テラーノベル
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番組収録後、Snow Manの楽屋は、いつもより少しだけ静かだった。
原因は、言うまでもない。先ほどの収録で見せた、渡辺の明らかな異変と、それを完璧なポーカーフェイスでやり過ごす宮舘。
二人の間に流れる、見えない壁に、メンバーたちは気づかないふりをしながらも、それぞれの胸に不安を募らせていた。
そして、その日の夜。解散後、メンバーたちは動き出した。
翔太side
「…で?何、しょっぴー。急に飲みに誘うなんて、珍しいじゃん」
深澤が、カクテルグラスを傾けながら尋ねる。集まったのは、渡辺と、彼を心配した深澤、阿部、そして目黒だった。
渡辺は、黙ってウイスキーグラスを煽るだけ。阿部が、諭すように口を開いた。
「翔太、今日の収録、明らかに様子おかしかったよ。何かあったんでしょ、宮舘と」
「…別に」
「別に、で済むなら、俺らもこんなとこまで来ないよ」
目黒の、まっすぐな視線が突き刺さる。年下からの、容赦ない指摘に、渡辺はぐっと言葉を詰まらせた。
「…あいつが…」
ぽつり、と渡辺が話し始める。MV撮影での衝突から、楽屋での口論、そして、宮舘に言い放たれた「プライベートでは関わらない」という言葉まで。
話を聞き終えた三人は、重い沈黙に包まれた。
「…それは、翔太が悪いわ」
最初に口を開いたのは、深澤だった。
「お前、言っていいことと悪いことの区別もつかねぇのかよ。幼馴染ヅラすんな、なんて、舘に一番言っちゃいけねぇ言葉だろ」
「…わかってるよ」
「分かってないから、言ったんだろ」
深澤の厳しい言葉に、阿部が「まぁまぁ、ふっか。翔太も反省してるんだから」と割って入る。
「でも、宮舘も少し頑固すぎるかもね。『関わらない』なんて、本気で言ってるわけじゃないと思うけど…」
「いや、あの人は本気で言うと思う…」
静かに聞いていた目黒が、きっぱりと言った。
「舘さんは、一度決めたら、絶対に曲げない人だから。今のままじゃ、本当に『ビジネスパートナー』で終わっちゃうよ。それでもいいの?しょっぴーは」
その問いに、渡辺は答えることができなかった。
涼太side
「…というわけなんです」
ラウールが、心配そうな顔で床に座る宮舘を見つめている。宮舘は、岩本に誘われるがままにジムに来てはみたものの、トレーニングをする気にもなれず、ただベンチに腰掛けていた。そこに、話を聞きつけた康二とラウールが合流したのだ。
宮舘は、渡辺との間にあったことを、感情を排して、淡々と事実だけを話した。
「…なるほどな」
サンドバッグを打つ手を止めた岩本が、汗を拭いながら言った。
「それで、お前は『プライベートでは関わらない』と。本気で、そうするつもりか?」
「…その方が翔太のためだと思う」
「ほんまにそう思てんの!?」
今まで黙って聞いていた康二が、声を上げた。
「舘様!それはちゃうやん!翔太くんだって、絶対そんなこと望んでへんって!」
「…でも、翔太がそう言った… 俺は、ただのメンバーの一人だって」
その言葉を口にする宮舘の横顔は、ひどく寂しそうだった。
「翔太くん、きっと後悔してるよ!」
ラウールが、必死に訴える。
「あんなに分かりやすく落ち込んでるんだもん!本当は、舘様と仲直りしたいに決まってる!」
しかし、宮舘は静かに首を振った。
「…もう、遅いんだ。俺たちは、昔のようには戻れない。プロとして、グループのために、今はこれが最善の形なんだと思う」
そう言って、無理に微笑む宮舘の姿に、三人はそれ以上、何も言うことができなかった。
それぞれの場所で、深まっていく溝。メンバーたちの心配をよそに、「ゆり組」の時計の針は、止まったままだった。
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