どうも皆様、サカナです
しばらくぶりですね
本日は広島の方の原爆忌、哀悼の意を捧げます
本日のお話は不謹慎と捉えられる可能性もあるため、原爆を示唆する描写が嫌な方はそっ閉じしてくださいな
嘘をつく岡山さんと、昔の広島さんのお話です
岡山「ここは……あぁ、なんじゃ、広島お気に入りの花畑か」
風が吹き、足元の花々が揺れた。
これは夢である と確信し、どこか柔らかくふにゃっとした風景に目を細める。
この花たちには触れないので、ただ風に吹かれ続けて、踏んだとしても太陽に向かっていた。
少し歩けば、背の高い人影が見える。
岡山「広島!」
呼びかけて振り向いた広島は、自分を見下ろした。
広島「よう、岡山!相変わらず小せえなあ!花に埋もれちまいそうじゃ!」
冗談めかして言って、広島は豪快に笑う。
長い足で草を踏みしめるその姿に、何かが込み上げてくる。
夢だとしても、広島の元気な姿が見れただけで満足だ。
岡山「…うるせーよ!俺の方が大都会じゃけぇええんじゃっ!」
広島「大都会ぃ?首都になってから言うて欲しいのぉ!わしは臨時首都の機能を背負わされたことあるもんね!」
岡山「なぁにがあるもんねだ!機能だけじゃろ!大都会は俺!」
広島「ええやわしじゃ!」
ギャアギャアと騒ぎ合って、踏めない花の上で駆け回る。
自分も高身長な方だとは思うが、広島は足が長く、全く追いつけなかった。
それでも良い。
馬鹿にされても、口喧嘩をしても、広島が歩いて走っているところを見られただけでいい。
この時間が永遠に続けば…そう思った矢先、ふと広島が立ち止まる。
広島「………」
岡山「…広島?」
無言で市街地側へ歩を進める広島を見て、岡山は嫌な汗が伝った。
なんだか妙に暑い。
広島「………あ」
呆然と立ち尽くす岡山の視界が、灼熱に巻かれた。
岡山「!!!」
一瞬にして焼け野原になった花畑の中で、赤くなった広島の姿。
叫べるような喉ではなく、苦しそうに震え蠢く。
岡山「広島っっっ!!!!」
急いで駆け寄れば、広島は黒焦げで燃えた服に包まれながら、血を流している。
広島「…み……ず……」
岡山「水…水は、どこに…」
離れようとしたその時、そこは焼け野原ではなかった。
岡山「…あれ、広島は…?」
鳥取「岡山!広島、広島がぁ!!」
岡山「鳥取…」
自分も鳥取もボロボロの状態だ。
鳥取はぐっと自身の手を掴み、医療用テントへ駆ける。
焦りのせいかところどころ躓いているが、前へ前へと走り続けた。
この先の展開は読めている。
心が見たくないと拒絶し、足を止めたくなった。
広島が寝ているそこへ入った時、その光景は絶望的で、目を塞ぎたくなるものだからだ。
広島「ひゅ…ひゅ…」
岡山「あ…ひ、ひろしま…」
足がなくなっている。
よろよろと頼りない足取りで近寄れば、包帯に巻かれた悲惨な体がよく見えた。
広島「ひゅ…ひゅ…ぅ…」
喉が焼けていて息がしづらいのだろう、消え入りそうなほど小さな息の音が聞こえる。
目に巻かれた包帯に、嫌な懐かしさを覚えた。
岡山「ぅ、ぐ…」
岡山「うあ゛ぁああ゛あああっ!!!!!」
蝉が鳴く暑い夏の日、時刻は朝の6時だ。
バサッと投げ出した布団を引き寄せ、震える両手で握りしめる。
こわいゆめをみてしまった。
岡山「ひゅーっ…ひゅーっ…はッ…ぁ…はッ…はッ…ぁ…ひゅッ…ひゅーッ…はひゅッ…げほっ…ぇほッ…ひゅッ…はーッ…はぁぁッ…」
浅い呼吸を繰り返し、布団に顔を埋める。
どれだけ息を吐いても吐いても、肺の中の空気が減らない。
動悸がする。頭も痛い。
じわじわと蝕むはずの暑さは感じず、むしろ寒いくらいだった。
島根「岡山!大丈夫か?!」
叫び声を聞きつけて、部屋近い島根が岡山の部屋に飛び込んでくる。
そんなことを気にする余裕などなく、岡山は過呼吸で苦しんだ。
