大城さんはやはり出来る人であった。おかげで今日も早めに帰宅できそうだ。
そうそう、鷲見さんって今日来てないかしら。ショートカットして早めに彼女と会ったとしても、もう謙太とは会っているわけだし。
来訪名簿を見るとやっぱり鷲見さんの名前があった。ここで会うべきなのか……。
今日はあえて彼女とは会わないようにしよう。
あ、応接室から彼女が出てきた。
私はあえて隠れて彼女を見る。そしてやはり彼女はオフィス内を見渡して誰かを探している、きっと私のことだろう。
「白沢さん、隠れてどうしたんですか」
「わっ」
後ろから大城さんが声をかけてきた。びっくりして大きな声を出しそうになったけど私は口を押えた。
「なんでもない。そういえばもうすぐお昼だけど」
「はい。なんか山田課長から誘われて……一緒に行きませんか?」
……あれ、こんな展開あったっけ。大城さんの横に山田課長。
人員少なかった時あちこち行ってたからなぁ。
「……あ、まだちょっとやることあって」
「では先に休憩いただきます」
大城さんが手を合わせて山田課長と共にオフィスを出ていった。
……前の時もこんなふうに二人で行ってたのかな。もしここで3人で行くと何か変わるのだろうかと思ったり?
でもそんなことしている場合じゃない。私は鷲見さんが帰って行ったのを確認した後猪狩課長の元に行く。彼女の略奪婚事件があってから全く話をしなくなって、でも何度目かの時に事実を知ってそれは誤解だったと……。
時間も少し余裕できたし、また話をしたいとは思っていた。
「お疲れ様。ご飯は……相変わらずお弁当かしら」
「はい、お弁当です。山田課長たちは食べに行っちゃったけど」
「珍しいわねー。孤高の山田が誰かと食べに行くだなんて。娘さんの手作りの弁当あるのに」
たしかに。あ、おっと。この時はまだ猪狩課長の略奪婚の真実は知らなかったから気をつけなきゃ。
「たまにはご飯食べない?」
こういう展開になるよね。
猪狩課長は会社のテラスで食べるらしい。
ああ、繰り返すって分かってるのなら他のことも色々経験してみればいいのに謙太のためにと……ってそればかりで。
それはそれで良かったかもしれない。でも……もし謙太の死を止めることができなくてその後、私は一人だ。
そして毎回私も死んでるんだけど……。1回目は病死、2回目は鷲見さんと3回目は謙太と高所から飛び降りて……。
一つ一つの行動で結末が変わってる。
「体調悪いの?」
「……あ、いえ。」
猪狩課長はコンビニのサラダスパとおにぎりだった。
彼女も相変わらずこれか、と。子供を出産したら尚更忙しいのだろうか。でも彼女は子供がいます、ましてや赤ちゃんが、感がない。
本当に結婚するまで仕事一筋だったわけだし、今もそれを貫いている。
他の同期たちが結婚したり出産したりして
「夫がねー」
「子供がー」
を、言い訳にして仕事をセーブしているのとは違う。私はしたことはないけども。
過去に彼女から聞いたけど猪狩課長は早くに両親を亡くして家族がいないから自分で働いて稼ぐしかないって。
「あなたは消極的なのよ。結婚したら少しは変わるとは思ってたけど……山田には一度あなたに大きな仕事ガツンと任せてみたら? って言ってみたけどさ……派遣の子にリーダー任せるだなんて。子作りしてるの? だから仕事セーブしてるってことかしら」
かなりストレートだ。大城さんにリーダーを任せたのは謙太の死の真相をだなんて言っても通じないだろう。
てかリーダーを任命しようとしたのは猪狩課長だったわけ?
「まあ山田は扱い雑だしね」
私はそれに笑ってしまった。そのせいで1回目は私過労死したし。
「そういえば鈴原専務、こないだここ来てましたよ」
二人の過去に色々あるのは前の時に知っている。
「珍しい」
やはり無理やりされて妊娠させられた、その経緯が猪狩課長にとっては嫌だったのか。
「白沢さん、略奪婚で私のこと軽蔑してたかと思ってたけど……そう?」
確かに軽蔑してた。でも前の時に事実を知ってからはそうでなくなった。
「だから避けているかと思ってさ。こないだ私に助けてくれって声をかけてくれたのはびっくりしたのよ」
一息ついたあと周りの目を気にしながらも人があまりいないことを確認して鈴原専務とのことを話した。
2回目聞くのもやはり辛い。
「結婚してもあっちは仕事や接待でほぼいないし、子供が嫌いだから娘のことは抱こうともしない。保育園の送り迎えも私。あいつは女好きの自由人だから他に女はいるわ」
ん? この話は前の時聞いてなかった。
「一人はわかっている。よくここのオフィスに出入りしている鷲見、という女」
鷲見さんが猪狩課長の夫、鈴原専務と……?!
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