「「うおえぇ……」」
酔っ払いはまだ吐いていて、魔獣の成れの果てを見た俺も吐いてしまった。
ダリルにいちゃんは背びれと鱗のついた皮膚を剥がして手に持ってきている。
俺の喉にまたエビとイカと貝が込み上げてきて……なんとか耐えた。
「おい、酔っ払い。作れるのか? 寝てるか?」
ひとしきり吐いたバルゾイおじさんはもう元気らしく
「大丈夫だ、酔ってねえ。そいつと鋼、持ってきてんだろ? 金床もよ。なんだよ、ちゃんと一式揃ってんじゃねえか」
そう言ってダリルにいちゃんが浜辺に準備した作業場で何やら作業をしだすバルゾイおじさん。
ダリルにいちゃんは小瓶のコルクを抜いて中の液体を焚き火に放り込む。すると炎は勢いを増して燃え上がる。
「おお、サンキュー。これでこんなとこでも問題はねえやな。トマス坊よ、ちゃんと見とけよ。これがドワーフのワザってヤツだからよ」
そう言ってバルゾイおじさんは鋼を鍛えだす。隣でダリルにいちゃんは食べた二枚貝の貝殻を砕いて粉にする。
「まあ、いまのトマス坊が見て分かるか知らんがな、俺っちたちは武具にエンチャントっつーのを施しもするのよ。今は出来るやつもここの街には居ないだろうがな」
そう言って鱗を手にするとそこからモヤのような物が出てくる。
「これが魔獣の魔力。こっちの貝殻もそう。背びれもな。それにこの場も、海のそばとあって水属性のエンチャントにはこれ以上はねえやな」
水、属性? 一体なんの話なんだろう。バルゾイおじさんが喋りながらも作業は続く。ハンマーで叩くリズムは心地よく、燃え盛る炎も不思議と怖くはない。
「坊は案外、ちゃんとドワーフなのかも知れんな」
そんな事を言っているバルゾイおじさんは嬉しそうだ。
ダリルにいちゃんはいつの間にか居ない……あ、岩場のとこにいた。
あれから1時間ほどだ。
俺の手元には一本のピッケルがある。それは表面に波のような模様を浮かべ、心なしか水色が入っているかのように輝いている。
「子どもになんて物持たせるんだ。お前の本気の作じゃないか」
「当たり前よ! 手抜きなんかするかってんだ。途中でトマス坊にも叩かせて魔力を覚えさせた坊専用のツルハシよ! どんなに硬い岩盤も水が染み込んだ土みてえに削り出せるぜ!」
ガハハと豪快に笑うバルゾイおじさん。釣り上げたと言う人魚を肩に担いでいるダリルにいちゃん。
エンチャント……はじめて聞いた言葉ではじめて見た作業なのに、これがどんな物なのか分かる。確かにダリルにいちゃんの言う通り、とんでもない効果を秘めているんだろう。なにせこれ自体がもう魔獣と戦えるような代物。
ごくりと喉を鳴らし早く使ってみたい衝動に駆られる。
「って何で人魚っ⁉︎ 釣れるわけあるかぁっ!」
俺は流しきれずにツッコんでしまった。
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