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脱出成功から数日後。
子供たちは、森の隠れ家でようやく息を整えていた。
そのとき、ノーマンが荷物の中から小さなペン型の録画装置を見つけた。
「これ……シンム兄ちゃんのものだ」
静かに装置を起動すると、
小さなモニターに映し出されたのは、優しく笑うシンムの姿だった。
「やっほー、こんにちは」
「これを見ているってことは……もう、ハウス――
いや、“グレイス=フィールド”から脱出したのかな?」
少し冗談めかした声。けれど、笑顔の奥には何かを隠しているのがすぐに分かった。
「最初に謝ることがあるの。……ごめんね、みんな」
「実は僕――最初から知ってたんだ」
「ハウスの秘密も、鬼のことも、
僕たちが“食べられる”ためだけに育てられてたってことも。
……そして君たちが脱出を計画してるのも」
ギルダが「っ……」と唇を噛む。
ドンが「なんで……そんな……」と目を伏せる。
「でもね、それを知ってても、
僕は“気づかないふり”を選んだんだ。だって……みんなが優しくて、強くて、必死だったから」
「そのまま背中を押す方が、僕には合ってると思った」
そして、シンムは少しだけ目を伏せて、次の言葉を紡ぐ。
「あとね……これは伝えようか迷ったけど、ちゃんと伝える」
「――本当は、僕じゃなくて、ノーマン、君が出荷される予定だったんだ」
「でも僕は……ノーマンにも、エマにも、レイにも、みんなにも……生きていてほしかった」
「だからママ……いや、イザベラさんに頼んだんだ。
“僕が代わりに行く”って。最初で最後のお願いだった」
ノーマンの目が見開かれる。
「……僕の、代わり……?」
エマは口を手で押さえて、泣き出しそうになる。
レイは、怒りと悲しみを押し殺すように、目を伏せたまま震えていた。
画面のシンムは、やわらかく、最後まで変わらない笑顔で言った。
「あと、これは“もしもの話”だよ」
「もし、僕がうまく抜け出せたら――また、どこかで会おう」
「でももしそれが無理なら……僕は、死ぬ」
「だから、最後になるかもしれないし、最後じゃないかもしれないけど」
「これだけは、ちゃんと、言わせて」
画面のシンムが、ゆっくりとカメラの向こう――みんなを見つめる。
「――君たちの未来が、幸せであふれていますように。」
「じゃあ、僕がもし生きていたら、また会おうね」
「大好きだよ、僕のかわいい、大切な兄弟たち^^」
そして、録画は、静かに終わった。
その場にいた全員の胸に、シンムの言葉が深く、深く刻まれた。
ノーマン「……僕は、あのとき救われたんだ。……なのに……っ」
エマ「シンムお兄ちゃん……ずるいよ……そんなのって、そんなのって……」(泣きながら)
レイ「……最初から、全部仕組んでたのかよ。……“演技”なんか、するなよ……バカ兄ちゃん……」(俯いて、静かに目を拭う)
ギルダ「……絶対、無駄にしない。シンム兄ちゃんの、想いを」
ドン「生きててよ……生きてて……兄ちゃん……っ」
子どもたちは泣きながら、強く誓った。
「必ず、生き抜く」――
それが、シンム兄ちゃんがくれた“未来”への贈り物だったから。