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第142話:絶望のトラブルと火薬庫の沈黙。元需品科が魅せる『完璧な弾道計算』
限界集落に奇跡の復活を遂げた夏祭りは、まさに最高潮の熱狂の中にあった。
広場の中央にそびえ立つ巨大なやぐらの周囲では、村人たちの笑顔が提灯の光に照らされて弾けている。
ドバイの石油王とスイスの銀行家が振る舞う超高級屋台、シロ様のバフがかかった俺の究極の大豆ミート串、そして巨大ヒグマの完璧な二足歩行盆踊り。
すべてが規格外で、世界一バグったこの『オペレーション・フェスティバル』も、いよいよ最後のプログラムを残すのみとなっていた。
「アキヤさん、本当にありがとうねぇ……。まさか、生きているうちにまたこの村で、お祭りの『打ち上げ花火』を見られるなんて……」
おばあちゃんたちが、空を見上げながら涙ぐんでいる。
十年前に資金難で消滅した夏祭り。その象徴とも言えるのが、村の夜空を彩る大輪の花火だった。
だが、感動のフィナーレを迎えようとしていたその時、俺の耳に装着したインカムから、切羽詰まった小春ちゃんの悲鳴が飛び込んできた。
『お、お兄さん! 大変です! 花火の打ち上げエリアでトラブル発生です!!』
「どうした。不発弾か? それとも暴発の危険か?」
俺が即座に広場の裏手にある花火の設営エリアに駆けつけると、そこには絶望的な光景が広がっていた。
今回の祭りのために隣町から呼んでいたベテランの花火師・親方が、青白い顔をして操作盤の前で倒れ込んでいたのだ。
「す、すまねぇ……。昼間の異常な猛暑の中で仕込みを急ぎすぎた……。完全に熱中症だ……。目が回って、点火のタイミングが計れねぇ……っ」
親方が脂汗を流しながら、無念そうに地面を叩く。
花火の打ち上げは、単にスイッチを押せばいいというものではない。
風速、湿度、上空の気流を読み、数十分の一秒の単位で点火のタイミングを制御する、極めて繊細で危険な職人技だ。
「そんな……! あと五分で打ち上げの予定時間なのに! このままじゃ、村の皆さんが楽しみにしていた花火が……っ」
小春ちゃんが、絶望で顔を覆う。
会場からは、子供たちの「もうすぐ花火だよね!」「おっきいの上がるかな!」という無邪気で期待に満ちた声が聞こえてくる。
十年ぶりの復活祭。ここで花火を中止にすれば、村人たちの心にどれほどの落胆と悲しみが刻まれるか、想像に難くない。
ジンバルに固定されたiPhone miniが映し出す配信画面でも、一千万人のリスナーたちが凍りついていた。
『嘘だろ!? ここにきて花火中止の危機!?』
『親方、無理しないで……でも、子供たちの声が切なすぎる』
『誰か代わりはいないのか!? いや、火薬の扱いは素人じゃ絶対に無理だ!!』
『一歩間違えたら大惨事になるぞ!!』
チャット欄が悲痛なコメントで埋め尽くされる中、俺は静かに、そして冷徹に動いた。
「親方、すぐに日陰へ移動して経口補水液を摂取しろ。小春ちゃんは親方のバイタルを監視しろ」
「えっ……? お兄さん、まさか……!?」
俺は倒れた親方の手から、花火の打ち上げ用コンソール(電子点火装置)をスッと引き継いだ。
「花火の正体は、黒色火薬と金属粉の燃焼反応だ。弾薬の管理と爆発のコントロール、そして精密な弾道計算……それらはすべて、陸上自衛隊『需品科』が扱うロジスティクスの範疇に過ぎない」
俺の目は、すでに数万発の爆音をくぐり抜けてきた、冷徹な『需品科』のそれへと変貌していた。
「これは娯楽ではない。村人たちの士気を維持し、希望という名の精神的補給線を繋ぐための、最重要の軍事演習(オペレーション)だ」
俺がコンソールの前に立ち、風速計と湿度計のデータを瞬時に脳内で処理し始めた瞬間、世界中のVIPたちが大暴走を始めた。
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Master!! Are you going to launch the fireworks yourself?! I’ll send my military advisors immediately!“(主よ!! 自ら花火を打ち上げる気か!? すぐに私の軍事顧問団を派遣する!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Akiya, calculate the risk! But I know you can do it! Full support!“(アキヤ、リスクを計算しろ! だが君ならやれると信じている! 全力支援だ!)』
『(ハリウッド女優シャーロットからの$5,000MeTubeギフト)=”Action hero Akiya! Make the sky beautiful!“(アクションヒーロー・アキヤ! 空を美しく彩って!)』
「……風速三メートル、北北西。上空の湿度六十パーセント。遅延信管の誤差修正、コンマ二秒。……第一射、ファイア」
俺は一切の感情を排した声で呟き、点火スイッチを弾いた。
シュルルルルルルッ……!!
漆黒の十勝の夜空に向けて、一筋の光が真っ直ぐに駆け上がっていく。
そして、上空五百メートルの頂点に達した瞬間。
ドォォォォォォンッ!!!!
夜空を完全に真昼の明るさに変えるほどの、巨大で、極彩色に輝く大輪の花が咲き誇った。
「わぁぁぁぁぁぁっ!!!」
広場から、地鳴りのような大歓声が沸き起こる。
俺は歓声に耳を貸すことなく、コンソールをピアノの鍵盤のように叩き、第二射、第三射と、完璧なリズムで火薬を空へと送り込んでいく。
ドォン! ドドォォンッ!!
