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愛日
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それから二日。捜査は思ったよりも難航していた。
先ず、事故に遭ってケガをした犬の飼い主の捜索チーム。
こちらは思ったよりも早く終わり、動物好きの佐久間が自身の持つ飼い主ネットワークを駆使して見つけ出し、無事に飼い主の元に届けられた。
もちろん、病院に行って手当済み。
次に霊薬を作れるとウソの投稿をした人物の捜索チーム。
目黒が現場に行って、写真に写っていた木の記憶を辿ってみた結果、投稿者はいたが不自然な点はなかった。
後を追うように周辺の木の記憶も辿っていったけれど、立て続けに何度も記憶を辿れるわけではなく、原因を調べるのに時間を要していた。
今日は阿部と向井が休日なのだが、休む気になれなくて電脳空間で情報収集を行っていた阿部は電脳空間から戻り、自室のベッドに横になっていた体を起こす。
💚「体、だるいかも……でも今、休むわけには……翔太を、安心させてあげたい……」
嫌な事は嫌だとハッキリ言うし、自分の気持ちに正直ではあるけれど、心の深い部分にある弱音を吐くタイプではない。
その渡辺が、自分にだけ不安を吐露してくれた。それはきっと、こらえきれなかったんだと思う。
だから倒れない程度に頑張らないと、と気合いを入れる。
部屋から出ようかなと思ったら、窓にコツンと何かが当たった。
不思議に思って見てみるとそこには、ふわふわとした毛並みをしたカナリアほどの大きさの鳥がいて、窓をコツンとくちばしで突っついている。
💚「ふーちゃん?」
渡辺から話してもらった後、深澤に頼んで渡辺につけてもらっていた筈なのだが、どうしてこんなところにいるのだろうか。
首を傾げながらも窓を開けると、入ってきたふーちゃんは阿部の前で羽ばたいている。
ふと、その足に紙が巻き付いているのが分かり、それを手に取って開いて見る。
💜〈阿部ちゃん、どうせ無理してるんでしょ。ふーちゃんを撫でて少しでも癒されろ〉
💚「ふっかの字だ……ふふっ。バレてるね」
持っていた紙を机に置いて、ふーちゃんの下に左手のひらを差し出すとふーちゃんは降り立ち、阿部はふーちゃんの頭を撫でる。
鋼を思わせる青灰色と呼ばれるスチールブルーの体毛は、綿毛のような柔らかさと雲のような軽さで、指先に優しくなじむ。
💚「ふわっふわで気持ちいいね、ふーちゃんは。ホントに癒されるよ」
ふーちゃんを頬に近づけてスリスリすると、ふーちゃんが小さく鳴いた。嬉しそうな声に、こちらまで嬉しくなる。
子ガラスみたいな姿で、くりくりとしたアメジストのような紫色の目をしている。カナリアほどのサイズになっているので、深澤の肩にいることが多いふーちゃん。
事務所内では、ちょこちょこと動き回るオコジョか、番犬がわりのボーダーコリーの姿でいるのも見かけている。
向井のカフェに行くときは、毛が入らないように配慮しているのか、ハリネズミの姿で寝ていることも。
ふーちゃんを撫でながらそのまま数分過ごし。
💚「ありがとう。ふっかによろしくね」
そう伝えるとふーちゃんを空に放った。
ふーちゃんのおかげか、先ほどよりもだるさはなくなってきていて、あまり気にならない程度になっている。
これなら大丈夫かもしれない。そう思っていると、先ほど放ったふーちゃんがUターンして部屋の中に戻って来た。
💚「えっ、ふーちゃん? どうしたの?」
ピーピーと鳴いているふーちゃん。
阿部の服の袖をくちばしでつまんで引っ張っていて、目をぱちくりとさせる。
💚「もしかして、ふっかに何かあった?」
訊ねると、ふーちゃんはくちばしを離してピー!と鳴くと、紫色のオーラに包まれてオーラが大きくなっていく。
オーラが床に到達して消えると、そこにはボーダーコリーのような犬の姿があった。
💚「案内してくれるの?」
