この作品はいかがでしたか?
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⚠これで最終回とかほざいたけど普通に話収まり切りませんでした、ごめんなさい。。。😿
誰かあたしを殴ってくれ
『…もうちょっとでいざなでかけちゃう?』
窓から覗く太陽の光は段々と弱くなり、今はもうすべて消え伏せてしまっている。
星が降ってくるような圧巻の夜空をぼんやりと見つめながら、弱弱しい声でそう答えの分かり切っている問いを零す。
「あぁ。」
頷きとともに告げられたその二文字にほんの少しだけ残っていた希望の気持ちがガクリと落胆し、先ほどよりもずっと大きな寂しさが胸の上に乗っかる。離れたくないというわがままが体を重くしていくのが分かる。
「…ンな顔すんなって。出来るだけすぐに帰って来るから。」
そう言って呆れと困りと、ほんの少しの嬉しさを滲ませた笑みを顔に刻むいざなにギュッと縋りつく。
「行かないで」なんて言えない。だけどこのまま見送ることもきっと出来ない。
そんなどっちともつかない曖昧な気持ちを押し潰すようにいざなの腕の中に体を押し付け、掠れた声でうー…と濁点の含まれた低い声で短く唸る。濁った感情がいつまで経っても体の中から抜けてくれない。
「…ホント可愛いなァ、オマエは。」
そんなあたしを見つめるいざなの声に紛れて、カランと彼の耳に飾られている花札のピアスが澄んだ音を作る。
その音に引き寄せられるようにゆっくりと控えめに顔を上げると、その一瞬で顎をぐいっと上げられ、暖かさを持った柔らかい感触が唇に触れた。
「…これでちょっとは機嫌治ったか?」
ちろりと唇の間から覗いた真っ赤な舌で自身の口を軽く舐め、妖艶な笑みを浮かべるいざなに荒れた気持ちが僅かに穏やかになる。炭酸の抜けたコーラのようにいきなり落ち着く自分の感情にきょとんとしていると、いざなの携帯電話がギザギザとした白色の光を放ち、それと同時に鼓膜を刺すような無機質な電子音があたしの耳を貫いた。脳みそに突然振動を当てられたかのような酷い驚きを覚え、肩が大きく跳ねあがる。なんとか涙は見せなかったが、全身は小刻みに震えていた。
「大丈夫」
未だに鳴り響く着信の音に体の震えをどうすることも出来ないあたしを抱きしめ優しく、そして甘い言葉を落とすいざなの腕の中に顔を埋める。
頭上で聞こえてくる会話を出来るだけ聞かないようにして、あたしは涙を堪えた。
「行ってくるな。」
『…いってらっしゃい』
ついに来てしまったいざなの出掛ける時刻に、玄関の前に立つ。
『いざな、きをつけてね』
「ン。オマエも部屋から出んなよ。」
お互いにそう言葉をかけ合い、最後に少しだけ抱き着いて頬に口づけを落とした。
パタンと扉が完全に閉まり切ると同時に、いざなの姿があたしの視界から消えた。
それからいくらか時間が過ぎ去っていった。
『うー…』
先ほどまでずっと感じていたいざなの匂いと体温が薄くなった真っ白い布団に包まって目を閉じてみても頭の芯まで醒めきっているせいで、眠りの気配はかけらも訪れない。むしろ段々と眠気が遠のいて行っている気すらしてくる。
いざながかえってきたらまずはいっしょにねる。
それから、あさおきたらえほんをよんでもらう。
雨がふってなくて、天気がよかったら“うみ”にいこうねってやくそくした。
けっこんしようねっていってくれた。
『…はやくかえってこないかな』
ぼんやりと未来のことを考えていると、無意識にその言葉が唇をくぐりぬける。
目に被さった自分の髪の毛の隙間から覗く天井ぼんやりと見つめる。
いざなにくっ付いていないと体がバラバラになってしまいそうなほど全部が脆く、ボロボロになっっていく。今にも泣きだしてしまいそうなほど涙腺が緩む。大袈裟だなんて言われそうなぐらいに心の乾きが収まらない。
─…本当、早く帰ってくればいいのに。
