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「記憶障害? アルビノ?」

樹は次の日、自身の働く総合病院に彼を連れていき、指導医に相談した。しかしその指導医も首をひねった。

「そんな珍しい人がいるかな」

彼をひろった顛末を聞いたが、ぴんときていない様子だ。

樹の背中に隠れるようにしているタイガは、しきりに自分の着ている服を触っている。体型の似た樹に服と靴を借りているが、あまり慣れないようだ。

「とりあえずMRIとかお願いできますか。もしかしたら何か見つかるかもしれませんし」

わかった、とうなずいて許可を出した。

「ただ、さっき質問をした限り重度の記憶障害があるように思う。治療が必要だから、担当医は田中先生でいいかな」

はい、と気合を入れて返事をした。


検査室に連れて行っても、タイガは見るもの全てを不思議そうに眺めている。

「じゅりくん…」

そのとき、か細い声を出した。

樹は準備を終えて一旦部屋から出ようとしていたところだった。

「え?」

名前を覚えていたことにまず驚いた。

「…これは、何?」

ああ、と頬を緩める。

彼についてはまだ何もわからないが、一般知識が乏しいのだろうというのは理解していた。

「MRIっていう機械。これで脳の中を調べるんだ。大丈夫、痛くも何ともないから」

頭を指さして言った。笑いかけ、部屋を出て検査を始めた。



「うーん…」

その後、樹と指導医は揃って難しい顔をしていた。

「外傷はないですし、腫瘍とか異常も見られないですね。ということは…ストレス性でしょうか」

「そういうことになるかもしれない。ただ…原因が不明だな。なんせ本人が覚えていない」

「そうですね」

「あとは、視力検査と血液検査をしよう。皮膚に異常がないかも調べる必要がある」



「はっ、睡眠薬?」

樹は驚いて声を出す。

「ほんとですか、それ」

ついさっき血液検査結果が上がってきたのだが、そこには本来の状態ではないはずの薬剤の成分名が記されていた。

「どうやったら血液検査で間違った成分が出てくるんだ。確かにこれは睡眠薬。だから、彼は君に発見されるまで眠っていた可能性が高い」

指導医が言う。

「私にも訳はわからんが、事実だからな。ほかに異常がないから病気ではないと思う。彼のカルテに書いておいてくれ」


一通り検査を終えたタイガは、樹に連れられ廊下を歩いていた。これから入院する病室へ行くためだ。

「視力は0.05の弱視、皮膚は紫外線による異常なし。あとメラニン色素の欠乏…か。やっぱりメガネがいるな」

先ほどの検査結果を反芻していた。

「何で睡眠薬なんかを…」

後ろを歩くタイガの顔は、少し強ばっている。樹はこの病院に来てから、やや表情が暗いのが気になっていた。

「ここだ。206号室。タイガくん、しばらくここで過ごしてもらうよ」

ドアを開け、中に入る。

「あ、カーテン閉めなきゃ」

日光が当たるのを防ぐために病室のカーテンを閉めて、後ろを振り返る。

なぜかタイガは入り口から動かない。

「…どうした?」

中へ視線を向けるその表情はどこか怯えていた。

そして次の瞬間、タイガはくるりと背を向けて駆け出した。

「えっ、ちょっと! 待って!」


続く

記憶喪失の妖精、拾いました。

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