コクンと頷くと走り出した犬のふーちゃんを追って慌てて家から出て行き、ふーちゃんを見失わないように走っていく。
その道中で。
「えっ、煙?」
「そう。なんか、そのまわりで倒れる人がいっぱいいるらしいよ」
「ヤバくない? 怪奇現象?」
「めっちゃ煙上がってんじゃん」
「なんか破裂したっぽい音もしてたって。なんか割ったんかな?」
道行く人たちの声が聞こえる。
スマホを見ている人や、阿部が向かっている方から来ている人が口々に煙や破裂したなどと物騒なことを話していた。
💚「まさかっ」
スピードを上げると、先導しているふーちゃんも更には知るスピードを上げている。
息を切らしながら向かえば、人だかりができて警察や救急隊が到着しているのが分かった。
更に奥では煙が上がっていて、ふーちゃんはその先に向かっている。
人波に入る直前にふーちゃんはフェレットの姿に変わり、阿部の足から登っていって肩に乗った。それを感じ取った阿部は人波を掻き分けて、規制線のところにいる警察官に声をかける。
💚「あの、何があったんですか?」
「10分ほど前にこちらで煙が上がりまして、その直後から人が倒れ始めたそうです。症状は確認中ですが、危険なので近づかないで下さい」
規制線で野次馬を止めている警察官を見て、そのまま突破するわけにはいかないからと阿部は一度、人だかりから離れ。
💚「ふーちゃん。俺を乗せてふっかの所に連れて行って」
真剣な表情でそう伝えると、ふーちゃんは車程の大きさの鳥になって身を屈めてくれる。その背に乗れば、ふーちゃんが飛び立った。
人だかりの上を通り過ぎて見えたのは、特務調査局のあるビル。
確かにその周辺に人がまばらに倒れている。規制線は、特務調査局から1キロほど離れたところに設置されていたから、その範囲内に影響が出ていると考えていい。
💚「俺を降ろしたらすぐに離れて。ふーちゃんにも影響があるといけないから」
言いながらふーちゃんの頭を撫でる。返事はなかったけれど、賢い子だから理解していると思う。
防護服を着た人たちが数人がかりで規制線から近いところで救助活動を行っており、500メートルほど中に入ったところで降ろしてもらうと、ふーちゃんは上空へと飛び上がった。
ハンカチを口に当てて、特務調査局に向かう。その道中で倒れている人たちを助けたいけれど、原因が分からない以上、下手に動けない。
だから悔しい気持ちを抑えながら、二階の事務所へと続く階段を上っていく。
階段を上り切ったところで、阿部は目を見開いた。
事務所のドアは吹き飛び、入口付近が黒く焦げている。そして、応接間の中央のソファの辺りに鋼の塊がドーム状にできている。
💚「……ふっか! 中にいるの? ふっか!」
ドンドンと鋼のドームを叩く。
💜「……あべ、ちゃん……?」
💚「ふっか! 大丈夫? これ、解除できる?」
💜「……ん……」
シュウウウと鋼のドームが天井の中心部分から紫色の光になって消えていき、全てが消え去るとそこにいたのは、倒れている深澤と岩本の姿。
💚「ふっか! 照!」
慌てて駆け寄って、隣同士で倒れている二人の体を揺さぶった。
💜「阿部ちゃん……ごめ、ちょっと動けない……」
💚「何があったの?」
💜「荷物、届いて……受け取った時に、急に爆発して……なんか、粉? 吸ったっぽくて、体、痺れてる……」
💚「粉……俺じゃ、多分無理だ。ちょっと待ってね」
そう言って電話をかける。画面の文字は、ラウール。
🤍『阿部ちゃん? どうしたの?』
💚「ラウ、今、佐久間と一緒?」
🤍『そうだよー。ワンちゃんの方終わったから、僕らも霊薬の噂について調べてたから』
💚「すぐ、事務所に戻って来てくれる? 爆発物が持ち込まれたみたいで、ふっかと照が痺れて動けないの」
🤍『えっ!? 大変、すぐ行くよ!』
🩷『阿部ちゃん、秒で行くから待ってて!』
それから10秒ほどで、応接間の奥の方に瞬時に、佐久間、ラウール、目黒の姿が現れた。
💚「ホントに秒で来た……ラウ、こっち!」
