勇斗が最近冷たい気がする。
俺の言動に普段から当たりが強い勇斗だが、俺が豆腐メンタルなことも考慮してさりげなくフォローを入れてくれたりしてたのに最近それがないと感じるようになった。
もしかしたら、それに甘えてそれが当たり前になってた俺が悪いのかもしれないけど、勇斗にきつく当たられて悲しくないわけがないしさりげないフォローに救われてるなって感じてる部分すらもあったわけでそれがなくなった今、俺はほんとに勇斗に想ってもらえてるのかすら不安になる。
それなら、自分から行動すればいいじゃんと思って近づいたり、撮影の時に引っ付いてみたりしたけど「距離感考えろや」「あんま近寄んな」「ほんとやめろ」と散々な始末。
それが2回3回と続けばもう俺からはどうすることもできなくて。
俺らの雰囲気を察して太智がBIG LOVEの生配信で近寄らそうとしたけど俺のメンタル的にまたなんか言われるのがしんどくて自分から離れたなのに…
「それでほんとに嫌なの俺だから」
って言われて傷ついて。
「俺もそんなに嬉しくはないよ別に。距離が近かったとしても」
って言い返すしかできなくて。
なんにも上手くいかない。ほんと、もう、やだ。
「佐野さんとなんかあったん?」
やっぱり、一番に俺のことを気にかけてくれるのは太智で、でも、やっぱり素直になれなくて。
「いや、なんにも」
「ん、ならいいんやけど」
太智の優しさはこういうとこだと思う。
言いたくないなら言わなくていい。
でも、いつでも聞くよって雰囲気を作り出すのがうまい。
「そーいえばさ、佐野さんと喧嘩でもしてんの?」
別日に柔太朗にも投げられる質問。
「喧嘩は…してないと思う…」
「なにそれ?」
怪訝そうな顔を向けられる。
「いや、わからんのよ。俺にも」
「わかんないなら、ちゃんと話すべきなんじゃないの?佐野さんと吉田さんの雰囲気悪くていいことなんてM!LKに一つもないよ」
「…ん」
柔太朗は基本的に肯定的で優しさに溢れてるけどどうするべきかしっかり言葉にできるところが柔太朗らしい。
柔太朗に背中を押されて勇斗とちゃんと話がしたいと思ったのに佐野さんのスケジュールに空きがない。
忙しいってわかってるし、俺なんかと会うために時間を使って欲しくない……ってこれは、言い訳か…
「じんちゃん、元気ないけどどないしたん?」
「え?俺、元気ない?!」
いつも通りにできてるつもりでいた。唯一勇斗が尊敬してくれてるメンタル維持の部分まで事欠いたら俺はあいつの隣に立つ資格なんてない。
「いや、ちゃうくて!いつも通りのじんちゃんなんやけど!一人になると心ここに有らずって感じやなって!俺が勝手に感じただけやから!」
舜太が俺の圧にびっくりして一生懸命訂正してくれるけど、メンバーにそう感じさせてしまってる時点で駄目だ。
あ…なにやってんだろ。俺…
「じんちゃん!!」
舜太の声に顔を上げる。
「じんちゃん!M!LKは柔もいるし、だいちゃんもいる!俺もいるし、はやちゃんだっているんだよ?M!LKは5人でM!LKなんだから1人で頑張っちゃだめ!」
手で大きなバッテンを作って、いって歯をむき出して笑う舜太のエネルギッシュさや元気さは舜太にしか出せないし舜太の言葉だから心に響く。
「いつでも、頼っていいんだからね!」
「ん、ありがと」
言い訳せずに、逃げずに、ちゃんと勇斗と話そう。
もし、振られても太智に美味いもん奢ってもらって、柔太朗に徹夜でゲーム付き合ってもらって、舜太に甘やかしてもらう。
うん。それでいいや。
『今夜、佐野さん家で帰り待ってます』
スケジュール的に家に帰りそうな日。次の日があんまり早くない日を選んで連絡を入れる。
貰った合鍵で家に入る。もしかしたら、これが最後になるかもしれないと思うとちょっと寂しかった。
「お邪魔しま~す…」
一応挨拶しながら入り、リビングに向かう。
「あ、また積雪…」
薄っすら積もった埃に安心する日がくるなんて思ってもみなかった。
勇斗以外の人の存在がないことに安堵した。
「片付けたいけど、好きじゃない奴に家触られんのは嫌よね」
勇斗が俺をどう思ってんのかわかんなくて、大人しく待つことにした。
ガチャ バタン
玄関の開閉音で勇斗が帰って来たことを察して少しだけ、緊張する。
廊下の途中で洗面所に寄り、手を洗う気配。そして、リビングの扉が開く。
「あー、おかえり」
「ん、ただいま。…遅くなった」
「いや、俺が勝手に待ってただけだし、大丈夫」
少しだけ勇斗の顔が曇った気がした。
「んで、急にどうした?なんかあった?」
俺が座ってるソファーの横じゃなく床に座る勇斗に胃がさらにズンと重くなる。
でも、ちゃんと話するって決めたから。
「…はやと、俺になんか言いたいことない?」
「はぁ?」
ここで初めて勇斗と目が合う。
「ないけど?」
「え…?ないの?」
「ねぇよ。てか、逆に仁人俺に言わなきゃいけないことない?」
え?自分が逆に聞かれるなんて思ってなかった。
しかも、勇斗に言わなきゃいけないこと…?
