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練習用 単発小説
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ずっと、九人だと思っていた。
なんの取り柄もなかった。
学校の体力テストはいつも、平均以下。体育なんてゴミ教科ってくらいボクは運動神経がなかった。
ボクは障がい者だった。食事も入浴も他の人のあたりまえだって薬無しではできなかった。
勉強は少しできた。でも、周りを見下してしまう性格で、常にボクは自分を嫌った。
絵を描くのが好きだった。周りが上手くて嫉妬して、もうこれっぽちも描いていないけど。
優しい子を、親の理想を演じていただけ。
なんの取り柄もなかったのさ。
「…演劇部?」
この出会いが全てを変えた。
興味なんて無かった。好きな俳優もいなかったし、舞台って世界も知らなかった。
ただ、演劇って響きに、どこか救われたボクがいて
気づくと仮入に行っていた。
そこは別世界だった。誰もボクをひとりぼっちにしない。 演じているボクを責めはしない。
…演じていることは正義だった。
「…あの、本入します。」
先輩に突きつけた部活カード。
他の部活は?三年間ここ?本当にいいの?
そんな不安を抱えて、直感に任せて放り出した手は震えていたのを覚えている。
『ありがとう!!』
「へっ///!?」
ボクは抱きしめられた。強くはっきりと。
その時感じたんだ。
ココではボクでいれるかもしれない。
…結果、同学年で演劇部に入部したのはボク含めた九人だった。
すごく怖かった。全然知らない人ばっかりで、少し後悔してるボクまでいた。
でも、その後悔はすぐに引っ込んだ。
「…!!!!」
先輩方はボクらに学年ずつで、新入生歓迎公演をしてくださった。
すごく…かっこいいと思ったんだ。
お茶目だった先輩が役に入った瞬間、親友を亡くした悲劇の少女を演じていた。
それだけじゃない。あの抱きしめてくれた先輩は、人嫌いの冷徹な役になりきったんだ。
かっこいい。
アレを表現するのに、かっこいい以外の言葉がこの世には存在するのだろうか。
先輩方の劇でボクら九人の話は持ちきりだった。
「あの泣く演技どうやってやるんだろう⁉︎」「声が大きくてピリピリしたよ!」「台詞ない先輩も動いてたよね!」「あぁ!早く演じてみたい!!」
すぐに仲良くなるきっかけになった。
ボクはそれと同時にある夢もできた。
誰かを笑顔にする役者になりたい。
先輩がこんなボクを笑顔にさせてくれたみたいに、絶望してる誰かの、苦しんでる誰かの希望になる役者に。
ただ…
演劇部に入って感じたのは、ボクは演技が下手だってことだった。
声が奥まで届かない。
そんな致命傷があったみたいで、 最初の一年は端役ばっかり、全然舞台に立てなかった。
それでも、がむしゃらに食らいついた。
あんな演技をしたい。
その一心で。
他の八人は凄かった。役者として、スタッフとしてそれぞれの場所で活躍していた。
それでも互いを恨むことなく、仲のいい学年として成長した。
そうそう、カラオケに行ったりショッピングセンターに遊びに行ったり…。
とにかく、上にも下にもどの学年よりも仲が良かったんだ!
ボクが障がい者だって言った時だって、誰も言及しなかった。
みんなはボクを認めてくれた。
『ねぇねぇ!受験終わったら九人で夢の国とか遊園地行かない!?』
『えっ!めっちゃいい!!』
『オレ、友達ト遊園地イッタコトナインデスケド…』
「ボクも!でも、行こうよ絶対!」
『約束ね!』
『「やくそく!』」
三送会公演っていうのがあって、先輩方ありがとうの劇を発表するんだ。(後にそれは新入生歓迎公演にも使い回されるんだけどね。)
涙腺ゆるゆるの中、当時の部長に言われた。
『私は、自分は演技なんてできないと思っていた。でもね、やってみると演じるのがとても楽しかった。』
だから…。どうかみんなは、最初から自分の可能性を否定しないでね
って。
最後まで優しい方々だった。
そうだ。後輩ができたんだよね。
ボクは副部長になった。先輩方みたいに、誰かの憧れになれたらって思って、部長と一緒に頑張った。
その年、なんと地区大会で優勝して、県大会に行ったんだ!
あの景色!忘れられないよ。
床が回る舞台、数百とある照明、質の良い音響…なにより広い観客席!!
結果は3位で全国大会までは行けなかったけど 九人で立った最高の舞台だった。
一生の宝物だと胸を張って言える。
今年は最後の年だった。
最後の舞台。
いや、最後になんてしたくない。また地区大会で優勝すれば、県大会に行ける。 そしたら冬まで部活は続くんだ。
受験生なんて知らない。ココだけがボクの居場所なんだから。
でも二年生の後輩は協力してくれなかった。部活には来てくれないし、なによりこの演劇部で一番仲の悪い学年。
仲良くないと、演劇は良くならないのに。
まぁ、いいよ。一年生が頑張ってるから。
頑張ってるから。
えっ……?
