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「そのあと、回を重ねて篠宮さんと会って、彼が如何に朱里を思っているのか、ひしひしと伝わってくるようになりました。当時、篠宮さんの詳しい事情は何も知りませんでしたが、とても疲れた雰囲気だったのは印象深く覚えています。……だから余計に『この人も朱里を自分の希望にしているから、こんなに執着しているんだな』って感じました。……私も〝同じ〟だから、ピンときたんです」
私は溜め息をつき、綺麗な夜景を眺める。
「〝同じ〟だと、つい対抗心が湧いてしまうんです。同族嫌悪ですね。当時、朱里は別の男と付き合っていましたから、篠宮さんに定例報告をする時に、わざと朱里とそいつが仲良くしている情報を流しました。……『これで諦めてくれればいいのに』って思いながら、『これぐらいの事で諦めるようならそれまで』とも思っていました。……篠宮さんの事を嫌いではありませんでしたけど、ライバル視していた分、当たりはキツかったかもしれません」
ご飯が炊けるまで、私たちはスツールに腰かけて話していた。
「尊にはそれぐらいで丁度いいと思うよ。余裕がなかったとはいえ、あいつだって自分のやっている事の異常さを自覚していなかった訳じゃなかった。……俺は大学当時から尊の話を聞いていたけど、『こんな事をやってていいんだろうか』って自信なさそうに言う時があったよ。……でも恵ちゃんの言う通り、それを乗り越えて〝本当に強い想い〟になったんだと思う」
私はコクンと頷く。
「一方的な深くて強い愛って、怖いよ。恵ちゃんが警戒するのは仕方ない」
私は苦笑いしてもう一度頷き、キッチン台の上に頬杖をつく。
「……でも、結果的に私は負けました。篠宮さんはストーカーっぽいけど、朱里を害する真似はしなかった。ただ遠くから囲うように見守って、就職の時は手を回したけど、そのあとは好きになってもらうよう、自分で努力していたと思います。……その間、私は親友として朱里の側に居続けるしかできず、彼女が田村と別れて傷付いた時も、内心で喜んでいたぐらいでした」
罪悪感を込めて笑ったけれど、涼さんは否定しなかった。
「尊からも聞いたけど、その田村くんっていう子は、朱里ちゃんにとっていい彼氏じゃなかったんだろ? だから恵ちゃんも不満を抱いていた。彼女の親友に『別れて良かった』って思われる奴って、大概ハズレだよ」
「……そう言ってもらえると、少し楽になります」
「慰めてるんじゃなくて事実。俺は相手が恵ちゃんでも、間違えていると思ったら忌憚なく意見を言うよ」
「はい」
だろうな、とは思ったけど、やっぱり涼さんのそういう所が好きだ。
「篠宮さんは救いを求めるように朱里を愛していたけれど、その祈りにも似た愛し方を見て、『私はこうはできないな』って負けを感じたんです。もしも朱里が私を友達と見なさず一方的に片想いし続けるなら、十年以上想い続けるなんて無理だったと思います。……私は朱里と毎日のように顔を合わせていたから、ずっと彼女を好きでいられた。……篠宮さんとは環境も状況も何もかも違うから、比べるのは間違えていると分かっていますが、私より条件が悪いなか想い続けた彼には『敵わないな』って思いました」
「勝ち負けじゃなくてもいいんじゃない? 恵ちゃんは恵ちゃんのやり方で朱里ちゃんを想い、守っていた。そんなに自分を否定しなくていいんだよ」
涼さんはやっぱり否定しない。
「……涼さんと一緒にいると自分の角がとれて、丸くなっていく気がします。あらゆる事に『負けないように』って立ちむかって頑張ってきて、悔しい事があっても歯を食いしばって頑張ってきました。……なのに涼さんはその苦しみを『いいんじゃない?』って肯定しちゃうんです。……なんか、気が抜けちゃう……」
すると彼は柔らかく笑い、手を延ばして私の頭を撫でてきた。
「今まで一人でよく頑張ってきたね」
そう言われ、よしよしと優しく頭を撫でられて、また涙ぐんでしまう。
「……やめてください。……ホント、涼さんと一緒にいると、すぐ泣いちゃう。……私、こんな弱い女じゃないんです。……すみません、すぐ泣き止…………」
その後も何か言おうとしたけれど、立ちあがった涼さんに抱き締められて言葉が止まる。
「もういいんだよ」
背中に温かい掌が当たり、ゆっくりと円を描いてから、トン、トンと叩いてくる。
「それって俺に気を許してくれている証拠だよね? ありがとう。家族の前でも、朱里ちゃんの前でも頑張って気を張ってきたなら、俺の前でだけ弱いところも格好悪いところも、全部曝け出してよ」
「っっ…………」
私は無言で唇を引き結び、ぎゅう……と彼を抱き締める。
「……でも、涼さんに一方的に寄りかかったら……、負担になります」
すると彼はクスッと笑って言った。