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「海、ですか?」
「おう、海だ」
公都『ヤマト』―――
そこの冒険者ギルド支部で、私はその
最高責任者と話していた。
「あのロック・タートルの訓練ッスよね?」
「その護衛というか、同行して欲しいとの
依頼が王都から来ています」
ジャンさんに続き、レイド君とミリアさんが
補足するように話す。
紅エイの討伐から数日後……
時期的にはすでに初夏と言ってもいいくらいの
気候で―――
施設内に設置された氷柱、それに送風の魔導具の
ありがたみを知る季節になっていた。
「まあ確かに、淡水と海水じゃ異なるので、
現地訓練は必要かと思いますけど。
しかし何でギルドに依頼を?
直接命令するなり、護衛も軍を動かせば
済む話では……」
私が首を傾げると、アラフィフで筋肉質の
男性が、
「ロック・タートルを助けたのは、
実質お前さんのようなものだからな。
ギルドを通しておけば、間違い無いと
思ったんだろうよ」
ギルド長の後に、黒髪・褐色肌の次期ギルド長の
青年が口を開いて、
「それに、冒険者っていうのは上へ行けば
行くほど、気に入らない依頼は断るッスから」
「あと、軍や国が主体で動いているわけでは
ないという、ごまかしの意味もあるんじゃ
ないでしょうか。
水中戦力の存在は、最恵国待遇を結んでいる
ライシェ国―――
それに人魚族のいるアイゼン王国にしか、
伝えていないというお話ですし」
ライトグリーンのショートヘアの、丸眼鏡の
女性も説明する。
うーむ、つまり……
・ロック・タートルに関する事だから私に頼む、
イコール冒険者ギルドに依頼した方が確実。
・ゴールドやシルバークラスの冒険者は
依頼を気分次第で断るが、自分は基本的に
断った事は無い。
・王国主体でやっていないという
カモフラージュのため。
と、なかなか複雑かつ複合的な理由のようだ。
「あとこれは、シンに極秘で伝えておけと
言われたが―――
アイゼン王国から人魚族も派遣されてくるらしい。
浜辺近くの拠点を中心に、ひとまず合同で
訓練するようだ。
顔合わせも兼ねているだろうから、
ま、ひとつ頼むわ」
という事は、当然ラミア族も同行か。
……あれ?
「えーと、ラミア族への要請はどうなってます?」
「国ではないが、他種族との共生・友好は
うたっているからな。
書状は預かっている。
出来りゃシンの手から渡して欲しい。
そっちの方が話が早いだろ」
ジャンさんはヒラヒラと一通の封筒を
振ってみせる。
「わかりました。
ちょうどニーフォウルさんならここの
人造湖にいますし、頼んできます」
自分が手紙を受け取ると、
「お願いするッス」
「暑い中大変でしょうが、よろしく
お願いします」
レイド夫妻がペコリと頭を下げる。
「となると今回は、ラッチを連れて行っても
問題ないかなあ。
別に戦うわけでもなし……
それにあの子、あまり母親と
離れると拗ねるから」
私が視線を天井に向けると、
「まだまだチビだから、そりゃ仕方ねぇだろ。
それより―――
あの2人とお前さんとの子供は
どうなってんだ?」
いきなりギルド長に家族計画について聞かれ、
ドキリと体が硬直する。
「ええええ!?
いや、まあ?
そ、そのうちに?
じゃ、じゃあレイド君たちはどうです?
新婚ですし」
意図した事ではなかったが、話を若い二人に
思い切りブン投げる。
「いやっ!?