「……え?勇斗に言ってないこと?なくね?」
「なくないだろ」
そんなはっきり否定されるとなんかあったけ?って不安になって一生懸命考える。
「…えー……あっ」
「なに?」
1個だけ、メンバーに言ってないことがあった。
でも、それ?
「あー…っと、フライング飛ぶのと引き換えにスタッフさんからエクレア貰いました。2個」
「は?どうでもよ」
「どうでもいいとか言うな!」
一生懸命考えて絞り出したのにどうでもいいって、他に思いつかんよ?
てか、これって典型的な恋人の隠し事ないのに暴く的なあれじゃね?自ら墓穴掘らすやつ。
「他に心当たりねぇの?」
「ないですね。ほんとにある?言ってないこと」
「あるだろ」
即答…これはガチだわ。え?なに?ほんとに思いつかん。
「俺が、それ太智から聞いた時どんな気持ちだったかわかるか?」
だいちぃ??え?俺が勇斗に言ってない話を太智が知ってた?そんなことある?いや、あるか。
「ん~!!ほんまにわからん!ヒント!」
「あー!その口ほんとやめろって!なんでわっかんねぇの!ヒントはドラマ!」
なんやかんや言いながらくれるヒント。ドラマ?
最近ちょくちょくドラマのお仕事はいただいてるがスケジュールはメンバーと共有してるから知らないことはないはず。
「BS!!」
痺れを切らした勇斗がさらにヒントをくれる。
「BS?ドラマ?……ROOM…?」
「うん」
やっと導き出した正解にさらに首をかしげる。このドラマもスケジュールに入ってるからちゃんと見てれば把握してるはずだが、もしかしたら佐野さんのことだ。またスケジュール確認を怠って後々知って怒ってるのか。それは理不尽じゃね?と思いつつ。
「8月27日火曜日、BSーTBSにて放送です。見てね?」
「誰が、んなこと聞いたよ。知ってるわ!」
あ、知ってたんだ。え?じゃ、まじで何?さすがにメンバーでもこのくらいじゃない?知ってる情報って。
「まぁじで、わからん!」
「……仁人の役は?」
呆れたように質問を投げられる。
「鈴朗」
「役柄は?」
「え?人気俳優…?」
「鈴朗の恋人は?」
「明彦?」
謎を紐解くように投げかけられた質問がぴたりと止む。
明彦がなに?今まで出たドラマで、勇斗がこんなに内容に触れてきたことなんてなくて戸惑う。
ドラマが放送された後とかに誰と共演したとかの話はされるけど放送前になんてことは初めてだ。
「明彦がなに?」
こいつまじかって顔で勇斗が俺を見上げてくる。
勇斗が何を言いたいのかまじでわかんない。
「…相手役…」
目線を外しながらぽつりと勇斗が呟く。
「相手役、男なら、前もって言えよ。なんで太智から聞かされんだよ」
「え?いままで、そんなこと言わなかったじゃん」
「今までは女性だったろ。仁人はさ、俺と付き合ってるわけだからそいつに惹かれる可能性だってあるわけで」
あー考えたことなかった。勇斗以外のやつなんて。
「いや、ごめん。俺、男が好きなんじゃなくて勇斗だから好きになったからその考えなかったわ」
「おまっ!なんでそんなことさらっと言うん…!勝手に拗ねてた俺が悪いみたいじゃん」
「ははは!でも、うん。ごめん。佐野さんの気持ち汲み取れんで」
「ん、俺も、勝手に拗ねて態度悪くてごめん」
態度悪い自覚あったんだ。
口には出さないが一人でほくそ笑む。
勇斗がソファーに突っ伏しながら
「帰って来た時、仁人に振られんのかなとか思った」
「え?なんで?」
「普段の仁人だったら、飯作って部屋片づけてくれてんじゃん。そのまんまだったから」
「あー!だから帰って来た時少し表情曇ったのね。俺なりに考えていじんなかったんだけど、なんか俺らすれ違ってたのね」
「だなー」
ソファーに突っ伏したままの勇斗の朝ドラの為に短く切りそろえられたまあるい頭を撫でる。
「仁人、帰んの?今日」
「まぁ、振られると思ってたんで帰るつもりだけど」
「……おれ、ふってねぇよ?」
素直に言えばいいのに意地っ張りな佐野さん
「だねー」
ひねくれ者の俺。
さっきは俺が素直になったんだから言ってよ。
勇斗。
頭を撫でてた手をとられる。
「……泊まってけ」
命令口調の佐野さん。
「仲直り…したい」
「いいよ。仲直りしよ」
素直すぎて可愛すぎる佐野さんのぴょんぴょん髪の毛がはね散らかしてるつむじに口付けを落とした。
コメント
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うわぁ!!予想外のお話だった😆 始まりがケンカからだったから このまま BAD END😭と思ってたら 佐野さんの嫉妬が斜め上すぎて も〜としか言えない😏 仁人君のエクレア(レコメン)で聞いてたから ここで出てくるとは、てか2人ともの思考や返答が💖可愛すぎるんだけど 「ROOM」始まる前からこの嫉妬は最高すぎる〜 いや〜次は佐野さんROOM始まったら😖どんな嫉妬を見せてくれるんだろう
さのじんのこういうとこが好きです///💕
めちゃくちゃ好きです、 すれ違いとか最後のつむじにキスとか最高すぎですって、ありがとうございました、😖🫶