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まきぴよ
5,124
渡辺は、一人で家にいた。
宮舘は地方ロケで、帰ってくるのは明日。
窓の外では、さっきから雨が激しく降り続いている。
テレビをつけたままソファでぼんやりしていると、遠くで低い音が響いた。
雷だった。
渡辺は、少しだけ顔を上げる。
もう一度。
今度は、さっきより近い。
その音を聞いた瞬間、ふと指輪の魔法のことを思い出した。
危険な食べ物を知らせてくれる魔法。
現実で、実際に雷の音を聞いたわけではない。
それでも、あの夢での音が妙に身体の奥に残っている。
「……何なんだよ」
渡辺は小さく呟いた。
別に、雷なんて今までそこまで怖くなかった。
なのに今日は、鳴るたびに少しだけ胸がざわつく。
宮舘がいないからなのか。
夢の中で経験したことが、変なところに残っているのか。
自分でもよく分からなかった。
その時、インターホンが鳴った。
渡辺は、びくっと肩を揺らす。
「……びっくりした」
雷より、そっちの方が驚いた。
こんな雨の日に誰だと思いながらモニターを見ると、そこには見覚えのある三人がいた。
『翔太ー』
渡辺の眉が寄る。
クッキー、ココ、モカ。
三人とも、今にも泣きそうな顔をしていた。
『まま、家にいないよぅ』
『怖いよぅ』
『雷やだぁ』
渡辺は一瞬黙る。
「……何で呼び捨てなんだよ」
聞こえていないのか、三人は続けた。
『翔太ぁ』
『開けてぇ』
『怖いぃ』
「はいはい」
渡辺は玄関へ向かった。
扉を開けた瞬間、三人が一斉に飛びついてきた。
「うわっ」
「翔太ぁ!」
「翔太しかいなかったよぅ!」
「怖かったよぅ!」
「ちょ、待て!」
三人に抱きつかれ、渡辺は玄関でよろける。
クッキーは腕にしがみつき、ココは腰に抱きつき、モカは服を掴んでいた。
「とりあえず入って!」
三人を家の中へ入れる。
その間にも外では雷が鳴り、三人が同時に「きゃあ!」と声を上げた。
そして、また渡辺へ飛びつく。
「分かった、分かったから」
「怖いよぅ」
「大丈夫だって」
「ほんとぉ?」
「家の中にいるんだから平気」
渡辺は三人の頭を順番に撫でる。
「ほら。もう少ししたら弱くなるから」
自分に言い聞かせるように、そう言った。
クッキーが渡辺の服を握ったまま見上げる。
「翔太、怖くないのぉ?」
「……」
少し前まで、怖かった。
でも、三人を慰めているうちに、いつの間にか胸のざわつきは消えていた。
「怖くない」
渡辺は答える。
「俺がいるから大丈夫」
「ほんとぉ?」
「うん」
三人が少しだけ安心した顔をする。
渡辺はそんな三人を見ながら、自分でも少し笑った。
さっきまで一人で雷を気にしていたのに、今は怖がる暇すらない。
渡辺はスマートフォンを手に取り、阿部とのトーク画面を開いた。
『帰ってきたら家に来て』
短く送る。
少し考えて、もう一つ送った。
『クッキーたちいる』
それだけで、多分事情は伝わる。
しばらくすると、雷は少しずつ遠ざかっていった。
三人もようやく落ち着き、ソファに並んで座っている。
渡辺は冷蔵庫を開けた。
朝、宮舘が剥いておいてくれたリンゴがある。
容器を取り出した。
「リンゴ食べる?」
三人が一斉に振り向く。
「食べるぅ!」
「ほしいぃ!」
「りんごぉ!」
さっきまで泣いていたとは思えない。
渡辺はリンゴを小皿に分けて渡す。
三人は嬉しそうに食べ始めた。
「甘いぃ」
「涼太が剥いたの?」
「そう」
「上手ぅ」
「リンゴ剥くのに上手いも何もないだろ」
そう言いながら、渡辺も一つつまむ。
その時、ココがリンゴを食べながら渡辺を見た。
「翔太ぁ」
「何」
「映画作ろぉ?」
渡辺の手が止まる。
「……は?」
モカもすぐに続けた。
「作れるよぉ」
クッキーも頷く。
「映画ぁ」
「何で今その話になるんだよ」
「だってぇ」
ココが楽しそうに言う。
「STAY.楽しかったぁ」
「次も作りたいぃ」
「生活もあるしぃ」
モカがしれっと付け足す。
渡辺が顔をしかめた。
「最後の本音出てるじゃん」
「強欲ぅ」
「自分で言うな」
クッキーは気にせずリンゴを食べている。
渡辺は三人を見る。
映画。
自分が主演するなんて、今のところ全く考えていない。
ただ、作ること自体は少し面白そうだと思った。
目黒と阿部が作った映画を見て、制作秘話まで聞いた。
自分なら、どんな話にするだろう。
そんなことを、一瞬だけ考えてしまう。
「……脚本」
三人が顔を上げる。
「みんなで考えて、良さそうだったら」
渡辺は少し間を置いた。
「作ってもいい」
一瞬、静かになる。
次の瞬間、三人が歓声を上げた。
「やったぁ!」
「映画ぁ!」
「印税ぃ!」
「そこは黙れ!」
渡辺の家で、突然、脚本会議が始まった。
テーブルには、紙とペン、飲み物、残っていたリンゴが並んでいる。
クッキーたちは、さっきまで雷に怯えていたことを完全に忘れたように、あれがいい、これがいい、こっちの方が面白いと好き勝手に話していた。
渡辺も最初は聞いているだけだった。
けれど途中から、
「それだと意味分かんない」