も、もう新婚ってワケでもないッスよ!」
「ここっ、こればかりはですね!?」
レイド君とミリアさんがわたわたする中、
「何だお前ら、もっと頑張れよ。
引退後はお前らのチビたちの面倒でも見ながら、
児童預かり所でゆっくりしてぇんだからさ」
ジャンさんはニヤニヤしながら、老後の
隠居計画を語り―――
しばらく支部長室内は混乱の極みにあった。
「子供かー」
「まあ確かに、そろそろとは巣の連中からも
つつかれておるわ」
「ピュ?」
あの後、ニーフォウルさんに手紙を渡し、
海まで行く依頼を了承してもらった。
ただ本拠地の湖にいるラミア族たちにも
連絡を付けなければならないので、
ワイバーン便で詳細を送り、
さらには訓練用の人員を選抜したい―――
と言われ、数日待つ事に。
人造湖での用件を終えた後、私は自宅である
屋敷に戻って、
メルとアルテリーゼ、ラッチに今回の件を
伝えたのだった。
「ま、まあ子供うんぬんはともかくとして、
海に行く事になったから。
そういえばラッチって、海に行った事
あったかな?」
私が記憶を検索していると、アジアンチックな
人間の方の妻が、
「確か、アイゼン王国だっけ?
ほらあの、クラーケンを倒した……
その時にいたはずだよ」
(■147話 はじめての かいじょう)
■148・はじめての いかりょうり参照)
「そうそう。
それを焼いたのをうまそうに食べていた
はずじゃ」
「ピュッ!」
グラマラスな体形の、ドラゴンの方の妻も、
我が子を抱きながら答える。
「ああ、そうだったっけ。
じゃあ今度は2回目になるのか。
しかし海までかー……
どれくらいで着くかな」
私が考え込むと、妻二人がきょとんとして、
「え?
だって空から……あ!」
「ロック・タートルがいたのう。
我が運ぶにしろ、あの巨体ではちと。
出来なくはないと思うが、何しろ生きて
おるし―――」
そう、『彼女』がいる以上、どうしても陸路を
行かねばならないのだ。
「川でも繋がっていればいいんだけどね。
それか、人魚族みたいに地下水路とか」
「いっそ我やワイバーン、魔狼と同じく
人型になってくれればいいのだが」
「ピュウ~」
「いや、さすがにそこまでは都合良過ぎだよ」
最後の私の言葉で家族は苦笑し、後は雑談に
興じる事になった。
そして数日後―――
フラグがさく裂する事になる。
「あー……なんだ。つまりこの女性があの、
ロック・タートルだと?」
「もう驚かないッス」
「あははははもう慣れましたよ」
ギルド長と次期ギルド長は両目を閉じ、
ミリアさんは猫のような縦線の目をして
半ばやけ気味に答える。
冒険者ギルド支部の、応接室……
いつものギルドメンバーの前にいるのは、
パープルの長いウェービーヘアーをした、
身長190cmくらいの背の高い女性。
ジャンさんの言う通り、彼女は―――
ロック・タートルが人化した姿であった。
「じ、自分でも信じられません。
こんな小さな姿になるなんて」
どうも彼女は人の姿になった事より、
サイズ的に縮小した事を気にしているらしい。
「元に戻る事は出来るのか?」
「は、はい。
それはここにある湖で、何度も練習
しましたから」
ギルド長の問いに、彼女はていねいに答える。
「いったいいつくらいから?」
「魔狼やワイバーン、羽狐は、
それなりに時間を要したものだが」
メルとアルテリーゼも同室におり、質問と
疑問をぶつける。
「人の姿になった事に気付いたのは、
2・3日前でしょうか。
自由に人の姿になる事を確信したのは、
昨夜くらいです」
自分の手を閉じたり握ったりするのを
見ながら、彼女は説明する。
しかし……
元から変身能力を持つドラゴンや、
フェンリルの加護を持つ魔狼、
女王のいるワイバーンとは異なり、
加護を持つ存在はなく、また群れでは無く
単体でいたはずだ。
不思議に思っていると彼女の方から口を開き、
「あの、こちらからも質問よろしいで
しょうか」
「ん? ああ、答えられる事なら」
ジャンさんが受け答えると、
「この人が住む場所―――
精霊様の残滓を感じるのですが、
もしかしたら所縁の場所なのでしょうか?」
そこでレイド夫妻がうなずきながら、
「確かに、土、氷、風の精霊様はいるッスけど」
「でも水精霊様だけは、公都まで来た事は
無かったような」
一番関係のありそうな水精霊様は、
ラミア族の住む湖を活動の中心としている。
だから無関係とは思うのだが……
一応、それを伝えてみると、
「ラミア族が、水精霊様の加護を受けている事は
ハッキリと感じられました。
ですので、その加護が自分にまで波及したのかも
知れません……」
つまり、水精霊様の加護を受けているラミア族と
一緒の人造湖に入る事によって―――
彼女もまた影響を受け、人化したとでもいうの
だろうか。
だが今のところ……
それくらいしか考えられないしなあ。
「まーいいんじゃない?