そう何度目かのため息と言葉を口から落としたその瞬間、ガチャリと鍵の開く固く澄んだ音が耳に届いた。それからヒソヒソと何かを話すような小さな声。
『いざな!』
ペタペタと廊下から聞こえてくる足音にいざなが帰ってきたと胸を躍らせ、ベッドから飛び降りすぐさま玄関に向かう。冷たい外の風が頬を撫でる。
「…ねぇ、本当にここに 居るんですかね?」
「…とりあえず入るぞ。ヒナちゃんは念のためサツの番号入力しといて。」
「は、はい!」
だけど距離が近くなり、先ほどよりもしっかりと聞こえてきた足音と僅かな話し声は明らかにいざなでも、少し前に聞いた“蘭”と呼ばれた男の声ではない別の3人分のものだと理解した瞬間、心臓を中心とした体全体が一瞬で冷えわたる。
初めて聞く馴染みのない声が耳にぺたりと吸い付き、巻き戻しのように一歩踏み出していた足を後ろに下げる。
その間も見知らぬ3人分の足音はガランとした室内に木霊のように響きわたった。
全身に汗が流れるような不気味さから逃げるように、背中と両肘を壁に精一杯の力で押し当てて爪先立ちになる。恐怖が激しく胸の底で鼓動する。
『…ぇ…』
来ないでくれと願うあたしの声とは無情に、玄関の廊下とあたしが今いる部屋を区切っていた扉が軋んだ音をたてながらゆっくりと開いていく。近づいてくる足音と、真っ暗な部屋を照らす携帯電話の光に不安と恐怖の色がさらに濃くなる。
溢れてきた涙が眼球を囲み、水中で目を開けた時みたいに何もかも爛れて見える。
「…は」
とうとう完全に開いてしまった扉から顔を覗く3人全員の表情があたしを見た瞬間、驚きに染まっていく。あまりの驚きで全身が麻痺してしまったのか、獅子色の髪をした女の人の手から握っていた携帯電話が落ち、床から固い衝撃が響いた。
「こ、この子、“2年前に行方不明になった”女の子じゃないですか?ニュースでやっていた…」
不自然な余韻を持って震えるその声に、頭の中で疑問符が乱舞する。
どこかで聞いたような情報。確かに聞いたことある言葉なのに、頭の中に引っかかって上手く思い出せない。
「なぁ、○○ちゃんで合ってるか?」
淡い桃色が含まれたような金髪を揺らし、床にへたり込むあたしと目線を合わせる知らないお兄さんは、緊張の交じった固い口調であたしにそう問いかけた。
『……だ、だれ?』
その言葉に戸惑いながらも一度小さく頷き、震える舌で言葉を打つ。
相手はあたしの名前を知っているけどあたしは知らない。
その事実に緩んでいた恐怖心がまた高まっていく。
「アイツの…イザナの弟だ。」
『…いざなの?』
そんな中、いざなの名前が男の人から告げられた瞬間、沈んでいた自身の顔が明るくなるのが分かった。肩の力が抜け、安堵の吐息が口から零れる。
そのまま「いざなはどこにいるの」という問いかけを唇に添えた瞬間、体がぐいっと持ち上げられ、自身の足が地面から離れていく。ぼんやりと浮遊感が体を占める。
「○○ちゃん、一緒にここから出よう。」
そうあたしを抱きしめているいざなの弟とは違う、怪我でボロボロになった金髪のお兄さんがそう言葉を落とす。濁りの一切ない、澄んだ青い瞳があたしを捉える。
『や、やだ!あたしいざながかえってくるまでまっとく。』
ジタバタと精一杯の力でその腕の中から出ようと手足を暴れさすが、一向に腕の力が弱まる気配はない。むしろ抵抗をするたびに段々と強くなっている気がする。
『はなして!』
そんな自身の泣き声は頭脳に針を刺すように響いた。
『やだ!いざな!!! 』
涙が頬を通り、ぽつりと床に落ちた。
だけどそんなあたしにお兄さんは申し訳なさそうに表情を浮かべ、「ごめんな」と何度も謝るだけで外へと進む足を止めてくれなかった。
続きます→♡1000
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