生徒桃×養護教諭黄
桜舞う4月。
持ち上がりのためクラスのメンツも変わらないし、担任も変わらない。けれど歳は取っていくもので、今やこの学校の最上級生である3年生。
きっと、このままだらだらとそこそこ楽しいまんまに、つまらなく卒業していくんだろうなぁと思っていた。
そんな始業式。
(だっるー……)
春休み明けでぼーっとしながら、だらだら続く校長の話を聞き終わった後。
「初めまして。今年度からこの聖刹(セイセツ)高校で養護教諭として勤務することになりました、吉田仁人です。よろしくお願いします」
真新しいスーツ。微塵も緊張の見られない、期待と希望とに満ち溢れた姿。一目で人が良いと分かるような、笑窪の浮かぶ笑い顔。
そんなセンセイを見て、思ったんだ。
あぁ、俺はこの人に出逢うためにこの高校に入学したんだなぁって。
「………………で?」
日当たりのいい、清潔感のある保健室。
聖刹高等学校に新任でやって来た養護教諭、吉田仁人は、デスクで身体測定の結果をパソコンに入力していた手を止め、心底鬱陶しそうな顔で、ソファにどっかりと腰を下ろす生徒に視線を向けた。
「それ言われて、俺なんて返せばいいの?」
「もぉ〜!吉田センセってば、つれないなぁ」
その顔を見て、我が物顔で怪我人が座る用のソファを占領する佐野勇斗は、盛大にため息をつく。
「イタイケな生徒が愛の告白してんだろうが。他になんか言うことないの?」
「どこがいたいけだよ。イタイ子の間違いだろ」
「ちょっ、だァれかイタイ子だよ!」
ムキになって言い返す佐野がおかしくて、吉田はふはっと吹き出した。
「ふはは!ごめんごめん、イタイ子は言い過ぎだわな」
笑う吉田の顔を見た佐野は、一瞬奇妙な表情をした後、顔を赤らめさっと吉田から目をそらし、苦し紛れに呟く。
「……ガキ扱いしやがって」
「俺から見たらお前ら全員ガキだっての。当たり前だろ」
「ガキだって言った方がガキですぅ」
「そこらへんがガキだって言ってんの」
不貞腐れた佐野の整った横顔を見ながら、吉田はなおも笑うと、壁にかけられた時計を見上げ、あっと声を上げる。
「ほら佐野!もうすぐ3時間目始まる。こんなとこでだらだらしてないでさっさと教室戻りなさい」
「えー……」
吉田に言われて、佐野はダルそうに唸ると、吉田の指示とは裏腹にソファにだらりと寝そべった。
「俺、吉田センセにメロメロノックアウトだから授業いけませぇ〜ん」
「はいはい寝言は寝て言いましょうね〜」
佐野の言葉をバッサリ切り捨て、吉田はガタンと音をたてて座っていた椅子から立ち上がり、ソファに寝そべる吉田の元へ歩み寄ると、佐野の肩へパンチを繰り出す。
「なにすんだよこの暴力きょーしっ!」
佐野は慌ててソファから身を起こし、パンチされた右肩をさすりながら吉田に抗議する。
「うるさいなぁ。子供は勉強すんのが仕事なんだから、さっさと教室行けっつってんの」
仁王立ちして言う吉田を見ながら、佐野はさっきまでのふざけた態度ではなく、少しだけ傷ついたような顔で、小さく呟いた。
「………………また、ガキ扱い」
「ん?なに、なんか言った?」
その声を聞き取れず、吉田は首をかしげて佐野に顔を寄せるが、佐野はそれをさりげなくかわして、またふざけた態度に戻る。
「しょうがねぇなぁ。いとしい吉田センセの頼みだから、おとなしく教室いってきまーす」
右手を真っ直ぐ上げ、宣誓するように言う佐野を見て、吉田はうんうんと頷く。
「おぅ、なんかやらかして廊下たたされないようにな」
「じゃ、また昼休み来るから待っててね」
佐野は、笑いながらくるりと回れ右して、振り返らずにひらひらと手を降り、保健室の扉から出ていく。
「もう来なくてもいいぞー?」
その後ろ姿を見送りながら、吉田はふっとため息をつく。
「…黙ってれば男前なんだけどなぁ」
さぁて、続きやるかぁ。吉田は軽く伸びをして、またデスクのパソコンに向かう。
桜舞う4月。
あるものには夢が叶った、
あるものには日常が変わった、
そして新しく何かが始まりそうな、そんな季節。
next….
季節感ガン無視…!
前書いていたジャンルのハイブリッドリサイクル。
いつまでこちらであげられるか分からなくなってきたのでもう色々あげちゃおう精神であげてしまいました…
続きモノは完結させたい…!
あと、リクエストも…!!
(お待たせしてしまって本当に申し訳ないです…!!)
コメント
1件
続きがとてもたのしみです、!!!