移動が楽になったと思えば」
「しかし、子亀たちは大丈夫かや?
お主だときちんとわかるか?」
メルの後に、アルテリーゼが同じ母親として
聞くと、
「はい、それは大丈夫でした。
ちゃんと自分だとわかるようです」
「その子供たちはどうだ?
アンタみたいに人化しそうか?」
ギルド長の問いに彼女は首を左右に振り、
「それはわかりません。
今のところその気配はありませんでしたが……
ただ、水精霊様の加護の残滓はほんのわずか
でしたので―――
大人である自分が真っ先に影響を受けたのでは
ないかと考えております」
すると彼は考え込んで、
「すぐにではないが、その可能性はあると
見ておいた方がいいか。
まっ、先に魔狼を受け入れているから―――
慣れたものだけどな」
そういえば魔狼の時は、子供から気付いたん
だっけ。
(■67話 はじめての ろうや
■69話 はじめての にんしん参照)
良くも悪くも、人外の扱いに長けているところ
だからな、公都は。
「でも人間の姿になったのなら、
ロック・タートルじゃ呼びにくいよね」
「名前を付けたらどうじゃ?
せっかく美人さんになったのだしのう」
確かに、いつまでも『彼女』だの『あんた』
だのでは味気ない。
するといつの間にか、妻二人とギルドメンバーの
視線が、私に集中している事に気付く。
あ、コレあれですね。
私が考える流れなのね……
しかしどうしたものか。
亀、だものなあ。
ポピュラーなら玄武とかいるけど、
そっちはどう考えても男性名だ。
亀の物語で有名なのは浦島太郎もあるけど……
女性というと……女性……ん?
「オトヒメ、ではいかがでしょうか」
「オトヒメッスか?」
「それはどういう……」
私の言葉に、レイド夫妻が聞き返す。
「私の故郷の物語で、いじめられている亀を
助けた男が、お返しに海の底の宮殿で
もてなされる、というのがありまして―――
その宮殿が竜宮、そこに住む海神の娘の名前が
乙姫というんです」
「ほほお」
「ふーむ」
と、レイド君とミリアさんに続き、妻二人も
うなずく。
「って事だが、どうする?」
ジャンさんがロック・タートルの女性に
回答を聞くと、
「良い呼び方だと思います。
これからは、『オトヒメ』と名乗りましょう」
こうして、彼女の名前は決定し……
人の姿での生活に慣れてもらうため、海へ向かう
準備が整うまで―――
人造湖のラミア族の住居で生活してもらう事に
なった。
「ふむ、これが向こうの大陸の料理か」
ランドルフ帝国帝都・グランドール―――
その王宮。
皇帝マームードを交えた会食の席で、
長大な長方形のテーブルの上に、各種料理が
並べられていた。
「今日はやや陽射しが暑い事もありまして、
涼しく食べられる料理を先にお出しして
おります。
どうかご賞味くださいませ」
王宮料理長の言葉で、各自食器に向かう。
別の大陸から持ち帰った情報や文化の確認の
一環として―――
料理のお披露目が主要メンバーに行われる
運びとなった。
しかし目の前のソバやウドン、ソーメンなどの
麺類に対し、勝手が違うのか戸惑う。
「これは、このように食べます」
そんな中、ティエラ王女が麺類の山からフォークで
麺を絡めとると―――
それを自分のつゆが入った容器につけ、すする。
「こうか」
「どれどれ……」
それぞれ、彼女の真似をしながら恐る恐る
食べていく。すると、
「……! これは……」
「難なく喉を通っていく。
それに冷たい。
確かに、暑い最中にはピッタリかも知れん」
つゆや薬味も各種取り揃えられており、
また、例のみぞれ和えのチキンカツにも
彼らは舌鼓を打つ。
「これは、あのカツという料理か」
「冷えているが、味が染み込んでいるように
うまい」
「肉料理は、熱いうちに食すのが当然だと
思っていたが」
先の潜入時、カツやフライ料理はカバーンや
船にいた料理長が伝えており、
ある程度はすでにランドルフ帝国で再現されて
いたが、新たな食べ方に素直に驚きの表情を
見せていた。
「ティエラよ、これは何だ?
