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家に飛び込み、救急箱を漁る
ロクな治療もやったことがない俺の手は勝手に動き
持っている知識をフル回転させ、なんとか処置を終えた
「…はぁ‥」
息が苦しい、そんなに緊張していたのか
男の顔はまだ青いが、さっきよりも穏やかだった
まだ湿っている髪をかき分け顔を拝む
なかなかどうして見目がいい
額にある禍々しい角さえ取り除けば、きっと芸能人として大成しただろう
ふわりと額を撫でると、男のまぶたに力が入り、薄らと目が開いた
??「ここ…は…」
「俺の家、お前誰?倒れてたけど」
なるべく淡々と答えると腹部の包帯に気づいたのか
??「俺はヤトナタクセ・ヘグパンカ…治療ありがとう」
「ヤト…なんやわからん…たくぱんでええか?」
たく「うん、よろしく」
そう言って手を差し出す男…たくぱん
その手を取りつつ再び寝かせようとしたその時だった
窓ガラスが割れ、黒い影が入り込んでくる
きっとこいつを狙っていたやつだろうと当たりをつけ
たくぱんを背に影を睨みつける
刹那浮遊感に襲われ、風を感じた
たく「ごめんね、巻き込んで」
そのまま俺を抱えビルの間を跳び、逃げるたくぱん
ふわふわと抱えられ空を跳ぶ感覚には慣れないが
後ろから迫りくる影を見ると、そうとも言っていられない
「…そっち右行け、上からなら見えない細道がある」
たく「助かる、」
ナビゲートをしながらのらりくらりと攻撃を躱す
一撃は重たいだろうが当たらなければ0ダメージ
しばらくチェイスを続ける
やっと撒いた頃には朝日が差し込み始めていた
たくぱんは肩で息をしていて、傷もまた開いてしまったようで苦しそうな顔をしていた
たく「なぁお前、俺と契約結んでくれない?」
「はぁ?」
思わず聞き返してしまった、確かに俺には従属は居ない、
そして悪魔であるたくぱんが従属になれば好都合なことだっていっぱいある
だが契約を結んであいつにどんな特がある?
俺という契約主ができるだけじゃないか
たく「魔族は人間界では契約主が居ないと力が制限されるんだ、俺はお前と組みたい‥だめか?」
そう言って俺の瞳を覗き込んでくる
「…じゃあ条件な」
たく「何?」
「俺のことは山田と呼ぶこと、そんで俺のがのし上がる手伝いをすること」
そう言うとたくぱんはにやりと不敵に笑い、こういった
たく「よろしく、山田」
「よろしくな」
朝日が俺達を照らした
たく「それじゃあ、儀式を始めようか」
そう言って1本のチョークを取り出して、屋上に丸や直線を描いていく
書き終えると、俺にナイフを差し出し、血を捧げるように促した
手の甲を切って、血を魔法陣の中心に垂らす
たくぱんも同じように手の甲を切りつけ、ぼたぼたと俺の血の上に垂らした
普通は聖職者など魔力の強い第三者が共に唱えることでできる契約
たく「いまから呪文を唱えるから、これ読んで」
「もう1人分は?」
たく「俺が二重詠唱するから」
さらっと言ったが二重詠唱は普通できないものである
魔力値の高い悪魔だからできる技
たくぱんの合図で詠唱が始まる
『汝かの者と契約を結び、我を忘れず己の弱さを認め、かの者と契約を行うことをここに誓う』
古臭い言い回しで始まった詠唱
長ったらしい文章を読みなんとか契約を終えた
すると、たくぱんの体が柔らかい光に包まれ、
負っていた傷は癒え、小さかった角はヤギのような形に成長した
抑えられていた分の魔力が放出されて、姿が戻ったのだろう
俺の手の甲の傷と、たくぱんの手の甲の傷が、契約の魔法陣と同じ形の痣となる
契約完了の合図だ
たく「これで契約完了、改めて挨拶させてもらうね、俺はヤトナタクセ・ヘグパンカ、
たくぱんだっけか、でいいよ…一応最上級悪魔」
「最上級悪魔ぁ?」
聞き慣れない単語に思わず聞き返すと