「こっちの方がいいだろ」
「最初にこれを出した方が、後で使えるんじゃない?」
と、少しずつ口を出すようになる。
三人も、渡辺が意見を言うたびに楽しそうに書き足していった。
紙の上には、少しずつ新しい物語が出来上がっていく。
しばらくして、再びインターホンが鳴った。
「来た」
渡辺が立ち上がる。
玄関を開けると、阿部がいた。
「何?」
「急に来てって言われたから」
「こいつら」
渡辺が部屋の中を指差す。
阿部が覗くと、クッキーがすぐに手を振った。
「ままぁ!」
「やっぱりいるじゃん」
阿部は靴を脱ぎながら笑う。
「雷、怖かったの?」
「怖かったよぅ」
「翔太しかいなかったぁ」
阿部が渡辺を見る。
「ありがとう」
「別に」
「三人とも、迷惑かけなかった?」
「最初だけ」
「何したの?」
「三人で飛びついてきた」
阿部が笑う。
「想像できる」
「笑うな」
リビングへ入ると、阿部はすぐにテーブルいっぱいに広がった紙に気づいた。
「何これ」
渡辺が答える。
「脚本」
阿部の動きが止まる。
「もう?」
ココが胸を張る。
「作ってるよぉ」
「翔太が映画作っていいってぇ」
「まだ決めてない」
渡辺が訂正する。
「脚本が良かったらって言っただけ」
「ほぼ決まりぃ」
「違う」
阿部は途中まで書かれた脚本を手に取った。
少し読む。
ページをめくる。
さらに読み進める。
そして、あるところで顔を上げた。
「……俺、出るの?」
渡辺は目を逸らす。
「俺が決めたんじゃない」
三人を見る。
クッキーは阿部の反応など気にせず尋ねた。
「ままぁ」
「何?」
「ちゅー、あった方が良かった?」
阿部が止まる。
渡辺がクッキーを見る。
「急に何聞いてんだよ」
ココも阿部を見る。
「恋愛映画だからぁ」
モカも頷く。
「ちゅー必要かなってぇ」
阿部は少し考えた。
そして、脚本を見ながら言う。
「キスは」
三人が待つ。
「一回だけでいいよ」
クッキーが首を傾げる。
「一回?」
「一回」
ココが少し不満そうな顔をする。
「少なくない?」
「少なくない」
「STAY.三十三回だったよぉ」
「比較対象がおかしい」
渡辺が吹き出す。
「それはそう」
阿部は席についた。
「それより」
脚本の一箇所を指差す。
「ここ、このままだと後半につながらなくない?」
渡辺が覗き込む。
「どこ?」
「ここ」
「……あ」
「最初に何か伏線を入れた方がいいよ」
ココがすぐにペンを持つ。
「何入れるぅ?」
「例えば」
阿部もいつの間にか、脚本会議に参加していた。
そこから、四人だった脚本会議は五人になった。
阿部が話を整理し、渡辺が、
「それはやりすぎ」
「そこは残したい」
と意見を出す。
クッキーは、
「もっと悲しくしたいぃ」
ココは、
「でも最後は幸せぇ」
モカは、
「ちょっと怖いのも入れよぉ」
と、次々に注文を出す。
渡辺は何度も、
「盛りすぎ」
と言った。
それでも、削って、足して、また削って。
少しずつ、一つの話になっていった。
外では、いつの間にか雷の音はほとんど聞こえなくなっていた。
雨だけが、静かに窓を叩いている。
しばらくして、最後の一行を書き終えた。
ココが満足そうにペンを置く。
「できたぁ」
モカも続ける。
「できたねぇ」
クッキーは、
「映画ぁ」
と嬉しそうに笑った。
渡辺は、出来上がった脚本を最初から読む。
阿部たちは黙って待っていた。
一枚。
また一枚。
ページをめくる。
最後まで読み終える。
渡辺は少し悩んだ。
自分から映画を作りたいと言ったわけではない。
何となく始まった脚本会議だった。
なのに、出来上がったものは思っていたよりちゃんとしていた。
渡辺は小さくため息をつく。
「……これなら」
クッキーたちが身を乗り出す。
「撮ってもいいかも」
一瞬、三人が固まる。
そして、
「やったぁ!」
大喜びした。
阿部も脚本を見ながら笑う。
「結構いいと思うよ」
渡辺はもう一度、完成した脚本を見る。
まだ、誰にも見せていない。
どんな物語なのか。
誰が出るのか。
何が起こるのか。
それは、もう少しだけ秘密にしておこうと思った。
コメント
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クッキー達3匹のキャラ好き、特にモカ、何処💙に似てる(*^^*) クッキーは💚ちゃんを「ままぁ」って呼んでるけど、モカとココは💛💜夫婦の家の子なのに💛パパ💜ママって呼んであげないの? 💛💜は絶対激甘になって一杯美味しい物くれると思う(*^^*)
かわいい💙🐶🐶🐶
みぅです🤍🥀 『雷の日』読んだよ…。 タイトルと「雷」から、もっと重い空気かと思ってたんだけど、読み進めるうちにどんどんあたたかい気持ちになっていった…。渡辺くんが三人を必死になだめてるうちに、自分も怖さを忘れちゃう感じ、すごく自然で好きだな。そして最後の脚本会議で阿部くんが加わって、五人で物語を作っていく空気感がもう…“家族”だよね。 しかも完成した脚本を「これなら撮ってもいいかも」って言う渡辺くん。ちょっと照れてるところも含めて可愛い…。 続き、すごく気になるよ🌙