香りは少々強いが、とろみがあって
面白い食感だ。
これも『めんつゆ』とやらの一つか?」
手持ちの容器を掲げて問う皇帝に、
「おそらくそれは、納豆のとろみを入れた
ものでしょう。
魔族の方がそれをすごくすすめて
来ましたので……」
王女の返しに、席の面々はざわつく。
「ま、魔族?」
「魔族がこのような料理を?」
信じられないのと、また恐れが半々にある
雰囲気で、ブラン外務副大臣がそれを
訂正するように片手を挙げる。
「ウィンベル王国を始め、あちらの調味料の
ほとんどは、魔族が生産しております。
また、後で出されると思いますが―――
お酒に関しても彼らはすごくうるさい方です」
ざわつきが動揺にも似た小声に変わり、
やがて無言となる。
「このミソスープとやらも、冷えてはいるが
とても美味いものだな。
料理一つ取っても、帝国と遜色無いように
余は感じるが」
誰もその言葉に異を唱える事なく、それはそのまま
肯定となる。
そして一通り食された料理は下げられ―――
「ん?」
「何だ、どうした?」
片付け作業とは別に、彼らに簡易なデザインの
服が配られる。
「上着をそれにお着換えくださいませ。
もう一品、料理をご用意いたしておりますが、
それは大変熱いものでございますから」
料理長の意図が読めず、困惑したまま一応
彼らは着替えるが、
「うむ?」
「この香りは―――」
そこへ強烈な香辛料の香りがし、続けて
その元の料理が運ばれてくる。
「これは……食欲をそそる香りだな。
見た目は少し抵抗があるが」
皇帝マームードは、その料理を見下ろしながら
率直に感想を口にする。
彼らの前に出されたのは、カレーライス。
もうもうと立ち昇る湯気が、その熱さを
物語っていた。
「では、ご賞味されます前に―――」
料理長が指示を出すと、それぞれの背後に
ついた従者たちが、着替えた服のスイッチを
入れる。
「お、おおっ!?」
「風が―――」
「す、涼しい……!」
彼らが着替えさせられたのは、空調服。
これも王女一行が持ち帰ったお土産の中にあった。
いくら涼しい料理とはいえ、多少食べれば
体の温度はエネルギーを消費するために上がる。
それを一気に冷やされ、彼らは一息つく。
「では、ご堪能下さいませ」
料理長がうやうやしく頭を下げると―――
全員がスプーンに手を付けた。
「あ、熱い!
しかし、これはたまらぬ!」
「この辛さが食欲をまた刺激して……!」
「汗が止まらん!
