午後4時。
カーテンは半分閉じられたまま、部屋の中は外の時間がわからないほど薄暗い。
ベッドの上で、深澤辰哉はTシャツとパンツ姿のまま、横向きに転がっていた。
枕元にはペットボトルの水と、グミ。
スマホで動画を流しながらも、画面はほとんど見ていない。
指先でただなんとなくスクロールを繰り返す。
「……だる」
ぼそっとつぶやいて、背中を丸める。
昨夜の記憶が脳裏にちらつく。
流行りのアクセサリーとブランドで着飾り、笑って、はしゃいで――誰もが羨む“キラキラ生活”。
けれど今の彼は髭を剃る気力さえなく、 天井をぼんやりと眺めながら、ただ時間をやり過ごしていた。
静かな薄暗い部屋に、LINEの通知音だけが何度も響く。
《辰哉くん、今夜空いてる?》
《美味しい寿司、予約取れたんだ》
《迎えに行こうか?》
送り主は、いつもの“パパ”たち。
返事をすれば、すぐに誰かが会いに来てくれる。そして買い物に食事にと甘やかしてくれる。
それでも――。
「……なぁんで俺から連絡する相手はいないんだろ」
スマホを握りしめたまま、小さく溜息をつく。
深澤は基本的に受け身だ。
昔は休み時間になると机の周りに友達が集まり、クラスメイトの中心にいた。
ずば抜けた才能はないものの、何でもそつなくこなし、柔和で誰にでも優しい。
学生時代に告白された数は数知れず。
今はパパから。
求められれば応じる。
いつだって“必要とされる側”でいるから、孤独を感じる暇なんてないはずだった。
でも、ふと訪れる静かな時間に、胸の奥がきゅうっと締め付けられる。
楽しければ何でも誰でもいい。
そう思ってたはずだった。
でも、今、心のどこかでは
地味でも穏やかでも誰かがそばにいてくれたら。
そう思わずにはいられなかった。
寂しさをまぎらわすように、またスマホの画面を開く。
ピコン
チラッと覗いた画面に珍しい友人からの連絡があった。
『焼肉行こーぜ』
返信しようか画面を操作してると、続けざまに追いLINE
ピコン
『どーせおっさんと寿司ばっか食ってんだろ。』
「翔太てめーこのやろー」
ついつい本音が声に出ていた。
悔しいが図星だ。
『行く』
とだけ打つとすぐに返信が来た。
『1時間後にココ集合』
という文字と地図。
「へいへい」
独り言を呟きながら支度をした。