テラーノベル
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電気を点けず、ベッドにも入らず、遥は床にうずくまっていた。
カーテンの隙間から、街灯の光が差し込んで、
室内の空気を鈍く照らしていた。
誰も声をかけない。
誰も、気づかない。
(全部、俺がやったことだ)
ただ、繰り返すように、遥はそう思っていた。
学校で晒された映像も、
ロッカーに書かれた言葉も、
日下部の目に浮かんだ戸惑いも──
「……俺のせいなんだよ、ほんとに」
ぽつりと呟いて、手を膝に強く押しつけた。
自分の爪が、肌に食い込んでいく。
(俺が、……“求めた”から)
“触れてほしい”なんて思った。
“守ってほしい”なんて思った。
“隣にいてほしい”なんて、……望んだ。
──それが、すでに罪だった。
(汚れてるんだよ、俺は)
(きっと、日下部も──あいつの目も、手も、……俺が壊した)
あのプロジェクターの映像が、まだ脳裏から離れない。
他人から見た“ふたり”の姿。
ただ並んでいただけの影が、「共依存」「演技」「加害者」へと塗り替えられていく。
笑った奴がいた。
黙って見てた奴もいた。
でも──
遥は、誰も恨めなかった。
(……そっちのほうが正しい)
(俺のこと、“被害者ぶってる”って思う方が、……まともだ)
そう思うことでしか、自分を保てなかった。
机の上に置かれたままの教科書。
開けていない弁当箱。
どれも手をつける気になれず、ただ、黙って座り込む。
しばらくして、遥は、
小さく声に出した。
「……あいつ、どこまで信じてんだろ」
日下部の顔が浮かぶ。
黒板に書かれた「加害者はどっち?」という言葉を、
あいつは、どう受け取ったんだろう。
机に差し入れられた紙。
《“やってた”んだろ?》──
それを指先で撫でたまま、破りもせず戻した日下部。
(怖いんだ)
遥は、唇を噛んだ。
(あいつが……“俺も加害者だ”って、本気で思い始めたら、)
(それこそ、俺のせいだ)
どこまでいっても、責任は自分にあると信じてしまう。
だから、黙る。
怒らない。
反論しない。
それが、「罰」だから。
そのまま、遥はごろんと床に横たわった。
冷たい床に、頬が貼りつく。
「……日下部、さ」
誰にも届かない声で呟いた。
「俺のこと、見ないでくれたら……楽なんだけどな」
そう言いながら、瞼を閉じた。
涙は流れなかった。
でも、呼吸は浅く、不安定だった。
眠れない夜が、また始まっていた。
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