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空音
37
シュメール
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「とにかく、最後は読んでのお楽しみよ!」
桜子は苛立って言った
「あのね、私はあなたの読者じゃないの!添削や編集には、まえがきで、冒頭どんな展開でラストはこうなって私のテクニックはこうです!って説明しないといけないのよ、「とにかく読め!」と出し惜しみしちゃいけないの!そんなの一発で下読みで弾かれるわ!あなたは基本の企画書の作り方から習うべきよ!」
「あの・・・私・・・ちょっとおトイレに行ってもいい?」
希実がモジモジして言う、無理もない、およそここに座って3時間は経とうとしている、いくら彼女が、こまっしゃくれている(※生意気)とはいえ、健常者の桜子がもう少し気を使ってやるべきだった
「あっ!そうね・・・え~っと!」
桜子はキョロキョロして障がい者用の多目的トイレを見つけて、指さして立ち上がった
「あそこよ!」
「じっ・・・自分で行けるわ!」
「電動でも押した方が早いわよ!」
そう言って戸惑っている希実を無視して、桜子は彼女の車椅子を押して足早にトイレに向かった、車輪が床のタイルの継ぎ目を小さく拾うたびに、つるつるの床にキュッキュッとゴムの軋む音がする、多目的トイレのフットボタンをパンッと蹴ってドアを開け、広々とした個室に車椅子ごと入って行く
「リュックはこの簡易ベッドに置くわね、後は?何か取り出すものある?」
「・・・大丈夫よ」
「それじゃ、外で待ってるわ!」
そう言って桜子は希実の車椅子を便座の手すりに手が届く位置に止めて、彼女を個室に残して外に出た
そして彼女が戻って来る前にフードコートのテーブルの飲んだ空のコップを片付けて綺麗にした、使い終えたトレイを返却口に重ねて、またトイレの入り口で彼女を待った、そんな細々とした気遣いが気づけば体に染みついていた
「地下鉄でしょ?改札まで送って行くわ」
無言で桜子の勢いに圧倒されている希実を無視して、駅の改札と連携している休日のショッピングモールの中を、彼女の車椅子を押して歩く、とにかくこの子の相手は疲れる、そして勝手知ったるここのショッピングモールは桜子の庭だ
「このエレベーターの方が教室に近いの、駅から直通だし、今度からこの改札から来ると教室に最短で着くわよ」
とか
「ここのおトイレが一番広くて車椅子は使い勝手が良いと思うわ」
などと教えてあげたが希実は終始無言だった、車椅子のハンドルを握る桜子の手だけが迷いなく通路を進んでいく
「ちょっとここで待っててね、駅員さぁ~ん!お願いしま~す」
そうして駅員がホームと電車の間にかけてくれる「車椅子用のスロープ」を持ってきてくれて希実を電車にのせた、桜子は扉が閉まっても希実に手を振った
希実は気のせいか一瞬だけ桜子にペコリとお辞儀をしたような気がしたが、電車は去って行った、ホームに一人残された桜子は、雨で湿った空気を吸い込みながらしばらくその場に立ち尽くしていた
この恐るべき自惚れ屋の車椅子の彼女の第一印象はそうとうなものだった、一体どこから自分は大ベストセラー作家になるという自信が来るのだろうと不思議に思ったものだった
そして桜子のカバンのポケットには、希実のUSBメモリーが入っていた
コメント
2件
桜子優しいね😌ちょっとほっこりしちゃった…純粋な親切心と添削業務が邪な考えに冒されませんように🥺🙏
第28話、読み終えました。桜子の気遣いが細部まで丁寧に描かれていて、特にトイレの案内や駅員を呼ぶシーンは「こういう優しさって相手にどう伝わるんだろう」と考えさせられました。希実がほんの少しだけお辞儀したように見えた瞬間、胸がじんとしましたね。そしてラストのUSBメモリー……これは伏線ですよね。今後の展開が一気に気になります。続きが楽しみです!