『他の学年は帰宅。三年は残ってミーティングしよう。』
ボクら九人が 八人 になった。
『退部理由は勉強面と家庭環境だって。』
なん、でっ…。
『最後まで悩んでたよ。みんなに言いづらいって。』
違うよ。
『私も、顧問として止めたけどね。』
だって…っ
『君らの学年は仲が良いから、わかってくれるよね?』
だって…、あと二週間で大会なんだよ?
『君たちは一人一人が誰よりも真剣だった。それについていけなくなったのかもしれない。』
…
『誰も悪く無かったんだよ。』
信じられなかった。
いや、アイツを責めるつもりはない。 そりゃそうだ、受験生だし…勉強を優先したって悪くない。
そう責めるつもりもない…これっぽっちも…
『…ねぇ、大丈夫?』
「え?」
『元気…ないよ?…』
同じ部活の友達との下校中、前触れなく自分の表情に質問された。
彼女は部活内で唯一の学校が同じ人だったから付き合いも長い。
それで勘づかれたのかも。
「…っあ…っ。」
演じなきゃ。笑わなきゃ。ボクは大丈夫だって…伝えっ…
「…あ…っれ?」
手で受け止めたものは冷たく、確認したくても視界が滲む。
少し経ってから自分が泣いていることに気づいた。
『…引きずってる?』
「そっ…そんなわけっ…」
そんなわけ、ない。…ないんだよ。
ない…はずなのに…
「…!!」
あぁ。
暖かい、あの先輩と同じ優しさだ。
…そうさ。図星だった。
ボクは抱きしめてくれたその背中を握り、ホンネを溢した。
「…アイツのこと、まだきもちが整理できなくて。」
ふざけんなとか、言い訳だろとか、 アイツを責めるつもりも疑うつもりも全くない…。
泣いたって意味ないのに…、ただ、ただ…
寂しくて。 悲しくて。
大会も、文化祭も、三送会も、この九人でできるって思ってたから。
裏切られた…じゃないけど、…。
何か、ナニか声をかけれたら、気づけたら、変わってたんじゃないかって思ったら、 辛くて。
けど、今日部活行ったらオマエも、部長もちゃんと向き合ってて。もとの仕事しっかりできてて。
ボクだけが…って思ったら怖くて。
「みんな、アイツを忘れるのかなって。」
『…んなわけないよ。』
「…わかってる!」
分かってるよ。
友達じゃなくなったわけじゃない。
…っでもさ、
カラオケ行こう!とか、遊びに行こうー!とか誘った時に、アイツ、気まずくならないかな。
九人で遊園地行こうねって、約束したのに…。
この3年間、この九人で、
笑って、怒って、泣いて、ふざけて、本気になって、わがまま言って、罵倒して、褒めて
どの学年よりも仲良かったから、先輩みたいに誰かが抜けるって想像しなかったんだ。
みんなでいれる未来を、
ずっと、ずーっと、九人だと、
信じていたんだ 。
それなのに…
「アイツはもう、部室に来ない。」
「アイツが演劇も、舞台も、…ボクたちも、嫌いになっちゃったらって思ったら、」
「この先、高校生とか大人になってみんなともバラバラになっちゃったら、」
「ボクっ…こわいよ…。」
ボクはネジが外れたように泣いた。 歯止めの効かないシミを彼女の肩に作って。
それでもボクの言い分を、我儘を、落ち着いて聞いてくれた。
『…誰も悪く無かった。だなんて綺麗事でしかないよね。』
「…うんっ」
『私も寂しいよ。貴方だけじゃない。 みんな、隠すのが上手かっただけ、』
「…うんっ。」
『…大丈夫。』
「………!」
『遊びも、カラオケも、大人になってもずっとずっと会おう…?』
「…うんっ。」
『あのときさぁwって笑い話になるくらいずっと!』
『そしたら寂しくなんてなくなるでしょ!』
「…うんっ。」
『だから、今は泣いていいんだよ。』
「…っ。オマエを泣いてんじゃん…ニコッ」
『っ!うるさいなぁ、もう!元気なら心配してやんない!』
「わりぃ、わりぃ!ありがとね。」
…寂しいも、その解決策もどうしたら良いのか答えは出なかった。
だけど、作れるかもしれない新しい形のミライを見つけることができた。
…ボクは、何ができる?
舞台にアイツはもう来ない。
いや、これから先、どこかでまた立ってくれるかもしれない。
その時のために…。 夢に向かって、また再出発しよう。
今日の寂しいは、
ボクら九人のミライへの一歩だ。
アイツ、勉強頑張ってほしいな。
そのせいで抜けてるんだから、 失敗したら恨むぞ、馬鹿野郎。
どうか、どうかいつまでも演劇と、ボクらを好きでいて。
ボクは、
みんなが大好きだよ。