俺は毎日誰かに抱かれてる。
気分なんか関係ない。
借金返済の為に体を差し出している。
そうしないと家族が壊れちゃうから。
自分の感情なんかいらない。
でも俺には欠点があって。
それは…
不感症なこと。
だから抱かれてても気持ち良くない。
どのタイミングで相手が気持ちいいのかも分からないから演技をするしかなくて。それがかなり疲れる。
(この人で今日は終わりかな?)
部屋のランプが光ると客が来たって合図。
もう22時だし今日も1日上限の8人目。
—ピンポーン—
「はーい。」
気持ちを切り替えてドアへと向かう。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
うわーっ、めっちゃカッコいい人。
「どうしたの?」
「え、あ…ごめんなさい。」
「入っていい?」
「ど、どうぞ。」
吃りながら部屋の中へ促す。ここは一棟が全部仕事場になってる。1LDKで所属してる人は男性だけ。それでも潰れる気配はないから今の時代って感じ。
「シャワー浴びますか?」
「んー、入ろっかな。」
「じゃあタオル出しときますね。」
「え、一緒に入ろ?」
「俺はさっき…。」
「ダメ。俺は客でしょ?」
「うー、分かりました。」
「それとタメ口でね?」
「……分かった。」
何だかこの人不思議。ここにくる人はセックス目的だから一緒にお風呂に入る事はない。すぐにベッドへ押し倒されて相手が気持ち良くなってる。
「服脱がせてあげる。」
「うん…。」
「君さ、中々予約が取れなくて一カ月待ったんだ。」
上着を脱がすと床にあったカゴに畳んで入れてくれた。
「そうなの?」
「新規は常連の予約入ってなかった時間を宛てがわれるんだ。だから待ちに待った今日ってこと。」
俺はアウターを脱がしてもらう為に腕を上げた。彼は笑顔のまま脱がしたのを畳んで、俺のズボンのファスナーに手をかける。
「嬉しい?」
「勿論。」
そっか。俺なんかでもいいんだ。
「先に入って。俺も脱いだら入る。」
ズボンと下着も脱がしてもらって、背中を押された。
「俺もあなたの服脱がせるよ。」
「……いいの?」
「うん。」
自分だけやってもらうってのも…。
「ありがとう。」
「っ!?」
ヤバこの人。笑顔もめっちゃいい。
「ねぇ、名前聞いてもいい?」
「“カズト”だよ。」
「本当の名前は?」
「言えない。」
「どうしてもダメ?」
俺よりも少し背が高いから見上げてるんだけど、捨てられた子犬みたいで心が痛む。
「……へ…。」
「ん?」
「本当の名前は“阿部亮平”」
「いい名前だね。俺は“目黒蓮”」
にっこりと笑うとキスをされた。
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