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宮毘羅
20
「ママ上! ママ上!」
ボウガンの矢は確実に心臓を貫いており、とめどなく出血していく。
止血しようと傷口を押さえても、手の下から溢れ出る血は止まってくれない。
「あぁっ血が、血が止まらない! 爺や、なんとかしてくれ!」
「ヒーリング!」
爺やは回復魔法をかけてくれるが、出血は止まらずママ上の顔はどんどん青くなっていく。
「ママ上、そんな……! しっかり!」
口の端から血を流す彼女は、虚ろな目で俺を見上げる。
「ラウルちゃん……あなたに聖剣を渡せて、良かった……」
「ママ上、やめてください! そんな終わりみたいなことを言わないで下さい!」
「あなたが、ママと、呼んでくれて……嬉しかった」
「喋らないで、もう喋らないで!」
「あなたのママを、もう少し……続け………」
彼女の目に光が消える。
「ママ上! ママ上!? 爺や、なんとかしてくれよ!!」
「申し訳……ございません」
なんだよ……ふざけんなよ。
せっかくいい擬似親子になって、何年かしたら血縁よりも深い親子になってたはずなのに。
風呂一緒に入ったり、ジュース一緒に飲んだりして関係が深まっていくのを感じてたのに。
あんなに優しくて、何しても褒めてくれて、料理が得意で、虫が苦手で、島人に意地悪されても全く文句も言わない。
ただただ優しく愛情深い人の最期がこれか。
こんなくだらねぇ矢で死ぬのかよ。
こんなあっさり奪われちまうのかよ。
気持ち悪いよ、これで正義とか言って喜んでる奴ら。
なにがヴェノムタランチュラだ、害虫野郎ども。
俺に本当の悪になってほしいのかよ。
目からは大粒の雫がとめどなくこぼれ落ち、噛み締めた唇から血が流れる。
冷たくなっていくママ上になにもできず、ただただ無力感を感じる。
そんな俺の周りをナハトが飛び回る。
「ねぇラウル」
「今は静かにしててくれ」
「…………ねぇラウル」
「頼むから今は」
「待ってると本当に死んじゃうからさ。今ならまだ僕が助けられるよ」
地面を向いていた俺の首がグリンと彼女の方向を向く。
「詳しく!」
「サキュバスの能力で、眷属化ってのがあるんだけど、それと聖剣の力を組み合わせれば多分生き返れるよ」
「なんだって!? お前は神か!?」
「いや悪魔」
「今なら生き返らせられるんだな!?」
「うん、今ね風船みたいな彼女の魂が天に登りかかってる。まだ肉体と紐づいてるから大丈夫だけど、この紐が切れたら終わり」
「今すぐやってくれ!」
「でも二つ問題があるんだけど」
「そんなことは後で聞く! 今は頼む!」
「後悔しないでよ。じゃあ聖剣借りるよ」
ナハトは俺から杖の聖剣を受け取ると、ママ上に抱かせるように置く。それからガブっと自分の指を噛んで血を出すと、ママ上の体が中心になるように円形の魔法陣を描く。
「魔界の皆~今死にかかってる子がいて超ピンチなの。皆の力で助けてあげてーレッツ魔界門オープン! 魔界に行ってらっしゃーい☆」
呪文なんだろうか? えらく軽いノリなんだが大丈夫なのだろうか。
俺ママ上死にかけて結構ピリついてるよ。
ナハトがパンと手を打つと、横たわったママ上の体が、水の中に沈むように魔法陣の中に消えていく。
「ど、どうなったんだ?」
「今ね、ラウルのママを魔界に送って、壊れた体をリメイクしてるから」
「そんな映画みたいなノリで生き返るのか?」
「あっリメイクできたっぽい」
「はっや」
「じゃあラウル、魔界に行ったママの体をもう一回こっちの世界に召喚するから。僕に続いて詠唱して」
「はい」
「エロイムエロイノ」
「エロイムエロイノ」
「我は求める、汝との契約を。我いかなるときも汝を思い、愛することを約束する。汝も我を求め、生涯を我に捧げよ! 契約を結びし時、もう一度この世界へと降臨せよ!」
「我は求める、汝との契約を。我いかなるときも汝を思い、愛することを約束する。汝も我を求め、生涯を我に捧げよ! 契約を結びし時、もう一度この世界へと降臨せよ!」
何この呪文、俺結婚するのか?
教会で言ってもおかしくない召喚呪文を唱えると、魔法陣が光りサキュバス衣装に着替えたママ上が召喚されてきた。
「…………あれ、私さっき」
「ママ上!」
俺は彼女の胸に飛び込んだ。矢による傷はなくなり、血の痕跡も完全になくなっている。
「ママ上、生き返ったんですね!」
「そ、そうなのかしら?」
「ありがとうナハト! 命の恩人だ! もう神だ神!」
「いやーあのー、僕としてはしっかり彼女の姿を見て欲しいって言うか」
「ん?」
どこかばつが悪そうな顔をしているナハト。
言われてママ上を見ると、彼女の格好はエナメルっぽいハイレッグなボンデージ。ガーターベルト付きのストッキングを履いており、靴は黒のハイヒール。SMの女王っぽい見た目だ。
腰にはコウモリ羽が生えており、目の色が赤く染まっている。
「ママ上、この羽は? 目もかなり充血されていますが」
「何かしら、あれ? この羽自分で動かせるわ」
「ナハト?」
「いや、あの眷属にしたって言うか、君のママサキュバスにした」
「それは……つまり?」
「僕と同じ悪魔になった。体はもう壊れちゃったから、魔族化してリメイクしたってこと。そんで作り直すのに必要な魔力は、全部聖剣から借りたから」
あぁなるほど、サキュバスにね……。
どうやら聖剣(杖)は再びママ上の体の中に埋め込まれたようだ。
ママ上は恥ずかしそうに露出の高い胸を、腕でおさえて隠そうとしている。
爺やは悪魔と聞いて渋い表情を浮かべる。
「ラウル様、王族の近くに魔族がいるのはさすがに問題が……」
「別にいいだろ、グランツ家嫌われてるんだし、今更魔族が一人二人増えたところでどうってことないって」
大体もうナハトがいるんだから、今更関係ない。
「し、しかし魔族と王族が結託してると思われるのは、並の悪事とはレベルが違いますぞ」
「俺が直接父上に事情を話す。周りからガチャガチャ言われても知ったこっちゃない。ナハト、他になにか困ることってあるのか?」
「僕と一緒で、君が契約者だから魔力補充は君しか出来ないよ」
「魔力補充とは?」
笑顔で手を上下に動かすナハト。
これまずいな、ママ上と✕✕✕する大義名分が出来てしまった。
「それと召喚した時悪魔契約したから、君が彼女を裏切ったりすると死ぬよ」
「こわっ……」
えっ契約って、あの小っ恥ずかしい結婚式みたいな内容か?
ママ上を見やると、彼女も契約内容はわかっているのか頬を赤らめる。
「ご、ごめんね。なんかプロポーズみたいになっちゃって」
「いいのよ、ママはラウルちゃんといられれば幸せだから」
守りたいこの笑顔。
俺は例え魔族になろうと、絶対に彼女を守り抜く覚悟を決める。
コメント
1件
うわっ……第13話、めっちゃ重かった……。ママ上の死に際のシーン、涙腺やられたわ。「あなたのママを、もう少し…続け…」で一気に来た。でもナハトの軽いノンキな召喚で生き返って、しかもサキュバス化&契約って展開、予想外すぎて笑った。ラウルの「守りたいこの笑顔」で締めるの、熱いな。悪役一直線の覚悟、かっこよかった🔥