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追憶の探偵

13 - 1-case13 あの十年を埋めるには

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2025年01月09日

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「チッ……何処行きやがった」

「春ちゃん、もういい加減諦めようよ。日が暮れちゃう」



公園で目撃した少し大きめな黒い猫。爛々と輝く金色の目を見てそいつが依頼人の探して欲しいといった黒猫、マモであることを瞬時に悟った。しかし、神津とくっついていたこともあり身体を起こし、立ち上がる頃には公園の出口へと猫は走って消えてしまった。それから、かれこれ四時間昼食を挟んで探しているのだが一向に見つからなかった。さすがに、これだけ長いこと探し回っていたら体力もそこを尽きる。

後ろでくたくただよ。といいながら神津は座り込んでいた。俺はため息を吐いて、近くの自動販売機で買ってきた飲み物を神津に渡す。



「ほれ、飲め」

「ありがとう」



俺も疲れていたこともあり、河川敷の芝生の上に腰を下ろした。

確かに神津の言っていたとおり、夕日が沈みつつある。黒猫探しを始めたのが十時か、十一時ぐらいだったかそこらだったため、あたりがほんのりオレンジ色に染まっているのには納得がいった。



「凄く綺麗だね」

「……そうだな」

「あっちにいたときはさ、時間の感覚がズレててゆっくり夕日を見ること何てなかったんだよ」



と、神津はぽつりと零す。


神津の言うあっちとは、外国のことだろう。彼に聞けば、数カ国――空白の十年の間に転々としていたらしいから、時間の感覚がズレたり、なくなったりはあり得るのかも知れない。それに、神津は忙しい奴だったから。神津は背伸びをしながら、気持ちよさそうに空を見上げた。



「こんなふうに、ゆったりとした時間を過ごせるって良いよね」

「まあな。でも、俺はお前とこうやって過ごすよりは仕事してぇよ」

「春ちゃんってば、つれないんだもん」



嘘ではない。


神津と過ごしたいという気持ちもあるが、神津と一緒にいなかった毎日はそれはもう様々なことに追われていた。学生時代は勉強、そして警察になり事件、父親の葬式。めまぐるしい日々だった。だから、忙しいのには慣れていた。それこそ、彼が時間の感覚がなくなったズレたというのと同じに、俺は忙しさに心を置いてけぼりにしてしまっていたのだ。

忙しい日々のことを思い出して少し懐かしく寂しく感じるのだ。それが、きっと神津がいないということを埋める一つの方法だったのかも知れないが。それを抜きにしても、仕事をしたいというのは、たんにお金がないからという意味も勿論含まれている。仕事をしなければ食っていけない。



「急いでも意味ないよ。ゆっくりいこう、時間はたっぷりあるんだから」



そう神津の言う言葉に俺は頷けなかった。

神津は、俺を生き急いでいるみたいで心配だと付け足して、ふわりと笑みを浮かべる。

その笑顔が眩しかったのか、夕日のせいなのかは分からなかったが、俺は目を細めた。だが、細めた後に見えた神津の顔は何処か寂しそうだった。



「僕は、頑張ってあの十年を埋めようと思ってる。春ちゃんは?」



不意に神津から投げられ俺は目を見開いた。眩しい夕日が目を焼く。

神津がこれまで俺に明るく振る舞っていたのは、そのためかと一瞬思わされたが、俺は何かを言おうと開いた口を閉じて小さく膝を丸めた。



(あの十年が簡単に埋まるなら苦労していない)



大人になってからこそ、十年だったり、五年だったりは短く感じるのに、幼馴染みとの十年という空白の時間はあまりにも長かった。埋められるはずもない時間だ。

神津と一緒に中学生になると思っていたし、高校生になってバイトとか受験とか……青春時代を送るものだと思っていたから、その期待と夢を置き去りに十年過ぎてしまったんだ。どう、取り返すというのだ。

何年経っても幼馴染みという肩書きは消えることないし、一緒に過ごした十二年が消えるわけでもない。だが、俺にとってあの十年は苦しくて一人過去に置いていかれたようなものだった。

ずっと隣にいると思っていた幼馴染みは海外へ。別れ際に告白されて、十年に一回だけ連絡を入れて恋人になった。それっきり。



「そう簡単に埋まるかよ……」



そう零した俺の声が聞えたのか、神津はそうだね。といって俺の後ろに回ると後ろから優しく抱きしめた。離さないとでも言うような彼の腕に、体温に俺は身を任す。



「十年って長いもんね。ごめんね、春ちゃん」

「……お前は、何も変わってないのか?」

「どうだろ。春ちゃんは、どう思う?」

「さっきから、質問ばっかだな」



最近よけい十年前のことを自分でも掘り返すなあと自覚している。神津が帰ってきたのは二年前なのに俺は今頃になって、十年の空白について文句を言っているのだ。それは、きっと彼と恋人らしくなってきたから。だが、あと一歩恋人だとはっきり言えないのは、彼に甘えられないのは十年分の気持ちをどう彼に伝えるか分からないからかも知れない。


自分は、変わったか。

その質問を俺は悶々と考えた。

変わったのか、きっと多分変わったのだろう。根本的なところは変わっていなくても、十年で人は変わるだろう。


思いも、考え方も、生き方も。

少なからず二年前の出来事が俺を変えた。



「……そういうお前は」

「何? 春ちゃん」

「いや、少し工場地帯に行ってみないか?」

「何で?」

「港近くの工場地帯……いうて、そんな工場なんてねえしただのコンビナートっていえるかあれだけどなだけど、あそこ、猫あつまんだよ」

「まだ探すの?」



と、神津は嫌そうなかおをした。


だが俺は今日はそこを探したら最後だと、彼の嫌な顔など見ないフリをして立ち上がる。神津は仕方がないなあと言うように重い腰を上げて沈んでいく夕日を見ていた。風に揺れる彼の三つ編みはほどけそうでつい手を伸ばしてしまいたくなった。



「揺れるものに反応するって猫みたい」

「うっせえ。ほどけそうだったんだよ」



後ろに目でもついているのかと思うぐらい、神津は俺の行動に対しそう口にした。

俺は手を引っ込めつつ、神津を置いて歩き出した。後ろから置いてかないでよーなどと神津の声が聞えたが、俺は無視して足を進めた。俺たちの後ろには長い黒いかげができていて、ゆらゆらと揺れていた。

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