ラウールを呼び寄せるとすぐに来たラウールは岩本と深澤の間にしゃがんで、ボディバッグから小瓶を取り出した。
🤍「痺れなら、これで取れると思う。ふっかさん、これ飲んで」
深澤の口元に小瓶を持っていく。渡辺に出してもらった花から抽出した成分で作った、ラウール特製のポーションだ。
その様子を、阿部と目黒と佐久間は遠巻きに見ている。
🖤「阿部ちゃん、大丈夫?」
💚「俺は駆け付けただけだから……」
🩷「けど、ひっでーな。何があったんだ?」
💚「詳しいことは分からないけど、届いた荷物を受け取ったら爆発して煙が上がったみたい。その時に粉も舞ったって。外で、たくさんの人が倒れてて……俺が来た時にはもう、この状況だったんだ」
🖤「そういえば、舘さんとしょっぴーは?」
💚「え? 見てない、けど」
🩷「えっ? あいつらも事務所にいた筈だけど。その爆発の衝撃で飛ばされた、とか?」
💚「ううん。ドアは吹き飛んでたけどその他は無事だから、飛ばされはしないと思う」
🩷「じゃあ、狙いは翔太の異能?」
🖤「なんでしょっぴー?」
🩷「昔、翔太の異能で命の霊薬が作れるかもって攫われたことあんだよ。翔太の異能で花からいろんな薬作れるから、それが霊薬になるんじゃないかって。結局、違ったらしいけどな」
💚「翔太はそれを警戒してた。でも攫われた線は薄いと思う。舘様も一緒にいなくなってるからね。他の理由……」
考え込む阿部。
その間に岩本と深澤が体を起こして座り込んでいる。
💜「あー、助かったー。ラウ、どうもね」
🤍「体、どう?」
💛「痺れは大丈夫そう」
🤍「良かった」
こちらの三人も今の阿部の推測を聞いていたが、どうしてそういう結論になっているのか理解はできていない。
阿部の中では何かが繋がっているのだろうけれど、現状からどうしてそこまで読み取れているのかが全くもって分からないのだ。
だから阿部が結論付けるのを待っていて、突然、阿部がハッとした。
💚「俺、余計なこと言ったかも……」
🖤「え?」
💚「今回、霊薬を捜してる人と、昔、翔太を誘拐した人が同一人物じゃないかって。もしかしたら翔太、その犯人を追いかけてるのかもしれない」
🤍「爆発を回避したって事?」
💚「来たらふっかは鋼に覆われてたから。あれって咄嗟に衝撃から護ったんだよね?」
💜「そ。まあ、結局、ちょっと当たっちゃったんだけど」
💚「舘様も氷で衝撃は防げる。ここでふっか達の他に人は倒れてなかったから、その配達員が犯人で追いかけたんだとしたら……みんなで翔太と舘様を捜してくれる? 二人は強いけど、ここを異能力者が多数いるってわかってて襲撃したんだったら手強いと思う。俺とめめで、犯人と翔太たちの行方を追うけど、多分、時間がかかるから。佐久間は康二に事情話して、一緒に行動して」
🩷「わかった! すぐ行ってくる!」
言われるなり瞬間移動でいなくなった佐久間。
💚「照とふっかは……」
💛「平気。ちょっと頭打っただけで動ける」
💜「俺も。ちょーっとあちこち痛いけど、ふーちゃんに乗ってればいけるよ」
💚「無理させちゃってごめん。ラウは、外で倒れてる人たちの救助と、救助隊とか警察に状況の説明をお願いできる?」
🤍「もちろん」
阿部と目黒以外の皆が事務所を後にしたのを見送って、阿部は電脳空間に入り、目黒は事務所の観葉植物に触れて記憶を辿り始めた。
家でくつろいでいたところに佐久間が瞬間移動で急に現れたものだから、驚きすぎて椅子から落ちてしまった向井。
🧡「ちょぉ、何してん?!」
🩷「ごめん、緊急事態! 一緒に来て!」
🧡「え、ちょ、なに!?」
向井の手を引いて家から出て、佐久間は走りながら状況を説明した。
🧡「ほんまに?! 照兄とふっかさん、大丈夫なん?」
🩷「本人たちは平気って言ってた。けど、無理してるとは思う。翔太と涼太の方が心配だからって」
🧡「まあなあ。気持ちはわかるで。俺もそうするやろうし」
🩷「とにかく、捜すしかない。なんか手がかりでもあればいいんだけど」
