コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「記憶障害? アルビノ?」
樹は次の日、自身の働く総合病院に彼を連れていき、指導医に相談した。しかしその指導医も首をひねった。
「そんな珍しい人がいるかな」
彼をひろった顛末を聞いたが、ぴんときていない様子だ。
樹の背中に隠れるようにしているタイガは、しきりに自分の着ている服を触っている。体型の似た樹に服と靴を借りているが、あまり慣れないようだ。
「とりあえずMRIとかお願いできますか。もしかしたら何か見つかるかもしれませんし」
わかった、とうなずいて許可を出した。
「ただ、さっき質問をした限り重度の記憶障害があるように思う。治療が必要だから、担当医は田中先生でいいかな」
はい、と気合を入れて返事をした。
検査室に連れて行っても、タイガは見るもの全てを不思議そうに眺めている。
「じゅりくん…」
そのとき、か細い声を出した。
樹は準備を終えて一旦部屋から出ようとしていたところだった。
「え?」
名前を覚えていたことにまず驚いた。
「…これは、何?」
ああ、と頬を緩める。
彼についてはまだ何もわからないが、一般知識が乏しいのだろうというのは理解していた。
「MRIっていう機械。これで脳の中を調べるんだ。大丈夫、痛くも何ともないから」
頭を指さして言った。笑いかけ、部屋を出て検査を始めた。
「うーん…」
その後、樹と指導医は揃って難しい顔をしていた。
「外傷はないですし、腫瘍とか異常も見られないですね。ということは…ストレス性でしょうか」
「そういうことになるかもしれない。ただ…原因が不明だな。なんせ本人が覚えていない」
「そうですね」
「あとは、視力検査と血液検査をしよう。皮膚に異常がないかも調べる必要がある」
「はっ、睡眠薬?」
樹は驚いて声を出す。
「ほんとですか、それ」
ついさっき血液検査結果が上がってきたのだが、そこには本来の状態ではないはずの薬剤の成分名が記されていた。
「どうやったら血液検査で間違った成分が出てくるんだ。確かにこれは睡眠薬。だから、彼は君に発見されるまで眠っていた可能性が高い」
指導医が言う。
「私にも訳はわからんが、事実だからな。ほかに異常がないから病気ではないと思う。彼のカルテに書いておいてくれ」
一通り検査を終えたタイガは、樹に連れられ廊下を歩いていた。これから入院する病室へ行くためだ。
「視力は0.2の弱視、皮膚は紫外線による異常なし。あとメラニン色素の欠乏…か。やっぱりメガネがいるな」
先ほどの検査結果を反芻していた。
「何で睡眠薬なんかを…」
後ろを歩くタイガの顔は、少し強ばっている。樹はこの病院に来てから、やや表情が暗いのが気になっていた。
「ここだ。206号室。タイガくん、しばらくここで過ごしてもらうよ」
ドアを開け、中に入る。
「あ、カーテン閉めなきゃ」
日光が当たるのを防ぐために病室のカーテンを閉めて、後ろを振り返る。
なぜかタイガは入り口から動かない。
「…どうした?」
中へ視線を向けるその表情はどこか怯えていた。
そして次の瞬間、タイガはくるりと背を向けて駆け出した。
「えっ、ちょっと! 待って!」
続く