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茂みに潜んでいる複数の人影が森を縦断する道を囲んで獲物が来るのを今か今かと待っている。ある者は人を斬れる機会をうずうずと待ち望み、ある者はこれから自分たちの物になるものがどれほどの金になるのか期待を膨らませていた。
「ボスっ、ターゲットが見えてきましたぜ。ここまであと3分程かと」
望遠鏡のようなものを持った盗賊の一人が木の上から下にいるボスへと状況を報告する。その報告を聞いたこの盗賊団のボスは高鳴る感情が抑えきれず笑みがこぼれる。
偵察隊から連絡があった通りに獲物が何も知らずにノコノコと自分たちの元へとやってくる。彼はこの優越感が癖になってたまらないのである。それに加えて襲撃した際の響き渡る悲鳴や命乞いの声、そして絶望したときの人の表情がさらに彼の心を満たしていく。
「よしっ、お前ら!仕事の時間だぜっ~!!」
これから起こることに期待を膨らませながら他の連中に声をかける。そんなボスの期待感が伝播したのか彼らも顔に笑みを浮かべてその時を今か今かと待っていた。
「ぐわぁぁぁぁぁ!!!!!」
突然道を挟んで反対側の茂みから仲間であろう者の悲鳴が聞こえてきた。いきなりのことにその声を聞いた盗賊団の全員が先ほどまでの笑みから一変して困惑の表情を浮かべる。
「何事だ!!!」
「て、敵襲です!一人やられました!!!」
ボスが状況を把握するまでの間に仲間が潜んでいるであろう方角から悲鳴が次々と聞こえてきた。敵が攻めてきたことは分かってもどの方角からどのくらいの人数が攻めてきているのかが全く掴めないのだ。すでに5人以上の仲間がやられているのにも関わらず誰も敵の姿すら発見できていない。
「クソっ!お前ら、今すぐに敵を見つけ出せ!!!」
徐々にイラつき出したボスは手当たり次第に自慢の大剣を振り回して敵をあぶり出そうとする。もうすでに荷馬車のことなんて頭にないのか、大きな音を立てて周囲の木々をなぎ倒している。しかしその間にも次々と盗賊たちは姿が見えない襲撃者によって倒されていった。
「クソが!!!姿を見せやがれ、この臆病者!!!!!」
盗賊のボスが叫んだそんな悪態も虚しく、ただ仲間の叫び声だけが辺りに響き渡る。
気が付くとそこには盗賊団のボスただ一人だけが森の中に佇んでいた。
「何なんだよっ…!一体、何が起こってるんだよ!!!」
すでに先ほどまで抱えていた怒りという感情はなくなり、彼の心には恐怖が徐々に湧き出していた。大勢の仲間を従えていた盗賊団のボスとしての誇りと絶対的な自信は姿の見えない謎の襲撃者によって全て打ち砕かれてしまった。彼はすでに心を折られたのである。
「…これで最後だな」
「?!」
突然背後から聞こえてきた人の声に驚き、振り返ろうとするが襲撃者の顔を拝む前に彼の目の前が真っ暗になった。謎の襲撃者によって20名近くいた盗賊団は1分も経たないうちに壊滅したのだった。
結局最後まで彼らは自分たちが一体誰によって倒されたのか分かることはなかったのだ。そうして次に目が覚めた時にはすでに王都の地下牢に閉じ込められており、今までの罪を償うこととなった。
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「お~い、マーカントさんこちらです!!!」
俺は想定通りに待ち伏せていた盗賊たちを一網打尽にして荷馬車の到着を待っていた。合計で18人もいたが一人一人のレベルがそれほど高くなかったこともあって何事もなく片付けることが出来た。音もなく気配もなく、そして姿も見えないということで盗賊たちもさぞ混乱しただろうな。
今回はセラピィの協力があったおかげでここまでスムーズに事を運べた。
俺はセラピィに感謝の気持ちを伝えると嬉しそうに俺の周りをぐるぐると飛び回っていた。
「ユウトさん、大丈夫でしたか!?」
「はい、盗賊たちならもう片付けましたよ」
「えっ?!」
俺がそう告げるとマーカントさんは目を丸くして非常に驚いていた。
しかし実感がわかなかったのか冗談はやめてくださいよ~と笑顔でこちらへと歩み寄ってきた。
そこで俺が茂みの中から次々と気絶させた盗賊たちを道に放り出して一人一人縄で縛っていくところを見てようやく本当のことだと認識したのか、口を大きく開けて無言でこちらを見ていた。
「あの~、良かったら縛るの手伝ってもらえませんか?」
「え…あっ、はい!」
結果的に倒すよりも縄で縛る方が時間がかかってしまったが無事に盗賊団の捕縛に成功した。捕縛した18人の盗賊たちを見てマーカントさんは「まさか、一人でこの人数を…」などとぶつぶつと独り言を呟いていた。
「ところでこの人たちどうします?」
「出来れば王都まで運んで警備隊に突き出したいのですが…」
「問題はやはり、どうやって運ぶか…ですね」
「そうなんですよ。うちの馬たちでは荷物に加えてこの人数を運ぶのは到底厳しいでしょうし、だからといってこのままここに放置しておくのも出来ないですし…」
う~ん、倒すこと以上にその後の処理が面倒というのは本当にこいつら厄介だな。
自分たちで歩いて警備兵のところまで自首しに行ってくれたら楽なんだけどな。
まあそんなことするわけないか…
じゃあ方法は一つしかないな。
「マーカントさん、一つだけ荷物も盗賊たちも運べるいい案があるのですが」
「なんと!そんないい方法があるのですか!?」
「ええ、ただしこれから僕がすることは他言無用でお願いしたいのです。それをお約束頂けないとできません」
「分かりました。絶対にユウトさんの秘密を他言しないことを女神に誓いましょう。商人は信用が命ですから任せてください!!」
まあ確かに商人が口が軽かったら商売に影響が出るからな。
ここは信用しても大丈夫だと思う。
「分かりました。それでは…」
俺はマーカントさんに俺の持っているスキルのことについて話す。異空間に生物以外ならどんなものでも大量に保管できるということを伝えた。今回はそれを使って荷馬車に積んである荷物を保管し、その代わりに盗賊を乗せて運んではどうかと提案した。
最初はこの量の荷物を収納できるスキルなんて聞いたことがないと少し疑っていたマーカントさんだったが、俺が実際に全ての荷物を収納し終えると口を開けて驚いていた。
「盗賊退治の手際といい、こんな規格外のスキルといい…ユウトさんとは何があっても友好的な関係を築き上げるべきだと私の商人としての勘が言ってますね」
「ええ、こちらこマーカントさんとはいい関係を築けたらと思っていますよ」
俺はにっこりと笑顔でマーカントさんの方を見る。
もちろんいろんな意味を込めて。
そうして俺たちは少しのトラブルもあったが無事に荷物も盗賊たちも運びながらこのスケーアの森を抜けきることが出来た。今回の旅の一番の難所はもう抜けたのであとは気が楽である。
目的地の王都セントラルまではもう少し。
どんなところなんだろうな。