先生は私と同じように動きながら、時折、私の筋肉を触ったり、微妙に足や手の位置を正したりする。
「よく動いてるね。リハビリと同時に進める筋トレは、以前の状態と同じような体を作るイメージでいいの?」
「以前の状態って、先生はわからないですよね?」
「いくつか動画を見たから、分かるよ」
「そうですか。筋肉を作ろうと思っていたわけではないんです。技をクリアするために必要な筋力が欲しかっただけで」
「オーケー。動けるのがいいよね」
「はい、一番動ける感じがいいんですけど」
「インナーマッスルと体幹を鍛えていけば、表の筋肉は大きく作る必要ないってことだね。ダンスに重い筋肉はいらないけど、軽い筋肉が必要…了解、了解」
先生は、胴体の深層部の4つの筋肉、横隔膜、腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群を総称してインナーユニットと呼び、そこを鍛えるメニューを作ってくれるという。
早速パソコンを使い始めた先生に
「木村香ってどうなってる?」
水を飲みながらタクが聞く。
「ああ、昨日来たよ」
「来てるんだ?」
「来てるだけ」
「どういうこと?」
「普通に、来てるだけ。ボクはお客様だと思って接してる。あ、サイサイはお客様じゃなくって、さっきも言ったけどゴールまで全力でサポートしたい子だからね?」
「ありがとうございます。来てるだけって…ここでトレーニングしないということ?」
こんなに整った空間でトレーニングしない人って、もったいない。
そう思った私に、羅依が自分の水を差し出した。
「だいたい、最初の目標設定が出来ないんだよね、あの女」
「鍛え始めたいって言ってたような気がするけど…」
私が羅依を見上げるけれど彼は興味なさそうに、私の高い位置のサイドポニーテールをいじっている。
「才花ちゃんの腹出しファッションがいい、とか言ってたよな?」
「…タク、ヘソだし?」
「同じだろ?」
「「違う」」
私と羅依の声が揃うとタクが床に寝転がった。
「ダイエット目的でないんだよな。確かに、腹を出したいとは言ったから筋トレメニューと食事制限を提案したんだ。そしたら、食事は親に丸投げしたようで、そこをしっかり食べているのに消費量が少ないから太ってきてる」
「ここは週1?」
「そうそう。で、家でのメニューを渡してあるのに全くやってないね」
「やってないって?」
「やってるって言うけれど、ここで動きをチェックしたら全く出来ないからやってない」
「でもやめてない?」
「やめてない」
「なんでだろうね…」
「ここは完全予約制のパーソナルジムだろ?」
「ああ、分かった」
「え、タクすごい。羅依も分かったの?」
「才花と同じく分からない」
羅依がそう言うと、先生はケラケラと笑いながら教えてくれた。
「普通の学生にすれば、高級エステや高級フィットネスクラブか、それ以上のレアな空間だよね。そこに通ってるってことがステータスなんじゃないかな」
「ステータス…しょうもな…」
私の呟きに先生とタクがケラケラと笑い、羅依が私の頬を撫でた。
「俺好み」
コメント
2件
腹出し〰️🤣🤣🤣 ダイエット食でナゼ肥る⁉️
香サン来てるんだ😳 ダイエットとかなんてどーでもいいんのよ〜!才花ちゃんのように腹出しすれば羅依が振り向いてくれると思い込んでるから🤣 それと羅依の言うとおりパーソナルジムに通ってるっていうのだけで鼻高々なんだよ😮💨キングとお知り合い〜だから、アナタ達とは私違うのよ〜ってね! しょうもな…才花ちゃん大正解(╭☞°д°)╭☞セイカーイ💮俺好み…(≖͈́ㅂ≖͈̀ )ニヤ