テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
管野アリオ
875
#オリジナル
重田💋(omoda)
886
「駄目だ」
「で、でも……」
「今から行くところは別に危険でも何でもねぇから安心しろ。用事もすぐ済む」
「そういう問題ではなくて……」
「さっきの」
「え?」
「さっき言ってたろ。軽々しく言うなとか信用出来ねぇとか」
ふいに話題を戻された優來は言葉を詰まらせた。
「……そ、それは……」
確かに先程の自分の言葉は少々きつかったかもしれないけれど、だからといって今更何と言えばいいのか分からない優來の様子を横目で窺いながら至は言った。
「まあ確かに調子に乗った発言だったかもって反省してる」
そんな素直な言葉に優來は思わず至を見つめ、
「けど、優來に魅力を感じてんのは嘘じゃねぇよ」
真っ直ぐに告げられた言葉に胸の奥が小さく揺れる。
「だから、まだ一緒にいたい」
至は前を向いたまま静かに言葉を続けた。
「この機会を逃したら優來はまた俺のこと避けるだろ?」
「…………」
否定出来ずに黙り込む優來に至は苦笑する。
「だからまだ帰さねぇし帰したくねぇ……俺のエゴだって分かってるけど、もう少し付き合ってほしい。挽回させてくれよ、な?」
懇願するような声音に優來はすぐには返事が出来なかった。
これ以上一緒にいるべきではないと分かっているはずで、今の言葉を聞いたからといって至に対する警戒心がなくなったわけでもなかった。
それでも、ここまで真剣に頼まれるとどうしても強く拒絶することが出来ない優來は暫く迷った末、
「…………降ろしてもらえないんじゃ、帰りたくても帰れませんから……降りるのは諦めます。けど、一晩過ごすとか、そういうのは無理なので……そこだけは約束してください」
妥協点と譲れない一線をはっきりと伝えると、至は一瞬だけ目を見開いたあとでふっと表情を和らげた。
「分かった、約束する」
迷いのない返答に優來はほっと胸を撫で下ろしたものの、自分でも甘い判断だと思っていた。
けれど、もう少しだけ彼を知ってみたい。
そう思ってしまった自分には勝てなかったのだった。
自分の意見を伝え、それを理解したと答えてくれた至を信頼した優來が大人しく車に揺られながら窓の外を眺めていると、暫く走り続けた車が差し掛かったのは何故かホテル街だった。
(……まあ、たまたま通りかかっただけとか、近道ってだけだよね)
目的地へ向かう途中でホテル街を通ることだってあるだろうから、わざわざそのことを指摘して目くじらを立てるのも違う気がする。
そう自分に言い聞かせた優來は何も言わずに窓の外へ視線を向け続けた。
けれど、そんな優來の淡い期待も虚しく車は一軒のホテルの敷地内へと入っていく。
流石にこれ以上は黙っていられなかった優來は慌てて至へと顔を向けた。
「ちょっと、話が違うじゃないですか!」
そして声を荒らげて訴えると運転している至は驚いた様子で優來を見た。
「は? 何だよ、急に」
怒りをぶつけられる心当たりがないと言わんばかりの表情を浮かべる至を前に、優來はますます声を張り上げる。
「何だよじゃないですよ! 私、さっき言いましたよね!? 一晩過ごすとか無理だって!」
その言葉を聞いた途端、至はようやく優來が何に腹を立てているのか理解したらしい。
「ああ、そういうことか」
合点がいったように声を上げた至は慌てて弁解した。
「これは誤解だって。ここに来たのはそういうんじゃねーの。今それを証明するから落ち着けって」
そう言って優來を宥めながら至は車を敷地内の駐車スペースへと進めて行き、セダンタイプの車のすぐ隣に停車させる。
「誤解? そんな言葉で誤魔化されないですって――」
正直至を信用出来ない優來がそう言いかけたそのとき、隣の車の助手席側の窓が開き、一人の男が至の座る運転席の窓をコンコンとノックした。
コメント
1件
優來さんが「一晩は無理」としっかり線を引いたのに、車がまさかのホテル街へ…という展開、ドキドキしました💦 至さんの「誤解だ」という言葉が、本当に誤解なのか、それとも駆け引きなのか、読んでいて気になって仕方ありません。優來さんの揺れる気持ちの描写がとても繊細で、引き込まれました。続きが気になります!