しかし、この服のおかげでガマン出来ぬ
ほどではない」
全員が夢中になってカレーライスを頬張る。
空調服で常時風を送り込まれ、体温が下がるから、
スプーンが止まる事もなく。
「これほど食べる事に集中するのは久しぶりだ。
それに海の向こうの料理だからな。
マナーを気にする事もない。
しかし美味いものだ。
これは、あちらの王宮料理か?」
その問いに、ティエラ王女が食べるのを止め、
「いいえ、これは―――
あちらでは国民食ともいうべきものです。
特に子供たちが大好きで、貴族平民問わず
この料理が出るととても喜びます」
「この味なら納得である。
この料理の名前は何というのだ?」
皇帝の問いに王女が料理長に目配せすると、
彼は一礼し、
「ボーロライス、と申します。
赤くとろみのある部分がボーロ、
下にある穀物はライスで、ボーロライス、
がこの料理の名前でございます」
全員が食べながらその説明を聞いていると、
外務副大臣が料理長から引き継いで、
「ボーロという名前は―――
獣人族のボーロという者が作った事に
由来します」
その言葉で、いっそう強いざわめきが起こる。
「じゅ、獣人族だと!?」
「あの獣にも等しい蛮族が、
このような料理を作ったというのか!」
ランドルフ帝国は、他国や他種族を圧倒・制圧して
今の支配地域を占領している。
国教とも呼べる公聖女教だが、
このような現状を正当化するためか、差別意識を
持つ者も多かった。
「魔族が調味料や酒、獣人族が料理、か。
他の種族はどうなのだ?」
皇帝が娘に質問を向けると、
「はい。卵ですが―――
あれはそもそも、ドラゴンが持ち込んだ
魔物鳥によって量産されているとの事です。
ラミア族は魚を、ワイバーンや魔狼は
陸上の動物や魔物を獲物として獲って来て、
その代わりに料理を提供される、との事。
無論、亜人や人間の姿になれる者であれば、
人と同じく料理をする事も珍しくないよう
ですが」
席に着いている全員が食べるのを止め、
彼女の話に聞き入る。
「他に、土精霊様が作物の管理をしておりました。
半人半植物のアルラウネの女性と、
ハニー・ホーネットが協力して蜜を―――」
「に、人間は何をしているのですかな?」
あまりの想定外の事に思わず口が出たのか、
話の途中で横やりが入る。
ティエラはふぅ、と一呼吸置くと、
ブランが交代するように、
「もちろん、人間もそれなりに役割を持って
動いておりました。
そもそも魔族にお酒や調味料の作成を
教えたのは人間で―――
魔族はそれを効率良く作る技術を確立した
そうです」
次いで、説明は王女に戻り、
「食用の卵や魚、貝や水中生物の量産は、
ウィンベル王国が国を挙げて研究・開発した
そうですし、
今も各国間の交流を通じて、新たな食材や
調理方法の発見に余念が無いとか」
そこで皇帝・マームードが口を開き、
「ははは、ティエラ、それにブランよ。
余から申しておいて何だが、そのくらいに
しておくがよい。
見よ、みんな味どころでは無いと言う顔に
なっておるぞ?
今はこの新しい料理を存分に堪能するとしよう」
こうして食事は続けられ―――
料理の紹介だけでも、強烈な印象を残したので
あった。
「お久しぶりです、シン殿」
透き通る空のような、青い短髪をした女性が
ぺこりと頭を下げる。
ただのその下半身は魚類のそれで、器用に
イスに座るようにして上半身を支えていた。
「アイゼン王国以来ですね、デルタ女王様」
私も返礼として頭を下げ、メルやアルテリーゼも
それに続く。
ここはウィンベル王国から東に向かった、
海岸に作られた拠点。
以前、カリュブディスという巨大な二枚貝の
魔物を倒した事があったが―――
その海辺の村に近い場所だ。
(■77話 はじめての さいだー参照)
ここに今、アイゼン王国から来たという人員が
揃っており、顔合わせをする。
ライシェ国の人員はメギ公爵様が自ら迎えに行き、
今日中に到着するとの事だ。
「今回、人魚族の方々はどれほど?」
「250人ほどです。
もちろん、男性は連れてきておりませんが」
人魚族の男女比は1:10だと聞いているからな。
貴重な男性は出せないだろう。
その代わり、戦闘や食料調達は彼女たちの仕事。
だから人選は至極当然のものなのだが、
「えーと……
確かアルルートさんでしたっけ?」
「何でデルタ女王様と手を組んでいるの?」
「もしかして恋仲となったのか?
