TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

電気を点けず、ベッドにも入らず、遥は床にうずくまっていた。



カーテンの隙間から、街灯の光が差し込んで、

室内の空気を鈍く照らしていた。

誰も声をかけない。

誰も、気づかない。



(全部、俺がやったことだ)



ただ、繰り返すように、遥はそう思っていた。



学校で晒された映像も、

ロッカーに書かれた言葉も、

日下部の目に浮かんだ戸惑いも──



「……俺のせいなんだよ、ほんとに」



ぽつりと呟いて、手を膝に強く押しつけた。

自分の爪が、肌に食い込んでいく。



(俺が、……“求めた”から)



“触れてほしい”なんて思った。

“守ってほしい”なんて思った。

“隣にいてほしい”なんて、……望んだ。



──それが、すでに罪だった。



(汚れてるんだよ、俺は)


(きっと、日下部も──あいつの目も、手も、……俺が壊した)



あのプロジェクターの映像が、まだ脳裏から離れない。

他人から見た“ふたり”の姿。

ただ並んでいただけの影が、「共依存」「演技」「加害者」へと塗り替えられていく。



笑った奴がいた。

黙って見てた奴もいた。


でも──

遥は、誰も恨めなかった。



(……そっちのほうが正しい)


(俺のこと、“被害者ぶってる”って思う方が、……まともだ)



そう思うことでしか、自分を保てなかった。



机の上に置かれたままの教科書。

開けていない弁当箱。

どれも手をつける気になれず、ただ、黙って座り込む。



しばらくして、遥は、

小さく声に出した。



「……あいつ、どこまで信じてんだろ」



日下部の顔が浮かぶ。



黒板に書かれた「加害者はどっち?」という言葉を、

あいつは、どう受け取ったんだろう。



机に差し入れられた紙。

《“やってた”んだろ?》──

それを指先で撫でたまま、破りもせず戻した日下部。



(怖いんだ)



遥は、唇を噛んだ。



(あいつが……“俺も加害者だ”って、本気で思い始めたら、)


(それこそ、俺のせいだ)



どこまでいっても、責任は自分にあると信じてしまう。

だから、黙る。

怒らない。

反論しない。



それが、「罰」だから。



そのまま、遥はごろんと床に横たわった。

冷たい床に、頬が貼りつく。



「……日下部、さ」



誰にも届かない声で呟いた。



「俺のこと、見ないでくれたら……楽なんだけどな」



そう言いながら、瞼を閉じた。

涙は流れなかった。

でも、呼吸は浅く、不安定だった。



眠れない夜が、また始まっていた。



loading

この作品はいかがでしたか?

35

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