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「やっぱり、1年の田口先輩って本当に優しいですよね〜」
秋の文化祭準備期間
放課後の教室は、段ボールや色画用紙、ペンキの匂いと、お祭り前の独特な喧騒に包まれていた。
窓際でクラスの出し物の装飾を黙々と作りながら
俺は目の前でハサミを動かしている他クラスの後輩女子の自慢話を、半分以上適当に聞き流していた。
「この前も、私が重い荷物持ってたら、すっと代わってくれたんですよ!しかも全然恩着せがましくないし……イケメンすぎてヤバいですよね〜」
そりゃあ、そうだろう。
顔は無駄に良いし、背はモデル並みに高いし
外面の爽やかさだけは一丁前だ。
学校中の女子が放っておくはずがない。
……まぁ、家や俺の前では、尻尾をちぎれんばかりに振り回す、ただの大型犬でしかないわけだが。
そんなことを心の中で毒づいていた、まさにその時だった。
「兄さんやほっ!」
「っ」
噂をすれば影。ガラリと開いた前扉から
色素の薄いサラサラの髪を揺らして、お目当ての張本人が姿を現した。
直哉が教室に一歩足を踏み入れただけで
それまで作業をしていた女子たちが一斉に色めき立ち、黄色いざわめきが広がる。
「た、田口先輩!」
「えっ、わざわざこっちのクラスまで来てくれたんですか!?」
群がる女子たちに対し、直哉はいつもの営業用の完璧な笑みを軽く浮かべて受け流しながら
一直線に俺の元へと歩いてきた。
そして、当然のような顔をして俺の真隣に立つ。
「兄さん、迎えに来たよ。一緒に帰ろ?」
その瞬間、それまで楽しそうに直哉の割り込み話をしていた目の前の後輩女子が
じーっと値踏みするような視線を俺に向けてきた。
「……相川先輩って、本当に田口先輩と仲が良いですよね。っていうか、なんか距離が近すぎじゃないですか?」
明らかにトゲのある、ねっとりとした言い方だった。
俺が思わず不快感に眉をひそめると
その女子はこれみよがしにニコリと、計算高い笑みを浮かべて言葉を続けた。
「田口先輩、すっごくモテるから。お兄ちゃん特権で独り占めしたくなっちゃう気持ちは、分かりますけど〜」
「……」
脳内で、カチンと何かが弾ける音がした。
なんだ、こいつ。
別に俺は、あいつを独占しようなんて────
いや、まぁ、恋人なんだから多少は
いや、かなりそういう気持ちはあるけど。
だが、部外者のこいつにそんな言い方をされる筋合いは一ミリもない。
「兄さん……?」
俺の周囲の空気が一瞬で冷え切ったのを察したのか、直哉が不思議そうに覗き込んでくる。
俺は直哉の顔を見返すこともせず
手に持っていたハサミを机にガタッと乱暴に置くと、無言のまま立ち上がった。
「……帰る」
「え、相川先輩、まだ聞きたいことが」
イライラと、胸の奥から湧き上がる醜い感情を抑えきれないまま
俺は振り返ることもせず、逃げるように教室を飛び出した。
早足で廊下を歩き、階段に向かう。
背後から、騒がしい足音が俺を追いかけてくるのが分かった。
「兄さん、待ってって!」
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