第11話:「赫の標的」
📷 シーン1:瓦礫の迷路
夜明け前、空は濃紺に染まり、星峰特区の廃ビル群には冷たい風が吹き抜けていた。瓦礫に埋もれた街路を、ナヴィスたちは静かに進む。
ナヴィスは肩にカメラを背負い、目元にゴーグルを装着していた。短めの金髪が風に揺れ、迷彩ジャケットの裾がひらつく。
「ギア、次の遮蔽ラインはどこだ?」
ギアは、灰色のフード付きコートの中からモニターを引き出し、無表情のまま応える。
「北東に残響フラクタル反応。追跡ドローンを避けるなら、左だ」
彼の黒髪は束ねられ、眼鏡の奥の鋭い目が光を捉えていた。
「ゼイン、後方確認を」
ナヴィスの呼びかけに、背後を守っていたゼインが軽く顎を上げた。黒いタクティカルスーツに身を包み、腰のホルスターには特殊フラクタル銃がぶら下がっている。
「異常なし。けど……来てるな」
ゼインの瞳が碧色に淡く輝いた瞬間、彼の中に響く声。
すずかAIの落ち着いた女性の声が脳内に届いた。
「ゼイン、後方約150メートル、敵反応4。偵察型赫ドローンと確認。迎撃推奨」
「よし、仕掛ける」
ゼインは地面を蹴った。
📷 シーン2:赫のドローン部隊
ドローンの群れが光を纏って迫る中、ゼインの碧素が閃いた。
「——《ラディアント・バースト》!」
彼の周囲に展開した碧色の粒子が、瞬時に閃光となり爆ぜた。炸裂するような光の波がドローンのカメラを焼き潰し、機体が一斉に墜落する。
「効いてる効いてる!」
ナヴィスが叫びながら、彼自身もフラクタルを展開した。
「——《ミラージュ・ベイル》!」
姿がかすみ、まるで空気の中に溶けるように彼の影が分裂し、ギアの影と交錯して敵の索敵網から逃れる。
だがそのとき、ビルの上層から真紅の光が降り注いだ。
赫共産部隊の狙撃兵だ。
「……位置、上!」
すずかAIが即座に警告を放つ。
「建物上階に狙撃フラクタルを保持する赫兵士。反応速度は人間平均の1.6倍。ゼイン、回避行動を!」
ゼインはその言葉に合わせて、空中で身をひねった。
「——《ブリンクスラッシュ》!」
空間を一気に跳ね、光の残像を引きながら上層へと駆け上がる。
ビル壁面を蹴りながら上昇し、赫兵の目前に肉薄したゼインの体が一瞬浮かぶ。
「遅ぇんだよ……」
——拳を突き出す。
赫兵の防壁が起動するも、ゼインの拳に纏った碧素がその層をぶち破った。
「——《バースト・インパクト》!!」
ドカンッ!と爆音が鳴り、赫兵の体が後方の壁に叩きつけられて沈黙した。
📷 シーン3:影の警告
戦闘の直後。静寂が戻ったビルの一角で、ギアが残骸から回収した端末を調べていた。
「これ……位置情報付きの通信ログだな。赫察総局の通報用データ。完全に監視されてた」
ナヴィスが眉をしかめた。
「ってことは、俺たちの居場所、バレてるか」
すずかAIが、明瞭な声で答えた。
「正確には、行動パターンと滞在時間の推定に基づき、現地部隊への展開が開始されています。20分以内に、赫共産部隊の増援が到着します」
ゼインが碧素の煙を吹き払った。
「チッ、のんびりしてらんねえな……」
ナヴィスはカメラを構えた。
「じゃあ……走りながら撮るか」
その目には、戦火の中でも希望を信じて前を向く強さが宿っていた。
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