赤、青、緑、黄金。
限界集落の夜空に、需品科の究極の計算によって導き出された、一切の狂いもない芸術的な爆発の連鎖が描かれていく。
「す、すごい……! 本当に、お兄さんが上げてるの……!? 昔見た花火より、ずっと大きくて綺麗だよ……っ!」
小春ちゃんが、夜空を見上げながら感動の涙をこぼした。
村のおばあちゃんたちも、泣きながら手を合わせ、十年ぶりの夜空の奇跡に見入っている。
そんな、全人類が一千万人の同接を通じて感動の涙を流している、世界で一番美しい打ち上げ現場のど真ん中で。
俺は、折りたたみチェアに深く腰掛け、いつものタッパーを開けていた。
「……よし。打ち上げシーケンス、自動制御モードへの移行完了。これより指揮官のエネルギー補給を再開する」
俺は、頭上でドッカンドッカンと花火が爆発するカオスな戦場(現場)において、完璧な水加減で炊き上げられた『冷やし玄米』と、自家製の『大豆ミートの梅肉和え』を、一切の表情を崩すことなくストイックに咀嚼し始めた。
「ちょっ、お兄さん!? なんで今、世界中が花火の感動で涙してる最高のクライマックスに、真顔で大豆ミート食べ始めてるんですか!!」
小春ちゃんが、花火の爆音に負けない声でツッコミを入れるが、俺は咀嚼を止めない。
「当然だ。火薬の精密制御という極限の集中力を要する任務において、急激な血糖値の低下は致命的なミス(暴発)を招く。大豆の良質なタンパク質と梅肉のクエン酸で疲労を即座に回復し、任務の完遂を目指す。これが需品科の鉄則だ」
俺は冷たいほうじ茶で喉を潤すと、カメラの前に向き直り、キリッとした真顔でいつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。私が倒れた花火師の代わりにピンチを救い、村に感動のフィナーレをもたらしたヒーローのように思われているかもしれませんが、冷静になってください」
『出たァァァァァ!!!』
『この歴史的な大感動の裏で、まだ言い訳する気かこの男は!!!』
『主の限界言い訳タイム・打ち上げ花火編ww』
『さあ、この神業と大輪の花をどうやって論破するんだww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「これは、私が花火師としての才能を発揮したわけでも、村のために美しい花火を上げたわけでもありません。私はただ、打ち上げ筒の内部に発生していた『深刻な結露とカビ』を防ぐため、内部を高温のガスバーナーで急速乾燥させる清掃作業を行っていただけです。その熱風が偶然、残っていた火薬に引火し、上空の微粒子と結合して色鮮やかなプラズマ発光現象を引き起こしただけ。ええ、すべてはただの『打ち上げ筒の除湿メンテナンス』と『偶然重なった化学的プラズマ発光』に過ぎませんね」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、屋台で買ってきた『特大サイズのブルーハワイかき氷の空きカップ』で、俺の後頭部に完璧なプラスチック・スマッシュを見舞った。
「筒の除湿のために空に向けて火薬爆発させるバカがどこにいるんですか!! プラズマ発光現象で『しだれ柳』や『スターマイン』の形になるわけないでしょうが!! おばあちゃんたち、十年ぶりの花火に本当に感動して泣いてるんですよ!! 素直に『俺が最高の花火を上げてやったぜ』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのかき氷カップスマッシュ炸裂www』
『打ち上げ筒の除湿メンテナンス(計算し尽くされた完璧な花火)』
『化学的プラズマ発光(ただの超絶綺麗なスターマイン)』
『適応力バグおじさん、ついに花火まで筒の掃除のせいにするww』
『言い訳のスケールがバグりすぎてて腹筋ちぎれるww』
俺の理不尽極まりない熱力学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレの空きカップ・ツッコミに、感動の涙を流していた一千万人の視聴者たちは、腹がよじれるほどの大爆笑の渦へと叩き落とされた。
『ミャウ(まったく……照れ屋で不器用な花火師さんね)』
打ち上げ現場の安全な距離から、藍色の浴衣を着たシロ様が、神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――に花火の光を反射させながら、優しく喉を鳴らした。
その隣では、キツネ兄弟とヒグマが、花火の音に驚くこともなく、楽しそうに夜空を見上げている。
「……まぁ、理由はどうあれ。村の空に光が戻ったのなら、それが一番だ」
俺は苦笑いしながら、十勝の夜空に連発される黄金の火花を見つめた。
激務に潰されて逃げ込んできたこの限界集落で、俺が咲かせた一番高い花火。
もふもふ達と村人たちの温かい絆と、最強の需品科の意地が結実した『オペレーション・フェスティバル』の夜は、大爆笑と消えない希望の光に包まれながら、いつまでも鮮やかに十勝の記憶に刻まれていくのだった。
コメント
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あーこれだよこれ! 需品科の知識を駆使してピンチを華麗に解決……かと思いきや、最後まで「筒の除湿メンテナンス」とか言い張るアキヤさんの限界言い訳に腹筋崩壊したわw 小春ちゃんのかき氷カップスマッシュがマジでお約束すぎて好き。シロ様の浴衣姿も映えてたし、ヒグマが花火に動じないのもツボ。笑いと感動のバランスが完璧すぎるんだよな、この話🔥 #限界言い訳タイム #打ち上げ花火編
ゆうき あきや
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#心理描写重視