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リビングの時計は、もう23時半を回っていた。
ソファに座った佐野勇斗は、スマホの画面を何度も確認する。
『まだ飲み会終わらない』
一時間前に来た、山中柔太朗からのメッセージ。
それ以降、連絡はない。
勇斗は小さく息を吐いた。
「……遅いな」
別に、飲み会に行くななんて思ってない。
仕事の付き合いもあるし、柔太朗が頑張ってるのも知ってる。
でも。
“隣の部署の先輩がさ〜”
“飲み会だと結構笑う”
以前、柔太朗が何気なく話していた言葉を思い出してしまう。
知らない場所で、知らない人たちに囲まれて笑ってる柔太朗。
それを想像しただけで、胸の奥がもやっとした。
「……やだな」
自分でも子供っぽいと思う。
その時、玄関の鍵が開く音がした。
勇斗は反射的に立ち上がる。
「ただいまぁ……」
少しだけ酔った声。
帰ってきた山中柔太朗は、ネクタイを緩めながらふらふらと玄関へ入ってくる。
頬がほんのり赤い。
「おかえり」
勇斗が言うと、柔太朗はへにゃっと笑った。
「はやちゃ〜ん」
完全に酔ってる。
勇斗は思わず苦笑する。
「飲みすぎじゃない?」
「そんな飲んでない……」
そう言いながら、そのまま勇斗に抱きついてくる。
アルコールの匂い。
熱い体温。
勇斗は自然に抱き止めながら、小さく息を吐いた。
「……遅かったね」
「二次会断れなくてぇ……」
柔太朗は勇斗の胸に額を押し付けたまま呟く。
「疲れたぁ……」
その甘えた声に、嬉しい気持ちと、もやもやした気持ちが混ざる。
勇斗は柔太朗の髪を撫でながら聞いた。
「楽しかった?」
「んー……普通」
「ふーん」
「なにその返事」
柔太朗が顔を上げる。
勇斗は笑っていたけれど、どこか拗ねたみたいな顔だった。
「別に」
「……はやちゃん、なんか変」
「変じゃないよ」
絶対変だ。
柔太朗はじっと勇斗を見る。
「……嫉妬してる?」
一瞬、勇斗が黙る。
図星だった。
柔太朗は目を丸くしたあと、少しだけ笑った。
「え、かわいい」
「かわいくない」
勇斗はむっとしたまま、柔太朗の腰を引き寄せる。
「だって遅いし」
「ごめんって」
「しかも酔ってるし」
「そんな飲んでないよ」
「他の人にも今みたいに甘えてた?」
低い声。
柔太朗は一瞬きょとんとして、それから吹き出した。
「なにそれ」
「答えて」
「甘えてないし」
「ほんとに?」
「はやちゃんにしかしない」
その答えに、勇斗の表情が少し緩む。
柔太朗はくすっと笑った。
「嫉妬してたんだ」
「……してた」
珍しく素直に認める。
勇斗は柔太朗の頬を軽く摘んだ。
「だって柔太朗、酔うとかわいいから」
「はぁ?」
「絶対周りにも可愛いって思われてる」
「意味わかんない……」
呆れながらも、柔太朗の耳は赤い。
勇斗はそんな柔太朗を見つめて、小さく呟く。
「早く帰ってきてほしかった」
その声が思ったより寂しそうで、柔太朗は少しだけ目を瞬かせた。
それから、勇斗の首に腕を回す。
「……ごめんね、はやちゃん」
「うん」
「でも俺、帰りたいってずっと思ってたよ」
「どこに?」
柔太朗は当たり前みたいに答える。
「はやちゃんのとこ」
その瞬間、勇斗の顔が少しだけ困ったみたいに崩れた。
「……それ反則」
「んふふ」
酔って機嫌のいい柔太朗は、勇斗の肩へ額を擦り寄せる。
勇斗は観念したみたいに笑って、そのまま強く抱き締めた。
「もう今日は離さない」
「苦し……」
「だめ」
拗ねたまま甘やかす勇斗に、柔太朗は小さく笑う。
結局一番安心する場所は、いつだってここだった。
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コメント
2件
うわあ……読んでて胸がぎゅっとなりました🥺 待ってる間のもやもやした気持ちと、帰ってきてからの甘い空気の温度差がすごくリアルで。勇斗くんが「早く帰ってきてほしかった」って素直に言えるの、尊すぎます……。柔太朗くんが「はやちゃんのとこ」って答えるシーン、あそこ一番好きかもしれないなあ。酔ってるのに一番正直で、帰りたい場所がそこなんだって伝わってきて。 嫉妬してるって認めちゃう勇斗くんも、それを受け止めて甘える柔太朗くんも、全部かわいい。2人の関係性がすごく丁寧に描かれていて、続きが気になります🌙