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「いやあ、あったあった。
こっちにあったー」
夜、駄菓子屋にいると、そう言いながら、いつもの小太りなおとうさんがやってきた。
狸一家のおとうさんが化けている男の人だ。
その言葉を聞き逃さず、倫太郎が立ち上がる。
がっし、と狸のおとうさんの腕をつかんで訊いた。
「こっちにあったって。
何処になかったんですか?」
は? と噛んだら、あやしいものが出てきそうな風船ガムを箱買いしかけた狸のおとうさんが振り返る。
「あの人(?)はいつもオーナーの店見つけるの上手いですよね~」
「あやかしだから、あやかしの店に引き寄せられるんじゃないのか?」
「それにしても、また見たことのない寺の境内ですね」
壱花と倫太郎は高尾に店を任せ、狸のおとうさんに聞いた、オーナーの店があるという寺に来ていた。
お土産大好きな高尾に、
「なにかお土産買ってきてよね~」
と言われたので、買って帰らねばな、と思いながら、壱花は境内の端を歩く。
人気のない小さな寺。
古い手水舎。
揺れる竹林。
……の先に赤い提灯の小さな屋台のような木造の店。
「いつも思うんですが。
オーナーの店は、お化け屋敷の中のセットみたいですね」
「まあ、こんな場所だと、基本、あやかししか買いに来ないから、ある意味、お化け屋敷だよな」
自分たちの姿を見たオーナーは、いつものように、
「店はどうした?」
と訊いてくる。
「高尾さんと冨樫さんに任せてきました」
出かけようとしたとき冨樫が来たので、いっしょに行くかと倫太郎は訊いたのだが。
冨樫は少し考えたあとで、いや、遠慮します、と言って高尾とともに残ったのだ。
「そうかい。
じゃあ、二人にこれでもやりな」
がめついはずのオーナーがカラフルな飴玉が入った袋をひとつくれる。
まあ、オーナーには、高尾さんが子狐に見えてるようだからな。
そう壱花が思ったとき、倫太郎が言った。
「オーナー。
ちょっと訊いてみるんだか。
あんた昔、こんなものを売ってなかったか?」
倫太郎に肩をつつかれ、壱花は四つ折りにしていた式神をポケットから出した。
もう二枚使ってしまったので、あと四枚しかない。
ああ、とそれを見たオーナーはすぐに頷いた。
「簡易式神だね。
懐かしいね。
昔、うちの駄菓子のおまけにつけてたよ」
えっ?
駄菓子のおまけ? と壱花はそのいい香りのする式札を見る。
「じゃあ、晴明さんはここで駄菓子を買ったんですかね?」
――そういえば、江戸時代の人とか来たことあるな。
でも、平安時代の人はさすがに来たことないんだけど。
晴明さんは、いつの時代に買ったのだろう。
やっぱり、平安時代?
でも、平安時代に駄菓子屋なんてあったっけ?
と悩む壱花の前で、倫太郎が言う。
「やはり、駄菓子のおまけだったのか。
ということは、晴明がお前にそれをくれたのは、単にガキ大将が転校生に、これやるよ、とかってメンコとかやるのと感じかな?」
どんな安倍晴明……と思ったが、オーナーは、
「箱買いしたやつが引けるクジのアタリにしてたよ」
と言う。
箱買いしたうえにクジを引いて当たらないともらえないのかっ、と壱花は衝撃を受ける。
「じゃあ、クジ一等くらいの価値がありますね」
「それ以上じゃないか?
あまりアタリなさそうだぞ」
と金銭面では渋いオーナーを見ながら倫太郎は言う。
「あまり式札の数がなかったからね」
「でも、俺が店をはじめた頃にはまだ残りがあったよな。
それで見たことがあったんだ」
壱花は式札を眺めながら、えっ? と言う。
「式札の数が少ないのに、晴明さんがいた頃から社長が小さいころまでアタリが残ってたって。
千年前から、今までに出たアタリの数は何個なんですか。
どんだけレアだったんですか」
いや、ここに六枚もあるんだが、式札、と思ったとき、オーナーが言った。
「いや、私もさすがに千年前から駄菓子屋をやってはいないよ」