テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「やっほー、国見ちゃん! 元気にしてる? ……おや、そちらの可愛いお嬢さんは?」
放課後の部活前。校門の近くで国見くんを待っていた私の前に、不意に現れたのは阿部野……ではなく、青葉城西のジャージを羽織った及川さんだった。
「……及川さん。何しに来たんですか。練習、サボり?」
「失礼な! ちょっと偵察に来ただけだよ。……それより、この子が噂の? 国見ちゃんが部活中もソワソワしてる原因の彼女さん?」
及川さんは私の顔をじっと覗き込むと、ふいっと顔を近づけて、悪戯っぽくウインクをした。
「へぇ、国見ちゃんにはもったいないくらい可愛いね。ねえ、君。あんな無気力な男より、及川さんの方がもっと楽しくさせてあげられると思うんだけど?」
そう言って、及川さんが私の肩に手を置こうとした、その瞬間。
「……触らないでください」
...「数分後」
放課後の校門前。及川徹という嵐が去った後も、空気はピリついたままだった。
及川さんが冗談めかして言った「及川さんの方がもっと楽しくさせてあげられる」という言葉。それが、国見くんの胸の奥にある、いちばん触れられたくない部分を逆なでしたらしい。
「……英くん、顔怖いよ」
「……別に。……及川さんがうざいだけ」
彼は私の手首を掴んだまま、無言で歩き出した。いつもなら「効率悪い」と言って最短距離で帰るはずなのに、今日向かったのは、人気のない裏校舎の非常階段。
ガシャン、と重い鉄の扉が閉まる音が響く。
薄暗い階段の踊り場で、彼は私を壁際へと追い詰めた。
「……ねえ、英くん?」
「……及川さんのこと、かっこいいって思った?」
唐突な問い。彼の瞳は、いつもの気だるげな光を失い、暗く、湿った熱を帯びている。
「えっ……? それは、バレーはすごいと思うけど……」
「そういうこと聞いてない。……顔とか、話し方とか。……俺より、あっちの方がいいの?」
彼は私の両腕を、頭の上で一つにまとめて片手で押さえつけた。
抵抗できない。
「効率」を重んじる彼が、こんなに感情を剥き出しにして、力ずくで私を拘束するなんて。
「……答えなくていい。……どうせ、答えなんか聞きたくない」
彼はそのまま、私の首筋に顔を埋めた。
熱い吐息が肌に触れ、彼の髪が鎖骨をなぞる。
「……俺、知ってるんだ。あの人は、欲しいものは何でも手に入れる。……バレーも、人気も。……でも、君だけは絶対に渡さない」
首筋に、ちゅっと、吸い付くような音がした。
甘い痛み。
鏡を見なくてもわかる。彼がそこに、消えないような「印」を刻んだことが。
「……っ、英くん、それ……」
「……及川さんに見せればいい。……君はもう、俺のものだって。……あんなチャラい人に、指一本触れさせない」
顔を上げた彼の瞳は、少しだけ潤んでいるようにも見えた。
「王様」と呼ばれた及川さんへの劣等感。そして、私を失うことへの、子供のような恐怖。
「……ごめん。……怖がらせた」
彼はふっと力を抜くと、今度は壊れ物を扱うように優しく、私を抱きしめた。
彼の心臓の音が、私の背中にトクトクと速く響いている。
「……俺、及川さんみたいに、君を華やかな場所に連れて行けないかもしれない。……面白くないかもしれない」
「……そんなことないよ」
「……でも、君を想う密度だけは、誰にも負けない。……宇宙で一番、君に執着してる自信がある」
彼は私の髪を愛おしそうに撫で、今度は唇に、深く、深く、確認するようにキスをした。
及川さんの残り香なんて、もうどこにもない。
私の体温は、全部、国見くんの熱で塗り替えられていく。
「……ねえ。……もう一回、名前呼んで」
「……英くん」
「……もっと、甘く」
わがままな騎士は、私の首元に刻んだ真っ赤な印を満足そうに眺めながら、また私の唇を塞いだ。
それは、どんな王様の誘惑よりも抗いがたい、甘い独占の呪縛だった。
コメント
1件
あーもうすきだぁーやばいやばい国見とかお前かっこよ