たくぱんは少し顔を歪ませ、此方を見やりながら、小さく口を開いた
たく「魔王の素質ある者とも呼ばれてる。生まれながらに優れた力を持つとされてる、…」
さっきよりも小さな声で本を読むように答える
山田「まぁ強いってことやんな、俺の従属なんやからそれくらいないとな!」
わざと明るい声で意地悪く笑う
少し驚いた顔をしてから、ずっと硬かったたくぱんがふにゃりと破顔した
山田「なんや可愛く笑えるやん、」
たく「かわッッ…!?」
そう茶化すと真っ赤になって照れだす始末
本当に悪魔か疑いたくなるほどだ
まぁそれほどに、今までの暮らしが辛いものだったんだろうな
ま、山田には、関係ないけども
たく「…山田の野望のためには、まず地位と力、そして知識が必要だ」
一息置いてから説明を始めたたくぱん
さっきまでの情けなさはなく、いかにもしっかりものといった様子だ
たく「こっちの世界で魔法進学校と言ったら…どこだ?」
眉をひそめ此方に問うてくるが、孤児生まれスラム育ちに聞かないでほしい
たく「…ん〜…まぁいい、どちらにせよ情報は必要だ、今日のところはひとまず終わりにしよう」
そう言って手を叩くと、すぐに俺の家に戻った
瞬間に変わった景色に驚くも、ワープみたいなものかと割り切る
たく「俺はもう出るよ、また明日、山田」
また明日、オウム返しになってしまったが気持ちがどこか暖かくなる
明日、消えてないといいな
次の日、昨夜の心配もあっけなく
たくぱんはやってきた
とは言っても、姿形が変わっていたので名前を言われるまで気づかなかったが
髪は黒から艷やかな深緑になっていて、明るい緑のメッシュがよく映える
紫の瞳は真っ黒になっていて、
昨日黒い角が鎮座していた頭には、今は黒い猫耳が生えている
タイトな服装に大ぶりのファーがついたパーカーを羽織るというなんとも言えないような格好だった
たく「おはよ、ひとまず色々調べてきたよ」
山田「まずお前の姿を説明せい」
怪訝そうに聞くと、思い出したかのように、あぁ、とだけ言って
たく「いいだろ?これでどこからどうみても猫の獣人だ。少し表に出たところで、この姿の女が働いているのを見たんだ」
そうか、こいつは今魔界に追われている存在
姿形を変えないと、入学どころか表に出ただけで即お縄だ
そして、無知なたくぱんが見たねこ娘はきっとどこぞのキャバ嬢だろう
そのせいか、服の一部、特に際どい所がガバリと開いていて、
正直な所、男娼と呼んでも差し支えない
山田「…捨てられた服着てる俺が言うのも何だが…お前格好をどうにかしろ」
たく「?なんでだ?いい変装だろ?」
本当にこいつは魔界育ちか?
魔界ってもっとこの世の悪を全て煮詰めたイメージなんだが…
たく「失礼な、俺ん家厳しくて外出してくれなかったから知らないんだよ、そういうの」
心を読むなと文句を垂れると
フン、と鼻を鳴らしながら
たく「まぁしょうがない、山田がそこまで言うなら変えてあげる」
そう言って指を鳴らすと
ごく普通のシャツに緑のネクタイ、薄手の大きなパーカーという、ラフな格好になった
山田「最初からそうすりゃええのに…」
ボソリと聞こえないくらいの大きさでつぶやいたが、たくぱんには聞こえていたようで
たく「…よぉし、山田が筆記合格できるように、しっかり叩き込んであげるからねぇ〜」
そう言って、持っていたカバンから大量のテキストを取り出し、机にぶちまけた
山田「‥は?」
たく「よかったねぇ、学校が実力主義の学校で、勉強できなくてもクラスが下になるだけだってさぁ〜」
もはや落ちないでしょ
そういうたくぱんの笑みは真っ暗で、ニヒルという言葉がピッタリだった
終わった_____________
そんなわけで、なんとか筆記試験を突破
最低クラス入りが決定してしまったが、
なんとか二次試験までこぎつけた
命の危機を感じる勉強会は、もう二度とゴメンだけどな
続きです
次回、入学試験(長くなるよ!)