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練習場 単発小説

1 - 練習用 ✖️

2025年07月21日

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練習用 単発小説

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ずっと、九人だと思っていた。




なんの取り柄もなかった。

学校の体力テストはいつも、平均以下。体育なんてゴミ教科ってくらいボクは運動神経がなかった。

ボクは障がい者だった。食事も入浴も他の人のあたりまえだって薬無しではできなかった。

勉強は少しできた。でも、周りを見下してしまう性格で、常にボクは自分を嫌った。

絵を描くのが好きだった。周りが上手くて嫉妬して、もうこれっぽちも描いていないけど。

優しい子を、親の理想を演じていただけ。

なんの取り柄もなかったのさ。




「…演劇部?」

この出会いが全てを変えた。

興味なんて無かった。好きな俳優もいなかったし、舞台って世界も知らなかった。

ただ、演劇って響きに、どこか救われたボクがいて

気づくと仮入に行っていた。

そこは別世界だった。誰もボクをひとりぼっちにしない。 演じているボクを責めはしない。

…演じていることは正義だった。


「…あの、本入します。」

先輩に突きつけた部活カード。

他の部活は?三年間ここ?本当にいいの?

そんな不安を抱えて、直感に任せて放り出した手は震えていたのを覚えている。

『ありがとう!!』

「へっ///!?」

ボクは抱きしめられた。強くはっきりと。

その時感じたんだ。

ココではボクでいれるかもしれない。



…結果、同学年で演劇部に入部したのはボク含めた九人だった。

すごく怖かった。全然知らない人ばっかりで、少し後悔してるボクまでいた。



でも、その後悔はすぐに引っ込んだ。


「…!!!!」


先輩方はボクらに学年ずつで、新入生歓迎公演をしてくださった。

すごく…かっこいいと思ったんだ。

お茶目だった先輩が役に入った瞬間、親友を亡くした悲劇の少女を演じていた。

それだけじゃない。あの抱きしめてくれた先輩は、人嫌いの冷徹な役になりきったんだ。

かっこいい。

アレを表現するのに、かっこいい以外の言葉がこの世には存在するのだろうか。

先輩方の劇でボクら九人の話は持ちきりだった。

「あの泣く演技どうやってやるんだろう⁉︎」「声が大きくてピリピリしたよ!」「台詞ない先輩も動いてたよね!」「あぁ!早く演じてみたい!!」

すぐに仲良くなるきっかけになった。


ボクはそれと同時にある夢もできた。

誰かを笑顔にする役者になりたい。

先輩がこんなボクを笑顔にさせてくれたみたいに、絶望してる誰かの、苦しんでる誰かの希望になる役者に。




ただ…

演劇部に入って感じたのは、ボクは演技が下手だってことだった。

声が奥まで届かない。

そんな致命傷があったみたいで、 最初の一年は端役ばっかり、全然舞台に立てなかった。

それでも、がむしゃらに食らいついた。

あんな演技をしたい。

その一心で。

他の八人みんなは凄かった。役者として、スタッフとしてそれぞれの場所で活躍していた。

それでも互いを恨むことなく、仲のいい学年として成長した。


そうそう、カラオケに行ったりショッピングセンターに遊びに行ったり…。

とにかく、上にも下にもどの学年よりも仲が良かったんだ!

ボクが障がい者だって言った時だって、誰も言及しなかった。

みんなはボクを認めてくれた。


『ねぇねぇ!受験終わったら九人みんなで夢の国とか遊園地行かない!?』

『えっ!めっちゃいい!!』

『オレ、友達ト遊園地イッタコトナインデスケド…』

「ボクも!でも、行こうよ絶対!」

『約束ね!』

『「やくそく!』」




三送会公演っていうのがあって、先輩方ありがとうの劇を発表するんだ。(後にそれは新入生歓迎公演にも使い回されるんだけどね。)

涙腺ゆるゆるの中、当時の部長に言われた。

『私は、自分は演技なんてできないと思っていた。でもね、やってみると演じるのがとても楽しかった。』


だから…。どうかみんなは、最初から自分の可能性を否定しないでね


って。

最後まで優しい方々だった。



そうだ。後輩ができたんだよね。

ボクは副部長になった。先輩方みたいに、誰かの憧れになれたらって思って、部長と一緒に頑張った。

その年、なんと地区大会で優勝して、県大会に行ったんだ!

あの景色!忘れられないよ。

床が回る舞台、数百とある照明、質の良い音響…なにより広い観客席!!

結果は3位で全国大会までは行けなかったけど 九人で立った最高の舞台だった。

一生の宝物だと胸を張って言える。




今年は最後の年だった。


最後の舞台。

いや、最後になんてしたくない。また地区大会で優勝すれば、県大会に行ける。 そしたら冬まで部活は続くんだ。

受験生なんて知らない。ココだけがボクの居場所なんだから。

でも二年生の後輩は協力してくれなかった。部活には来てくれないし、なによりこの演劇部で一番仲の悪い学年。

仲良くないと、演劇は良くならないのに。

まぁ、いいよ。一年生が頑張ってるから。



頑張ってるから。
















『◯◯が退部した。』


えっ……?

