〖第2章 嘘のわけ〗
あの日から、矢城さんは音楽室に滅多に来なくなった。
来たとしてもずっと無言。
何か怒らせてしまったのでは無いかと不安が募っていく。
あの日、彼女と重ねたあの子…“れいか”は幼い頃、僕と同じ病室にいた子だ。
事故のせいで両手の指に麻痺が残ってしまったらしい。
大好きなピアノを弾けなくなってしまって、悲しいはずなのに、いつも明るく僕を慰めてくれた。
外出許可を取れた日は、いつも彼女にミサンガをプレゼントするために材料を買いに行った。
彼女のために『指が動くように』『退院できるように』と願いを込めて作っていた。
しばらくして、僕は骨折が治り、リハビリも終わった。
そして医者から「もう退院していいよ」と言われた。
退院の日、「僕は退院するけど、また絶対来るからね」と約束をして荷物と共に病室を出た。
でも彼女には会えなかった。
あの日は、お見舞いにとミサンガと手紙を手に僕と彼女がいた あの病室へ行った。
いつも彼女が寝ていたあのベットには、もう彼女の跡は欠片も無かった。
綺麗に掃除されたベット、彼女のCDプレイヤー、お気に入りのぬいぐるみ、そしてミサンガ。何もかも無くなっていた。
病室を間違えたかと必死になって病棟の中を探したが、何処にも彼女はいなかった。
自分は幼く、さらには初恋の相手だった事もあり、会えなくなった事に物凄くショックを受け、ミサンガと手紙を抱いて何日も泣いた。
それくらい、大好きだった。
矢城さんは今日も来なかった。
これでもう3週間半……探してみよう。今日だけでも話したい。
「矢城さんは…確か2年6組だったはず」
階段を登って、不安に包まれながら2年6組へ向かった。
「それじゃまたね」
「うん、また明日」
先輩達の話す声が聞こえる中、1年生僕1人が急ぎ足で裏廊下を歩いていた。
しばらく歩いていると、第1音楽室の窓辺に見慣れたハーフアップの女子生徒がいた。
「矢城さん…?」
名前を呼んだ瞬間、彼女は振り向いた。 そこまでは良かった。
彼女の顔は、涙に濡れていて、夕焼けのせいもあって赤くなっていた。
「矢城さん!何で…最近来ないんですか」
間が空いたからか、僕の敬語は戻っていた。
「…依織くんが、私の事覚えてないから」
僕が…矢城さんを?
もちろん僕はこの3週間、矢城さんを忘れたことなんてない。
「忘れてなんか…」
「依織くんさ、この前”れいか”って呼んだでしょ…?」
れいか?確かにつぶやきはしたがれいかと矢城さんになんの関係が……
それに名前だって違う。
「…私、指治ったよ」
コメント
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ひょぇぇぇぇぇぇ!!!!! 治ったんだ…!お姉さん嬉しい(((( 昔会ったことがあるってことかぁ!素敵!! 投稿ありがとうございます!!!!!!