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【3ヶ月後】
。 .:・.。. .
桜子は仕事が終わってから、毎日取りつかれたように「柚原希実」を検索しまくっていた
工場から帰ると夕食を済ませ、両親が寝室に引っ込むのを待ってから、階段の軋む二段を避けて二階へ上がる、机の上のデスクトップの電源を押し、今夜も夜通し画面の向こうのネットの海に飛び込む・・・もう何週間もこの同じ動作を繰り返している
まず神戸の自治体の「おくやみinfo」という、故人の死亡欄を検索するサイトを調べた、母親の証言で社会福祉の人に助けられて葬儀を行ったと聞いていたので、そこから辿れる限りの検索条件を試した
確かに柚原希実は齢25歳にして儚くこの世を去っていた、画面に浮かぶ小さな活字を見つめたまま、桜子はしばらく動けなかった
しかし、真に桜子が知りたい情報はこんな所から探してもたどり着けないだろう、次にフェイスブックに取り掛かった、ここには「柚原希実」は5人いた、しかしいずれも、フェイスブックが流行った年齢の40~50代の柚原希実ばかりだった
唯一の手掛かりである電話番号でLINEを検索しても、相手が「番号で友達追加」の設定をしていないと探せない、一度しか会っていないが桜子が受けた印象の性格では、誰でもかれでも彼女が友達追加するとは思えなかった
Xやインスタグラム、Threadsなど、あらゆるSNSで柚原希実を探した、英語表記や、彼女がアカウント名にしそうな名前までAIにはじき出させ、検索にかけて探したが希実らしい人物は見当たらなかった、最後に会った時もっと彼女の情報を引き出しておけばよかった
次に「あの虹の向こうへ」「柚原希実」とGoogle検索バーに打ち込んだ、膨大な「www.」から始まるネットの情報の中から、Googleのトロール網にひっかかったのは、ほんの数ページだった
しかしどれも「柚」「虹」といった単体の文字ひとつの見出しで引っかかったものでただの本や作家の情報にすぎなかった、桜子はその短い情報を隅から隅まで読んでいったが、お目当てのものはなかった
カタカタ・・・「もう・・・もっと頑張ってよSEO・・・」
次に検索バーに「結婚詐欺師」「三人の女の子」などと、希実の小説の内容をキーワードを入れていった
彼女がどこかで書いていれば引っかかるだろうと、検索範囲をブログ、モバゲー、携帯小説やあらゆるSNSの媒体まで広げる
時には文中のセリフや、舞台になっている場所まで検索にかけたが、どれも希実が「私の小説は完璧だ」と言った物語の具体的な要素とは合致しなかった、検索結果の欄が「一致する情報は見つかりませんでした」の文字で埋まるたびに、桜子の肩から少しずつ力が抜けていった
希実が自分で出版局に持ち込んでいる可能性は決して低くはない、もしそうならあの作品が、ここ数年以内に毎年出版される書籍や電子書籍の川に乗って、彗星のごとく世に出てくることも考えられた
それでも・・・桜子の脳裏に希実の母の言葉が蘇る
彼女と最後に会ったあの雨の日がきっかけで、希実が肺炎にかかって入院したのなら・・・そんな時間があっただろうか、さらに、桜子と会う以前にどこかの出版局に持ち込んだ可能性があるならば、そもそも桜子に添削依頼を申し込んできただろうか
そこで桜子は首を振った、完璧主義のあの彼女のことだ、もしどこかに持ち込むなら桜子に「添削」してもらって「完璧」な状態にしてから行動を起こしたはずだ
完璧主義は自分の欠点を指摘されることを恐れている、自分の思い通りにならないことを恐れている、ということは、あの時点でまだ彼女は桜子以外の誰にもこの「傑作」を見せていない、と考えた方が筋が通っている
そうだとしたら、今桜子の手元にあるこの小説はネット上のどこにもなくて、いくら検索したところで出来あがってもいなくて、SEOにも何もひっかからないのがその証拠ではないか・・・彼女が豪語した「大ヒット作」は、そんなものこの世のどこにも無いのではないだろうか・・・ここ以外に・・・
コメント
2件
桜子…必死だね。良からぬ考え起こしちゃダメだよ〜 希実ちゃんのお母さんも生活弱者なわけだし、遺作として代理で陽の目にあててあげるとかできないかな🥺
すごく引き込まれました……第33話の桜子の執念がひしひしと伝わってくる。あの「ここ以外に」の一文が持つ、暗くて確かな確信。希実の完璧主義を逆手に取った推理の組み立て方も見事で、手元にある物語だけが唯一の痕跡だって気づくところ、ゾッとすると同時に胸が締め付けられましたね。伏線がどう回収されるのか、次が気になります!
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