岡山「ひゅーっ…はッ…はぁッ…ひゅッ…ひゅぅッ…」
島根「落ち着け、大丈夫、大丈夫だけんな…ほら、吸ーて」
岡山「ひゅッ…すーッ…ぅ…ひゅッ…」
とんとんと一定のリズムで背中を叩かれながら、なんとか拾い上げた言葉通りに息を吸う。
島根「大丈夫大丈夫…吐えて」
岡山「はッ…はーッ…」
上手く息を吐けているかはわからなかったが、島根にさすられていくらかは落ち着いてきた。
島根「そげそげ、もう一回。吸ーて」
岡山「す、ーッ…」
島根「吐えて」
岡山「はーッ…」
島根「ん、よしよし。もう一回は大丈夫か?」
岡山「…ああ…助かった…」
ようやく呼吸が正常に戻り、岡山は島根に礼を告げる。
島根「ええってことよ。だども、やっぱり今年もいけんかったか…」
岡山「…みてーだな…」
毎年、この日の岡山は悪夢を見る。
内容は広島が元気だった頃から、足を失うまで。
トラウマが繰り返され、目が覚めるといつも過呼吸になってしまう。
何十年と経過しても、あの時の傷が癒えることはなかった。
それは島根たちも同様ではあるが、岡山は特に広島と仲が良かったためか、かなりの重症なのだ。
岡山「はぁ…朝から悪かった」
島根「ええって言ーたろ。さ、今は広島に会いとうなえだらーけん、俺と山口と朝飯当番な」
岡山「ん…」
ゆっくり起き上がり、島根と共に部屋を出る。
階段を下れば、もういつもの岡山だった。
山口「あ、岡山!もうせわーない?」
先に起きていた山口が駆け寄ってきて、岡山を心配そうに見上げる。
申し訳なく思いながら目を逸らし、頭を掻いた。
岡山「島根に助けられた…毎年ごめんな、うるさかったじゃろ」
山口「僕らも気持ちわかるけぇ、そねーなん思うちょらん」
島根「心配だとは思ーが、迷惑とか考えたこともねえよ」
島根はうりうりと肘で小突き、山口は慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。
仲間の優しさが沁みるほど嬉しかった。
山口「その通り。一旦落ち着くためにも、ご飯作る?」
岡山「あぁ。広島に会うめーに、もう少しだけ落ち着きてー。何すりゃあええ?」
山口「じゃあ…」
そうして割り振られた係に全力で応えるのが、岡山なりの恩返しだ。
数時間後、もうすぐお昼だという時に、岡山は広島と本を読んでいた。
朝のように過呼吸を起こすことはないが、自身の半分以下のサイズである広島を膝に乗せていると、どうしても悲しくなる。
都道府県の中でも背が高く、自分のことも小さいと揶揄ってきた広島はもういない。
煽りすぎて般若になった山口に叱られたり、アクロバティックに動く広島を見たりすることも、もう2度とないのだろう。
あの時から影が落ちた中国地方は暗くなり、広島は大人びてしまった。
本なんてあまり読まなかったのに。
部屋に追加された本棚には、難しいものはなくても、確かに本が鎮座している。
岡山「…なぁ、抱き上げてみてもええか」
広島「はぁ?急になんじゃ?」
岡山「別に。やりとうなっただけじゃが? 」
広島「えぇ…まあええけどよ、続き気になるけぇ早う終わらせろよ」
岡山「んー」
栞を挟み、広島の両脇に手をやった。
そのまま持ち上げてみれば、随分軽い。
以前の広島の身長と同じくらいの箇所まで移動させ、見上げた。
岡山「……小せえな」
広島「せせろーしいわ!くそう…元々はわれより高かったんじゃぞ!」
岡山「知っとる。けど俺の方がでけーけぇ。それに都会」
広島「前者はともかく、後者は認めんけぇな!!」
もう自分を見下ろして笑う広島がいないと思うと、岡山は少し、寂しくなった。
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