身分的には大丈夫なのか?」
「ピュピュ~?」
と、家族が矢継ぎ早に質問を向けるが、
中肉中背、薄桜色の短髪の青年が頬を赤らめ、
「す、すいません。
あの時は調査隊の隊長として参加して
おりましたが―――
実は自分は、アイゼン王国の王子でして。
身分を偽って同行しておりました」
おおっとお?
いきなり爆弾発言が飛んで来たぞ?
「あー、王子様か」
「それなら身分的にも大丈夫かのう」
「ピュ!」
いやつっこむところはそこじゃない気が
しなくもないんですけどね。
さりげなく問題をスルーした家族を横目に、
私は改めて事情を問い質した。
「はあ……なるほど。
いやまあ、あの件については別に何とも
思っていませんよ。
むしろこちらの意図に気付いて頂けて、
感謝しているといいますか」
以前、アイゼン王国からキャビンさん始め、
刺客という名のお客さんを送り込まれた
事があったが、
(■126話
はじめての げいげき(ひなんじょ)参照)
その黒幕が彼、アルルートさんもとい、
アーノルド王子であり、
それが国王である父親に発覚した時は、
こっぴどく怒られたらしい。
キャビンさんが自分たちの処遇について、
『もっと上の人がとりなした』って言ってたけど、
そりゃ国王陛下なら文句は言えないか。
「その後、父から勧められた『ソンシの兵法』を
一読いたしまして……
自分の不明を恥じました。
その著者であるシン殿とはどうしても一度
お話を伺いたいと思っていたのですが、
その前に湖の調査の参加を命じられまして。
『この際、万能冒険者の実力も見ておけ』
という事でしたが―――
どれだけ己がうかつであったか痛感した次第。
寛大なご配慮、感謝いたします」
ぺこぺこと頭を下げる王子様。
その度に私の精神はガリガリと削られていく。
「まーそれはもう済んだ事だし?
それより、デルタ王女さまとの馴れ初めは?」
「うむ。
我らはどちらかというとそっちの方に興味が
あるのう。
どちらから迫ったのじゃ?
アーノルド殿か? それとも王女様かの?」
私の様子を察したのか、妻二人が別の方向へと
話を振る。
「調査隊として来た時……
その時もアーノルド様が、一番身分が
上でしたから。
それで女王である私が対応したのですが、
その時に意気投合したと申しましょうか。
彼が王子である事を知ったのは、アイゼン王国の
お城に招かれた時でしたわ」
「その時に自分の方からプロポーズしたのです。
まだ婚約は国内外には秘しておりますが……」
あっさりと機密をこちらに漏らす王子様に、
私はわたわたと困惑する。
「い、いや。
そんな事、私どもに話しても大丈夫
なんですか?」
「我が暴走を許してくれただけではなく、
妻となる女性の故郷も救ってくださった方です。
そんなシン殿とその身内であれば、何でも
答えましょうぞ!」
「でも一応、秘密にしておいてください。
公表する時期は、アイゼン王国と人魚族が
話し合った上で―――」
と、そこまで話した時、
「ア、アーノルド殿下!
大変でございます!」
「何事だ?」
兵士らしき人物がノックも無しに室内に乱入し、
「我が国のワイバーン騎士隊が―――
沖合に巨大な亀のような魔物を発見したとの事!
万一を考え、避難を……!」
その言葉に王子様と王女様は顔色を変えるが、
「あ」
「あっ」
「あ―――」
「ピュ」
私と家族は間の抜けた声を上げてしまい、
「ど、どうしましたシン殿」
「何か気になる事でも……」
夫婦予定の男女が揃って聞いてくる。
「ええと、多分それ……
私たちの身内のロック・タートルです。
オトヒメさんだと思いますが敵では
ありません。
それを伝えて頂けませんか?」
そうして私とアイゼン王国の一行は、
外へと出る事にした。
「驚きました。
まさか、ロック・タートルまで仲間に
しているとは……」
「ここへ来た時に紹介するべきだったんですが、
まだライシェ国の方々が到着していないという
事で―――
揃ってからにしようという話になりまして、
それまで、海に馴染むかどうかを彼女に試して
もらっていたんです。
説明不足で申し訳ありません」
謝罪すると、アーノルド王子様はブンブンと
首を左右に振って、
「い、いえ!
