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「おもしろそうなことになってるな」
黒マスクの下で、白紙さんがにやりと笑ったのがわかった。
僕は、全ての元凶である白紙さんの家へと来ていた。
到着したのは二十一時という非常識な時間であったにも関わらず、白紙さんは家に招き入れてくれた。
到着してすぐに濁流のように事情を話した僕に、白紙さんはあのふてぶてしい笑みを浮かべていた。
そんな姿が、僕には頼もしく見えた。
「一つ確認だ」
僕はこくりと頷く。
「昨日の変なコメントは、俺が見ようとした直後に全て消えた。そうだな」
僕はまた頷く。ちょうど見せようとしたときに全て消えてしまい、僕は弁解する羽目になってしまったのだ。
「それなら問題ない。簡単な話だ」
白紙さんは今の僕の欲しい言葉を言った。
ずっとこの人を怪しい変な人間だと思っていたことを恥じた。
彼はそんな人間ではない。困った僕を助けてくれる救世主なのだ。
「どうしたらいいんですか?」
僕は、すがるような思いで尋ねる。
帰ってきた答えは、想定外のものだった。
「四六時中、俺と離れずにいればいい。幽霊が飽きるまで」
前言撤回。この人は変な人だ。
「それに一体、何の意味があるんですか……?」
「近付けない」
白紙さんはそれだけを言った。
この近付けないとは、幽霊のことなのだろうか。
だとすると、白紙さんは一体何者なのだろう。
「ずっとお前に近くにいられるのは、俺も気乗りはしない。だけどそこらのお祓いに行くよりは、効果は保証されてる」
「どうしてそんなことがわかるんですか」
「俺は実績に基づいて言っているだけだ。信じられないなら帰ればいい」
その通りだ。初対面と変わらないような相手の家に、夜分遅くに来ただけでも非常識だ。
それなのに疑うような発言をされては不快に感じるのも無理はないだろう。
彼は僕を助けてくれると言っているのだ。この手にすがらなければ、一体誰が助けてくれるというのだろう。
「すみません。よろしくお願いします」
僕は深々と頭を下げた。
幸いにも、僕が居候になることを足立さんも快諾してくれた。
そんな大変なことになっているのならと、余っていた部屋まで貸してくれた。
僕はもう一生、この二人に頭が上がらないだろう。
この話がまとまってすぐ三人で車に乗って、僕の自宅へと向かった。
先ほどあんなことがあってすぐ戻るのは、心底嫌だった。
だが部屋の鍵を閉めてきていないし、明日には学校もある。
荷物を取りに行かないと、困るのは自分自身だ。
白紙さんが一緒に来てくれて、僕は恐る恐るドアノブをひねった。
中の電気はついている。
僕が入るのに躊躇していると、白紙さんが堂々と中に入って行った。
僕は彼の言葉を信じて、可能な限り離れずに着いていく。
部屋に入って廊下を抜けると、電気がチカチカと点滅し始めた。
驚いて、スイッチの方を見る。
「電気も幽霊の仕業だろう」
白紙さんが電気のスイッチのオンオフを繰り返していた。
確かに何度やっても、問題はない。
幽霊の仕業。僕は、身をもって実感していた。
僕は大学の教科書や、当面の着替えなんかを野球部の時に使っていたボストンバッグに詰めていく。
この事態が収まるまでは、可能な限りこの部屋に戻るのは避けたい。
パンパンになるまで、荷物を詰め込んだ。
その重たい荷物を床に置いたときに、ふと目に入ったものがあった。
髪の毛だ。黒くて、少し細い。そして何より、とても長い。五十センチはあるだろう。
僕の髪は少し明るいブラウンで、長さも十五センチ程度だろう。
間違いなく僕のものではない。
それに今朝掃除機をかけたのだ。
落ちている髪の毛は僕のものでなければならない。
僕はそっと髪の毛を拾って、ゴミ箱の中に捨てた。
そのあと、念入りに手を洗うのも、忘れなかった。
翌日から、僕と白紙家の共同生活が始まった。
僕の通学に着いてくるのは心底嫌そうだったが、拒絶されることはなかった。
僕の送迎のために白紙さんは、バイトのシフトまで変えたらしい。そこまでする意味はあるのだろうか。
さすがに大学内にまで来てもらうことはできないので、可能な限り一人になることは避けた。
「え、あそこにいるの白紙さんじゃね?」
僕と一緒に大学を出てきたヨシトが、目敏く校門の前に立つ白紙さんを見つけた。
すぐに僕の背後に回って、どうしようどうしようと言っていた。
いつもの強気な態度からは想像もできない姿に、僕は吹き出しそうになった。
「白紙さん、こいつが僕に手伝い募集を教えたヨシトです」
「はじめまして! いつも動画見てます!」
ヨシトはそう言って、直角な礼をした。
あまりにも声が大きく、周りにいた学生がチラチラとこちらを見ている。
「ああ、どうも」
白紙さんは、淡泊だった。
それだけを言うと、いつも通りずんずんと歩き出して行く。
だがヨシトにはそれがよかったらしく、「かっけえ。あれが白紙さん……」と少しうっとりしていた。
僕の周りには、変人しかいないようだ。
共同生活も二週間が過ぎた。
あんなことが起こったとは思えないほど平和な日々だった。
あれは実は夢や幻覚だったのではないかと疑ってしまう。
世の中は、まもなくゴールデンウィークに入る頃だ。
それでも僕は変わらずに、白紙さん達と一緒に過ごすことになる。
今朝、白紙さんが「今日の帰りはバイトで行けないから一人で帰れ」と言っていた。
久しぶりの一人の時間だ。少しほっとする気持ちがあった。
やはりずっと誰かといるのは、疲れもする。
せっかくの一人時間なのだから、少しだけ満喫することにした。
昼で講義が終わった僕は、自宅に荷物を取りに行った。
まだ昼で、空も気持ちいいほど晴れている。少しなら大丈夫だろう。
部屋の中は、二週間前となにも変わっていなかった。
日当たりの良い部屋を選んだおかげで、恐怖心は全くなかった。
薄手の服をトートバッグに詰めて、部屋を出ようと玄関の方向を向いたとき――。
そこに、女が立っていた。
下を向いているからか、長い黒髪で顔は見えない。
白い花柄のワンピースは、土や黒いもので汚れている。
僕はその場で、凍り付いたように動けなくなった。
家に入るときに鍵を閉め忘れたのか。
それで不審者が入り込んでしまったのか。
状況に理解が追いつかない。
一体、この女は誰だ。
そう思ったとき、女の顔が徐々に上がっていった。
見てはいけない。
目を合わせてはいけない。
直感がそう言っていた。
それでも、僕の目は動かない。
そして、目が合った。
そこから、僕の記憶は途切れた。
コメント
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いやあ、このエピソードめっちゃゾクゾクしたわ…! 白紙さんの「四六時中離れずにいればいい」って提案、最初は変人すぎて笑ったけど「近付けない」って一言で全部納得させられるの、かっこよすぎる。 2週間の平和で油断した主人公が昼間に自宅に戻る判断をしたの、リアルな心理やった。そして最後の“女”の登場シーン、目が合ったと同時に記憶が飛ぶ演出、最高にホラーしてる…続きが気になりすぎる🔥
#衝撃のラスト
山根利広
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