🧡「あれやない? 二人、戦ってんなら、花びらとか氷の破片とか落ちてるかもしれへん!」
🩷「お、冴えてんじゃん!」
🧡「俺かて、調査局の一員やで!」
その小さな痕跡を見逃さないように、急ぎながらも注意深く地面を見ながら走っていく。
どうか、無事であってほしいと祈りながら。
目黒が目を開ける。
🖤「荷物が爆発した後、舘さんが氷でしょっぴーと自分を守ってた。岩本くんとふっかさんは爆発した地点から近かったから衝撃あたってケガしてて、ふっかさんの鋼も間に合ってなかったな」
荷物を受け取ろうとしたのは岩本で、そのすぐ傍に深澤も立っていた。
コントロールルームの近くにいた宮舘と渡辺は、爆発の衝撃が届くまで時間があった為、恐らく無傷だったのだろう。
🖤「煙は凄かったけど、配達員はなんともなさそうだった。それで、舘さんの氷が弾けた後、しょっぴーがその人を追いかけて出て行って、すぐに舘さんも追いかけてった。あの配達員が犯人……何か他に特徴があったらな……」
頑張って思い出してみる。
配達員の事だけを考えて、隅から隅まで見てみる。何か、どこかに目印になるようなものがあれば。
🖤「あ。わかったかも」
その情報を阿部に伝えようと振り返った時、見えたのは、奥の窓を突き破って飛んでくる黒い矢で。
🖤「阿部ちゃん!!」
慌てて数本の蔓を床から生えさせて絡ませて太くすると、阿部を護るように天井へと伸びた。
蔓に当たって矢は砕け、目黒はすぐに窓の方に向かった。外を見ると、黒い影のような靄のような人の姿が、裏手のビルの屋上に見えた。
次の瞬間、再び黒い矢が放たれたのが分かり、電脳空間に入っていて動かない阿部をお姫様抱っこすると、そのまま事務所を飛び出した。
🤍「めめ?! 阿部ちゃん!?」
外に出てすぐに、治療をしているラウールとすれ違う。
🖤「こっちも誰かに襲われてる! 狙いは阿部ちゃんかも! 調査局から離れるから、ラウールはそのまま続けてて!」
🤍「わかった! 無茶しないでね!」
そうして話している間にも矢は降り注いできて、太い蔓を出現させて弾き飛ばす。
抱いている阿部の目は緑色から翡翠のような淡い翠へとグラデーションがかかっている。
未だ、電脳空間から戻って来ておらず、この状態の阿部を現実に引き戻すのは不可能だ。
だから目黒が人気のない場所で迎え撃つしかない。
宮舘と渡辺の捜索も満足にできていないというのに。
この近くで、人気のない場所と言えば、河川敷しかない。そこまで、攻撃を回避しながら向かわなければ。
岩本、深澤と合流した向井・佐久間は一緒にふーちゃんの背中に乗って捜索している。
すると、佐久間のスマホが着信を知らせた。
🩷「ラウールだ……どした?」
🤍『大変! めめと阿部ちゃんが襲われてる!』
🩷「……はあっ!? なんで、そっちも?!」
🤍『よく分かんないけど、矢を放たれてた! めめが、阿部ちゃんが狙いかもって、川の方に向かってったよ! 僕、まだ治療終わんなくって、佐久間くん、そっち行ける!?』
💜「佐久間、頼む。舘さんとなべは俺らで捜すから」
🩷「分かった。とりあえず、調査局から川に向かって捜してみる!」
言うなり、佐久間は瞬間移動して消えていった。
かなりの距離を走り続けている。
放たれる矢は全て消し去っているけ欄干(柵や手すり)に背中を打ち付ける。
🖤「ぐうっ……!」
痛みに、目がちかちかする。
飛びそうになる意識をなんとか保って見ると、黒い靄のような人が倒れている阿部の襟元に手を伸ばし、胸元の服を掴んだまま立ち上がる。
阿部の服を掴んだ手を上に伸ばしているから、阿部の体は宙に浮かんでいる状態だ。
🖤「阿部、ちゃん……! 阿部ちゃんを、離せ……!」
靄のような人物はこちらを見ることなく、阿部を掴んだまま欄干の傍に立ち、勢いよく腕を振り下ろした。
🖤「阿部ちゃん!!」
川に向かって落ちていく阿部。
痛む体を無視して欄干を飛び超えると、すぐに目黒も川に飛び込んだ。