むしろ望外の戦力追加は喜ぶべき事です!」
「で、でも……
ロック・タートルって巨大な亀ですよね?
シン殿たちがお見えになった時―――
そのオトヒメという亀の姿は無かったと
思うのですが」
すると妻二人が、
「あー、アルちゃんと同じ。
人の姿になれるのよ」
「当人はちゃんと、我の『乗客箱』で
やって来ていたぞ?」
「「……は?」」
ポカンと夫婦(予定)が口を揃って開けると、
そこへワイバーン・ライダーが滑空して
降りてきて、
「で、伝令!
ロック・タートルはこちらの仲間だと伝え、
他のワイバーン騎士隊にも攻撃の一切は
禁止しました!
ですが……!」
「??
何かありましたか?」
私が聞き返すと、彼は王子様の方を向くが、
「この方はあの『万能冒険者』殿だ。
問題ない、答えよ!」
「は、はい!
沖合にてロック・タートルの姿を確認
したのですが……
竜鮫に囲まれております!」
サメか?
普通のサメなら、ロック・タートルの敵では
無いと思うけど……
ココは異世界だしなあ。
「案内を頼めますか?
その場所までお願いします!
メル、アルテリーゼ!」
「りょー!」
「わかったぞ!
あ、ラッチを預かっておいてくれい」
アルテリーゼはラッチを王子様、王女様に
手渡すと、ドラゴンの姿となり―――
私とメルを乗せ、そのままワイバーン騎士隊の
後について、海上へと飛び立った。
「あれが竜鮫?」
「でも何頭かは、もうオトヒメさんが
片付けたっぽいねー」
案内された先で現場を確認する。
メルの言う通り、それらしき魔物が何体か
浮かんでいたが、
サメというより、サメの胴体に古代の首長竜の
首をくっつけたような感じだった。
体長は三~四メートルほどだろうか。
それが四体ほど浮かんでおり、ロック・タートルの
周囲にはまだ鮫の背びれのような三角形のものが
十体ほど回っている。
「ん?」
「おりょ?」
「何だ?」
周囲に渦巻いていた竜鮫たちが一斉に、
オトヒメさんから離れ出した。
ドラゴンも来たので逃げ出したのかな?
と思っていたが、
「え? 何だありゃ?」
と、ロック・タートルの近くに三角形の背びれが
一体だけ出現した。
しかしその大きさたるや―――
背びれだけで三メートルはあろうかという
大きさで、
「キ、王竜鮫か……!?」
一緒に飛んでいるワイバーン騎士隊の人がうなる。
どうやら、大物が出現したらしい。
ロック・タートルもそれに気付いたのか、
不安気にこちらを見上げるが、
「どうシン? やれそう?」
メルの言葉に私はうなずき、
「何とかなると思う。
大きさだけならあり得るから難しかったけど、
あの形状の生き物は、少なくとも地球には
いないしな。
アルテリーゼ、降下してくれ」
「わかったぞ」
そして彼女と共に、オトヒメさんと王竜鮫の
中間地点へと近付き、
「首長竜のような頭部、魚類のような胴体。
そのような形状の海生生物など、
・・・・・
あり得ない」
その途端、目標地点から水しぶきが上がった。
こちらを迎撃しようとしたのか、それとも
ロック・タートルに襲い掛かろうとしたのか、
それはわからないが―――
王竜鮫はその十四・五メートルはあろうかという
巨体を空中へ舞い上がらせたかと思うと、
再び爆発のような波しぶきをあげて着水し、
そのまま浮かんで動かなくなった。