『他の学年は帰宅。三年は残ってミーティングしよう。』


ボクら九人が 八人 になった。


『退部理由は勉強面と家庭環境だって。』

なん、でっ…。

『最後まで悩んでたよ。みんなに言いづらいって。』

違うよ。

『私も、顧問として止めたけどね。』

だって…っ

『君らの学年は仲が良いから、わかってくれるよね?』

だって…、あと二週間で大会なんだよ?

『君たちは一人一人が誰よりも真剣だった。それについていけなくなったのかもしれない。』

『誰も悪く無かったんだよ。』




信じられなかった。

いや、アイツを責めるつもりはない。 そりゃそうだ、受験生だし…勉強を優先したって悪くない。

そう責めるつもりもない…これっぽっちも…



『…ねぇ、大丈夫?』

「え?」

『元気…ないよ?…』

同じ部活の友達との下校中、前触れなく自分の表情に質問された。

彼女は部活内で唯一の学校が同じ人だったから付き合いも長い。

それで勘づかれたのかも。

「…っあ…っ。」

演じなきゃ。笑わなきゃ。ボクは大丈夫だって…伝えっ…



「…あ…っれ?」



手で受け止めたものは冷たく、確認したくても視界が滲む。

少し経ってから自分が泣いていることに気づいた。

『…引きずってる?』

「そっ…そんなわけっ…」

そんなわけ、ない。…ないんだよ。

ない…はずなのに…



ぎゅっ…



「…!!」


あぁ。

暖かい、あの先輩と同じ優しさだ。



…そうさ。図星だった。

ボクは抱きしめてくれたその背中を握り、ホンネを溢した。



「…アイツのこと、まだきもちが整理できなくて。」

ふざけんなとか、言い訳だろとか、 アイツを責めるつもりも疑うつもりも全くない…。

泣いたって意味ないのに…、ただ、ただ…

寂しくて。 悲しくて。

大会も、文化祭も、三送会も、この九人でできるって思ってたから。

裏切られた…じゃないけど、…。

何か、ナニか声をかけれたら、気づけたら、変わってたんじゃないかって思ったら、 辛くて。

けど、今日部活行ったらオマエも、部長もちゃんと向き合ってて。もとの仕事しっかりできてて。

ボクだけが…って思ったら怖くて。


「みんな、アイツを忘れるのかなって。」

『…んなわけないよ。』

「…わかってる!


分かってるよ。

友達じゃなくなったわけじゃない。

…っでもさ、

カラオケ行こう!とか、遊びに行こうー!とか誘った時に、アイツ、気まずくならないかな。

九人みんなで遊園地行こうねって、約束したのに…。

この3年間、この九人で、

笑って、怒って、泣いて、ふざけて、本気になって、わがまま言って、罵倒して、褒めて

どの学年よりも仲良かったから、先輩みたいに誰かが抜けるって想像しなかったんだ。

みんなでいれる未来を、

ずっと、ずーっと、九人だと、

信じていたんだ 。

それなのに…


「アイツはもう、部室に来ない。」

「アイツが演劇も、舞台も、…ボクたちも、嫌いになっちゃったらって思ったら、」

「この先、高校生とか大人になってみんなともバラバラになっちゃったら、」

「ボクっ…こわいよ…。」



ボクはネジが外れたように泣いた。 歯止めの効かないシミを彼女の肩に作って。

それでもボクの言い分を、我儘を、落ち着いて聞いてくれた。



『…誰も悪く無かった。だなんて綺麗事でしかないよね。』

「…うんっ」

『私も寂しいよ。貴方だけじゃない。 みんな、隠すのが上手かっただけ、』

「…うんっ。」

『…大丈夫。』

『私が誘うよ。いつまでも。』

「………!」

『遊びも、カラオケも、大人になってもずっとずっと会おう…?』

「…うんっ。」

『あのときさぁwって笑い話になるくらいずっと!』

『そしたら寂しくなんてなくなるでしょ!』

「…うんっ。」

『だから、今は泣いていいんだよ。』

「…っ。オマエを泣いてんじゃん…ニコッ」

『っ!うるさいなぁ、もう!元気なら心配してやんない!』

「わりぃ、わりぃ!ありがとね。」



…寂しいも、その解決策もどうしたら良いのか答えは出なかった。

だけど、作れるかもしれない新しい形のミライを見つけることができた。


…ボクは、何ができる?

舞台にアイツはもう来ない。

いや、これから先、どこかでまた立ってくれるかもしれない。

その時のために…。 夢に向かって、また再出発しよう。

今日の寂しいは、


ボクら九人のミライへの一歩たからものだ。







アイツ、勉強頑張ってほしいな。

そのせいで抜けてるんだから、 失敗したら恨むぞ、馬鹿野郎。

どうか、どうかいつまでも演劇と、ボクらを好きでいて。

ボクは、

みんなが大好きだよ。

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