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#男主人公
パラレル・ゲーマー
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家を出て三年ほどは、毎日欠かさず春佳に連絡していた。
今も俺から連絡しているが、慣れゆえか、春佳からの返事が遅れる事もあった。
『毎日必ず連絡しろ』と強制したくても納得させられる理由がなく、『何もないならいいか』と思ったのが仇となった。
父親は何かを思いだし、下卑た笑いを顔に張り付かせる。
『春佳は母さんに似て痩せているが、体はもう大人だ。父さんの言う事なら何でも聞くし、お前とは違って従順で、本当に可愛いよ』
直接的な言葉を言われずとも、このけだものが春佳に何をしたのかすぐに察した。
『…………っ、この外道が!!』
怒鳴りつけたが、一度人の道から外れた男には蛙の面に水だ。
『…………殺してやる…………!』
最悪の事態が起こってしまったと知り、俺の中で何かがブチリと切れた。
全身の血が凍ったように感じ、〝人〟としての判断を下せない。
外道はニヤニヤ笑いを顔に張り付かせ、黙って俺を見ている。
――そうか。もう俺を支配できないと知って、次は自分に逆らわない春佳を狙ったのか。
あまりの怒りで体がブルブルと震え、思考は正常さを欠いた。
トラウマを失念した俺は、目の前のけだものをこの世から消し去る事だけを考える。
『父さんはお前が大好きだよ。お母さんそっくりのお前には、幸せになってほしいなぁ。父さんは、お前が幸せになってくれるなら、どうなってもいいや』
街灯の光を浴びた中年男の姿をした悪魔は、とろりと愉悦の籠もった笑みを浮かべた。
そして踵を返すと、何事もなかったかのようにゆっくり歩き、立ち去っていった。
――あの悪魔を殺さなくてはいけない――。
――だが、俺が犯罪者になったら春佳を守れない。
――どうすれば誰にも気づかれずあの男を殺せるか、考えなくてはいけない。
それからしばらく、俺はあいつを殺す事だけを考えて生活し続けた。
出勤して無心にコードを打っても頭にあいつの顔がチラつき、気が狂いそうになる。
食欲も落ちてろくに眠れず酷い顔色をしていたからか、先輩の小村さんが心配してくるようになった。
まさか『父親を殺す方法を考えているんです』など言える訳もなく、体調が悪いと言って誤魔化した。
父親を殺すための手段は、大体見当をつけていた。
刃物で殺害すれば大事件になり、警察に捜査された挙げ句逮捕されてしまう。
人が死んでも騒ぎにならないのは何か、と考えれば、やはり自殺だ。
幸いあの男は煙草を吸っている。
実家では夏になると麦茶を作る習慣があるから、ニコチンが溶けた液を麦茶に混ぜれば、急性ニコチン中毒で死んでくれるのではないか――。
そう思い、七月の連休に春佳と母を実家から遠ざける事にした。
母親の監視下にある春佳は門限通りに行動しているが、もっと自由に遊びたいはずだ。
今でも時々遅くなっては怒られていると聞くし、自分へのご褒美にカフェで甘い物を食べたい、友達と旅行に行きたいという欲を持っている。
なら、母親が家を空ければ、春佳も遊びに行きたいと願うだろう。
春佳を連れ出す役割は、彼女の親友である北原千絵に任せた。
千絵と仲良くすれば、妹が大学でどう過ごしているか教えてもらえるメリットがあるので、優しく接し続けてきた甲斐があった。
四月に入り、俺は千絵を東京駅近くのカフェに呼び出した。
『どうしたんですか? 春佳には内緒って……』
現れた千絵は、不思議そうな表情で席に座る。
『好きな物を頼んでいいよ。……実は今回、千絵ちゃんに頼みがあるんだ』
『ありがとうございます。……頼み?』
彼女はメニューを手に取り目を瞬かせる。
俺は脚を組み、少し照れくさそうに言った。
『春佳の事なんだけど、ずっと母親を気にして自由に遊べずにいるだろ?』
『……そうですね。女子大生にしては門限が厳しすぎて気の毒です』
千絵は春佳を大切に思ってくれているらしく、眉間に皺を寄せて言う。
『君の言う通りだよ。春佳は毒親に洗脳されて、自分が虐待されていると分からずにいる。俺は妹を実家から出してあげたいと思っているが、春佳が自覚しない限りどうする事もできない。無理に家から出せば『戻る』と言いかねないし、俺を憎むかもしれない』
少し翳りのある表情で言うと、彼女は真剣な顔で頷いた。
『冬夜さんの言う通りだと思います。春佳はとてもいい子ですが、ちょっと周りが見えなくなっていると思います。私も時々指摘しているんですが、あまり言い過ぎると喧嘩になりそうで……』
『妹を大切に想ってくれてありがとう。春佳はいい友達を持ったな』
『へへ、やめてくださいよ。冬夜さんみたいな格好いい人に言われたら、調子に乗っちゃいますから』
