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ルティとシーニャが落ち着いたところで、おれたちは揃って再びミルシェに声をかけた。
彼女が案内したのは、廃墟の中でもほとんど崩れていない綺麗な建物だ。建物の中に入るとシーニャとルティは疲れ果てたのか、埃だらけのベッドに倒れてそのまま眠ってしまった。
フィーサの姿が見えないと思ったが、剣の姿に戻っていたらしく剣立ての所にいる。
「豆のスープくらいしかありませんけれど、どうぞ」
奥の方からミルシェがスープを運んで来た。
「いや、十分だ。ありがとう」
塩気くらいしか無かったが、腹に入るだけで十分だった。スプーンなど食器類は綺麗な状態のようで、食べるのに支障は無いのが救いだ。一息ついたところでミルシェが話し始めた。
「――あの光が致死性のあるものだったって?」
「そうですわ。それも、あなたさまだけ……つまり、この国の人間に対してですけれど」
「しかしあの魔導兵はすでに停止していたはず。それが最後の切り札だったと?」
「あたくしたちは何とも無かったので、間違いないかと思いますわ」
「……そうか」
ラーナに言われるがままに魔導兵の胴に触れたところまでは覚えている。しかし、まさかあの光がそういうものだったとは。
「――ですけれど、光の中で何かを得られたのでは?」
「……そうだな」
「お召しになられている暗灰色《あんかいしょく》の防具一式が、戦利品……なのでしょう?」
「へっ? あ、あれっ!? 全部同じ色になっている!?」
ミルシェに言われるまで気付かず、気にもしていなかった。ずっと眠っていたというのもあるが、トラウザーとガントレットも同色になっている。
「あたしも驚きましたわ。アックさまの身に何かが起こったものとばかり。ですけれど、光が収まると同時に色が変化してすぐにお目覚めになられたので体には影響がないと判断しましたわ」
錆びた剣だけは別で身に着ける装備が揃ったことによる変化だろうか?
防具に触れると、名称が変化していることに気付く。
【A《エンシェント》レア レイヴンガントレット 連撃効果+ 従魔の力を高める】
【Aレア レイヴンコート 被物理攻撃無効 被魔法攻撃耐性 従者の力を高める】
【Aレア レイヴントラウザー 命中率+ 魔法命中率+ 従属の力を高める】
水の守り、回復系が消えているな。バフそのものに加わっていないのはフィーサだけみたいだ。
「……確かに変わっているな。エンシェントとか、レイヴンだとか」
「エンシェント? 確か古代の……それらは元々忘れ去られた装備でしたかしら?」
「まぁな」
「――そうなると、アックさまは認められた者ということになると思いますわ! 滅亡した国に戻って来て、国を取り戻されましたもの」
「認められた……?」
大したことはしてなかったはずなのに。
「そういう意味で、アックさまは真の支配者として相応しいと認められたのでは?」
光の中で聞こえた声が母だったかどうかは今となっては分からない。しかし魔導兵を全滅させ、故郷を取り戻すことが出来た。そのことで認められたということなら、ここに来て良かったと言える。落ち着ける国があれば良かっただけだが、認められたならこれで本当に再建出来るかもしれない。
「……久しぶりに何かを口にした気がする」
「良かったですわ。お強いとはいえ、アックさまは人間ですもの。ふふっ、そのお姿を見て安心しましたわ!」
「レア確定ガチャを引ける稀《レア》な人間らしいけどな」
「素晴らしいことですわ! これからもあなたさまに付き従いたく思います」
「ああ、おれからも頼む」
一息入れた所でミルシェが真面目な表情を見せる。
「――ところで」
「ん?」
「これから国づくり、再建など、やることはたくさんあると思いますけれど……アックさまにはもっと大変なことが待っていますわよ!」
滅亡した国を取り戻すことが出来たのは良かったといえる。だが大変なのはこれからだ。エルフたちの扱いもそうだし、国の在り方についても。
「人口を増やすかどうかを……?」
「いいえ、そういうのは難しくありませんわ。そうではなく、アックさまのご寵愛を受ける相手のことについてですわ!」
「寵愛……?」
何かと思えばそういう話の大変さか。
「あのエルフ女もそうですけれど、小娘たちのお気持ちをどうされるおつもりです?」
「決めないと駄目なことか?」
「もちろんですわ! あの子たちからの好意は身をもって感じていらっしゃいますわよね?」
「それは……」
いずれ決めなければならないとなると、先はまだ長そう。
「別に妻にしろとか子を作れとか言っているのではありませんわ。分け隔てなく相手にするにしても、無下にされるとなれば誰であれ悲しみますわよ?」
「……よく分かっているよ」