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以来、私たちは、毎週の休日には少なくとも一日は、どちらかの部屋で過ごすようになっていた。例えばそれは、二人してどこかに出かけた時も同じだった。それぞれの部屋にそれぞれに帰って行くのではなく、どちらかの部屋に一緒に戻り、昼食か夕食を一緒に取る。それが私たちの当たり前となっていて、今ではもうすっかり、互いの部屋の物の在処が互いにそれとすぐに分かるほどだ。
そんなだから、彼に会えない日の私は、物足りなさだけではなく、寂しさを感じるようになっていた。その度に、あぁ私は彼のことを本当に好きなんだなと、心底実感するのだ。
そして今日も、私は午後から迅の部屋を訪ねていた。ソファに並んで座り、映画を見た後は、迅の手料理で夕食を取った。彼を手伝って後片付けを終えてからは、彼が淹れてくれた食後のコーヒーでのんびりと寛ぐ。
コーヒーカップの中身が空っぽになり、私はふと時計を見てはっとした。すでに八時を過ぎていた。今日はいつもよりもだいぶゆっくりしてしまった。
そわそわし出した私の様子に気がついて、迅の表情がふっと曇る。
「もう帰る?」
もう少しここにいてほしいと思っているのは明らかだった。
私も本当は、まだ彼の傍にいたかった。けれど、今日はいつもよりも長居してしまった。ずるずると遅くまで居続けるのは迷惑に違いない。
そのことを伝えようと口を開きかけた時、迅に抱き寄せられた。そのまま彼の胸元に倒れ込んでしまう。
「じ、迅君……」
うろたえる私の背を彼はきゅっと抱き締める。
「帰したくないな……」
彼のかすれた甘い声にうっかり頷いてしまいそうになった。しかし、私は慌てて自分を現実に引き戻そうとする。
「で、でも、明日から仕事だから、帰って色々と準備もしたいし……」
「じゃあ、次の日が休みだったら、部屋には帰らないで俺と一緒にいてくれる?例えば土曜日から日曜日までずっと、とか」
「え……」
潤んだような迅の瞳から、その言葉の指す意味を理解した。こんなにも私を求めてくれているのだと思うと、彼を受け入れたい気持ちにはなるが、一方ではまだ、恐いという思いが消えない。
私の沈黙を、その時はまだまだ先のことだと思ったのだろう。
「困らせてごめん」
迅は自嘲気味にふっと笑い、私を抱いていた腕を解いた。
「待つなんて言っておきながら、ごめんね。急かすつもりはなかったんだけど、会えば会うほど、美祈ちゃんを好きな気持ちが大きくなるんだ。それでつい、口から出ちゃった。……さてと、送るよ」
迅の切ない表情が胸に刺さる。私はごくりと唾を飲み込み、細い声で彼が望んでいるはずの言葉を口にする。
「いいよ……」
ソファから立ち上がりかけていた迅の動きが止まった。
「今の幻聴かな」
ぎくしゃくした動きで迅は再び腰を下ろし、私をまじまじと見つめた。
「いいよ、って聞こえた気がするんだけど」
その口元には、半信半疑ながらも嬉しさを噛みしめてでもいるような笑みが浮かんでいる。
俄かに恥ずかしさがこみ上げてきて、私は彼から視線を外す。
「言ったわ」
「無理してない?」
念を押すように訊ねる迅に、私は小声で答える。
「無理してないわ」
「俺、その気になってしまうけど、大丈夫?」
「だって、迅君のこと、信じていいんでしょ。それに私、迅君となら……」
そっと見上げた迅の目と視線が絡み合い、どきりとした。
彼は口元を綻ばせながら私の頬に手を伸ばした。その親指で私の唇に触れながら囁き声で言う。
「じゃあさ。今度、俺の部屋に泊まっていって。美祈ちゃんと朝まで一緒に過ごしたい。そう言えば、この前クリスマスはどうするかとか、プレゼントの話とかしたけど、結局どんな風に過ごそうか、全然決めてなかったよね。クリスマスは平日だから、その週末、クリスマスプレゼントとして、俺に美祈ちゃんとの夜をくれない?だめ?」
迅のなまめかしい視線が私を射抜く。鼓動が高鳴り、顔が熱くなった。
「いい?」
重ねて私の返事を促す迅に、私はゆっくりと首を縦に振った。
彼は満足そうに、また、ほっとしたように笑い、再び私を抱き締める。
「思い出に残るクリスマスになりそうだな」
「う、うん」
私は彼の腕の中でどきどきしながらも、ひどく現実的なことを考えていた。
迅が言うその日まではあまり時間がない。今からエステの予約は間に合うかしら。あぁ、美容室も――。
好きな人に肌を見せることになるのなら、少しでも綺麗な自分を見てほしいと思うのは、恋する者としては当然の心の動きだろう。
「今、何考えてるの?」
「べ、別に何も」
エステがどうのこうのと考えていたことを知られたくない。その日を心待ちにして気合が入っているなどと思われるのは、恥ずかしい。
「それより、迅君、私、今日はもうそろそろ……」
「あぁ、そうだった。送るんだった」
迅は思い出したような顔をして、私を解放した。
そのままソファを離れて出かける準備を始めるのかと思いきや、違った。
「今日は車で送ってくよ」
「え?全然歩ける距離だよ?」
「うん、そうなんだけど」
迅はにやりと笑い、私の体に腕を回した。
「もうちょっとだけ、こうしていたくて」
言うなり彼は私の唇を塞いだ。
「ん……っ」
彼のキスは徐々に勢いを増していった。力強いくせに、優しく絡みつく口づけに、頭の芯が溶けそうになる。唇を離した彼は私の顔を両手で挟み込み、微笑む。
「好きだよ」
私も好き――。
言いかけた私に、彼は再び熱情をぶつけるかのようなキスをする。
それを受け止めながら、私は体の奥に渦巻いているもどかしさを持て余していた。
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