照れ笑いをした千絵はケーキセットを頼み、俺はホットコーヒーをオーダーした。
待っている間、俺は本題を切り出す事にする。
『それで、頼みなんだけど』
『あっ、はい! 冬夜さんのお願いなら、なんでも聞きます』
千絵は身を乗り出して言い、俺は純真な彼女に微笑みかける。
そしてバッグからチケットホルダーを出した。
『ここにチケットがあります』
半分ふざけながらゆっくりとチケットをテーブルの上に滑らせると、千絵の目が輝く。
チケットホルダーには有名テーマパークのフリーパスと、敷地内にあるホテルの名前が書かれてあったからだ。
『えーっ!? これ、どうしたんですか?』
彼女は両手を合わせ、期待の籠もった目で俺を見る。
『春佳に羽を伸ばしてほしいと思って。ペアだから、良かったら一緒に行ってあげてくれないか? 七月半ばの連休で予約を取ったんだけど』
『勿論です! わーっ! 嬉しい! 役得!』
千絵は声を弾ませ、大喜びする。
『……ただ、もう一つお願いがあるんだ。俺からのプレゼントだと知ったら、春佳は遠慮すると思う』
少し声のトーンを落として言うと、彼女もまじめな顔になって頷いた。
『そうですね。〝自分だけ楽しい思いをしていいのか〟って思いそうです』
『だから、千絵ちゃんの身内が行く予定だったけど、急に行けなくなったからチケットを譲ってもらった……という体にしてもらえないかな? 勿論、千絵ちゃんのご両親には、本当の事を言ってもらって構わない。多分、うちの事情を聞いたら俺の気持ちを理解してくれると思うから』
そう言うと、千絵はあっさり頷いた。
『勿論です! ……うちの親も春佳の家庭事情は知っているんです。〝友達としてできる事をしたい〟と言ったら、親も〝そうしなさい〟と言っていました』
『外泊になるけど、千絵ちゃんは大丈夫?』
『大丈夫です! 女子同士ですし、妹想いの冬夜さんのお願いなら絶対に大丈夫! うちの両親も春佳に
〝女子大生らしく青春を謳歌してほしい〟と言っていますし』
千絵はグッと親指を立てて言い、少し照れくさそうな顔で続けた。
『親に〝春佳には妹想いの素敵なお兄さんがいる〟って話してたんです。で、写真も見せちゃいました。母ったら〝イケメンね〟ってはしゃいでたんですよ。瀧沢兄妹はうちの家族に評判がいいですし、本当に大丈夫』
『良かった』
いつか千絵を利用するかもしれないからと、優しく接し続けてきたかいがあった。
『じゃあ、七月、春佳を宜しくお願いします。楽しい思い出を作ってあげて』
『こちらこそ、ありがとうございます! しっかり楽しんできますね。お土産も買いますから!』
そのあとは春佳の大学での様子を聞きながらお茶をし、一時間後には店を出て別れた。
春佳を家から出す手立ては整えたので、あとは母親を外出させるだけだ。
母は懸賞を趣味にし、毎日サイトをチェックしてはあらゆる物に応募している。
実際に当選した事もあったが、賞品が送られてくる時は予告なく現物が送られてくる。
それを利用し、俺は自宅に箱根にある温泉旅館のペアチケットを送る事にした。
母の事だから、いきなり宿泊券が当たっても『無数に応募した懸賞の中の何かが当たった』としか思わないだろう。
それに宿泊券が当たっても、母は決して夫を誘わない。
物心ついた時から夫婦生活は破綻していて、〝家族〟を演じるために外出はしても帰宅したあとは他人のように接し、極力関わらずに生活していた。
両親が夜の営みをしていた気配もないし、仲良く話したりテレビを見たりもない。
きっと母は父親が俺を犯している姿を見て、とっくに夫に愛想を尽かしたんだろう。
だから宿泊券が当たっても、絶対に夫を誘わない確信があった。
俺は箱根の温泉旅館に連絡して宿泊券を発行してもらう事にした。
『母親と親子関係がうまくいっておらず、僕の名前が出ると母は不機嫌になるので、懸賞が当たった体で宿泊券を送りたいんです。日時を指定した宿泊券に食事やエステ等のサービスもつけてください』
宿泊業では色んな〝事情〟を持つ客がいるので、スタッフは快く受け入れてくれた。
〝決行〟する日時を指定した宿泊券は、五月下旬には自宅に発送されるそうだ。
コメント
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臣桜さん、第23話読みました…! 冬夜の計画が着々と動き出してるのがすごく怖くて、でも切なくて…“父親を♡♡♡方法”を真剣に考えるシーン、読んでて心がギュッてなったよ😭 千絵ちゃんに優しくしてたのも“いつか利用するため”だったんだね…それが彼の優しさなのか打算なのか、もう分からなくなってくる。 それでも妹を守ろうとする執念が、背筋が凍るけど、そうするしかなかったんだろうなって思うと胸が痛いよ…次が気になる!