が手に入らなかったからって紗英に手を出してくるっていうのもムカついたのよね! 若さも可愛さも断然紗英の方が上なのに! 紗英を先輩ごときの代わりにしようとすること自体、本ッ当女を見る目がない男!)
だからその腹いせに玉木天莉から恋人を奪ってやろうと思い付いたのだ。
風見斗利彦が落とせなかった貞操の硬い女の、男を寝取る。
最高に面白いゲームだと思った。
(博視、めっちゃチョロかったけど……先輩を捨てて紗英を選んだだけ、風見より何億倍もマシ!)
博視を唆して、玉木の誕生日に長年付き合ってきた彼女をフラせた。
如何にもプロポーズかも?みたいに思わせるため、ハイエンドホテルで待ち合わせさせて、目の前で博視はもう先輩のものじゃないんですよぅ?と見せつけてやった時の快感!
風見への鬱憤もまとめて晴らせた気がして、最高に気分が良かった。
なのに――。
(パパのバカ!)
紗英は別に博視なんかと結婚したいわけじゃなかったのに。
きっとあちこちで男を食い散らかして派手に遊び過ぎたのがいけなかったのだ。
なかなか地に足の付かない娘を心配したらしい江根見則夫が、自分の部下にあたる横野博視を脅して紗英と結婚するようけし掛けていたと知ったのは、則夫から博視と結婚するよう通告された後だった。
赤ちゃんなんて出来ていないのに、先輩をどん底に突き落とすためお芝居で博視に告げた嘘も、何故か父親の耳に入っていて。
何だか今更妊娠なんかしていないと言えない状況に追い込まれていた。
悔しかったからそれを盾に『つわりがしんどくてぇ』とか言って、風見に便宜を図らせて今までより一層沢山の仕事を玉木天莉へ押し付けまくった。
けれど、何故かそれも通用しなくなったとあっては、紗英には妊婦もどきを演じるメリットなんて微塵もなくて、まさに踏んだり蹴ったり。
自分の力で先輩をフラせたと思っていた博視も、上司の〝江根見部長〟の圧力に屈してのことだったとしたら、先輩をフラせた時の快感も半減して、本当に気分が悪い。
風見と玉木天莉の手前、幸せそうにニコニコ笑顔で博視との婚約発表を受け入れた紗英だったけれど、本当はちっとも嬉しくなんてなかった。
顔を見る機会なんてほとんどなかった常務の高嶺尽が総務課へ突然やってきて。
間近で彼と、その秘書の伊藤直樹の姿を見てからは、博視がイモにしか見えなくなって、ますます博視を捨てたくてたまらなくなった。
(赤ちゃん、上手く育たなくて死んじゃったぁ~って言ったら、博視との婚約も解消出来ちゃうかな?)
そう思っていた矢先、仕事を誰にも押し付けられないかったるい毎日が始まったから。
(働かされ過ぎて流れちゃったことにしちゃおっかな)
そうすれば、風見も玉木もきっと、自分たちを責めることになる。
もしそう思われなかったら、わざとそう思うように仕向けてやろう。
そう思っていたのに――。
***
仕事を誰にも押し付けられない日々に限界が来た紗英が、ある日の就業後ホテルの一室に風見を呼び出してどういうつもりなのか?と問い詰めたら「高嶺常務に釘を刺されたからだ」とはどういうことだろう?
「高嶺常務ってぇ、そんなお仕事もしてる人なのぉ? 紗英ぇ、会社のシステムとか全然興味ないからどういう意味なのかサッパリ分かんなぁーい!」
そう畳み掛ける紗英に、風見は「詳しいことは江根見部長に聞いたらいい」と言ってから、「そんなことよりこんなところへ呼び出したんだ。お前もそのつもりなんだろ?」と、紗英を押し倒してきた。
紗英は欲求不満解消のために仕方なく抱かれてやることにしたのだけれど、そんな紗英をあざ笑うみたいに風見が「素直に応じるってことはやっぱりお前妊娠なんてしてないんだろ?」としたり顔で言ってくるから、本気でムカついてしまった。
素直にその通りだと教えるのも腹立たしく思った紗英が、「アンタなんかに関係ないでしょぉ?」と風見を睨んだら、「そっか。まぁ私には関係ないが……本当に妊娠してるんならこのまま出しても問題ないな?」と気持ち悪いことを言ってきた。
紗英は風見が、避妊具を付けずに挿入してるのは知っていたから、観念して「妊娠なんてしてないんだからぁ! 外に出してよね!?」と渋々ウソを認めてやったのだけれど。
ニヤリと下卑た笑みを浮かべた風見に、「だったら噓がバレて困らないよう私が子種を授けてやろうな」って、結局そのまま中に出されてしまった。
一応婚約者ということになっている博視にだって、天莉から奪い取るまでの数回しか中で、は許していなかった紗英としては、正に最悪の極み。
(ピルは気分悪くなるから飲むのやめてるのにぃ! 赤ちゃん、本当に出来ちゃったりしたらパパに言い付けるって脅して手術代+慰謝料、きっちり請求してやるんだからぁ! 覚えてなさい!)
そこまで考えて、(あ、でもそうだ)と思い至った紗英だ。
この辺で一度産婦人科に行って「子供はやっぱり駄目でしたぁ……」という実績作りのための伏線を張っておいた方がいい。
(明日はお仕事休んでぇー、アフターピルを処方してもらっちゃおーっと)
何せ紗英、博視とは赤ちゃんを失って申し訳なくて、一緒にいるのが辛くなったと言う理由で婚約破棄をする計画なのだ。
(あんな独りよがりのエッチしか出来ない下手くそ男の妻になるのなんてぇ、願い下げだもん!)
博視と別れた後は、子供を失った上に婚約者も同時に失くしてしまった可哀想な女の子を演じつつ、常務の高嶺尽か、彼の秘書の伊藤直樹に傷心の自分を慰めて欲しいという体で猛アタックをして、どちらかをゲットするという壮大な計画がある。
実は紗英、性格は最悪で貞操観念もゆるゆるな困った女性だが、容姿だけは守ってあげないといけないようなどこか幼さの残った顔立ちで、ちょっと小首を傾げてウルウルッと瞳を潤ませれば、落とせなかった異性はいないという自負がある。
身長一五九センチの天莉が凛とした美人ならば、彼女より丁度十センチ低い小柄な紗英は――見た目だけなら――庇護欲をくすぐる可愛らしい小動物系。
高嶺尽と伊藤直樹の双方から言い寄られた場合、紗英的にはお金を沢山稼いでくれそうな高嶺の方を選ぶつもりではあるけれど、頭脳明晰容姿端麗な伊藤もキープしたいところ。
(きゃー、あんなハイスペックな男達を二人も落とせたら最高じゃぁーん♥ 考えただけでワクワクしちゃぁーう!)
風見に抱かれている最中だと言うのも忘れて、思わず笑みを漏らした紗英を見て、
「紗英、お前またくだらん計画立ててるんだろ?」
紗英の乳房をしゃぶりながら風見斗利彦が言ってくるから、「アンタには関係ない話だしぃ~!」とそっぽを向いてやった紗英だ。
なのに……!
「そうか、私には関係ないか」
言って咥えられたままの乳房を軽く甘噛みされたまま舌先で転がされて――。
「やあぁんっ」
思わず盛大に身体を跳ねさせて喘いでしまった。
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