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母が隠していたこと
私は、写真を何度も見返していた。
若い頃の母。
隣に立つ知らない女性。
そして、その後ろにいる長い髪の女。
写真の裏には、私の名前が書かれていた。
どうして?
私は生まれる前から、この女に狙われていたの?
手が震えた。
母に聞かなければならない。
私は何度も電話をかけた。
五回目。
ようやく繋がった。
「お母さん!!」
『……あんた、写真を見たのね』
その一言で分かった。
母は知っていた。
全部知っていたんだ。
「どういうことなの? 私の名前が書いてあった。あの女は誰なの?」
電話の向こうで、母が泣き始めた。
『ごめんね……本当にごめん』
「謝らないで! 説明してよ!」
しばらく沈黙が続いた。
そして母は、ゆっくり話し始めた。
『あの女は、昔この家にいた人なの』
「家にいた?」
『お母さんが小さい頃、近所に住んでいた女性だった。とても優しい人だったの。でも、ある日突然亡くなった』
「それがどうして私に関係あるの?」
『亡くなる前、その人は子どもを亡くしていたの』
母の声が震えた。
『その子を連れていかれたくないって、毎晩泣いていたらしいの』
「……誰に?」
『分からない。でも、その女性が亡くなってから、周りで不幸が続くようになった』
私は写真を見つめた。
『お母さんが若い頃、一度だけ夢に出てきたの。その人が言ったのよ』
母は言葉を詰まらせた。
『次に生まれてくる子を、私にちょうだいって』
「……それで?」
『お母さんは断った。でも、その後にあんたが生まれた』
私は何も言えなかった。
『あんたが生まれてから、家の中で変なことが起きるようになった。夜中に子どもの泣き声が聞こえたり、誰もいない部屋で足音がしたり……』
「どうして今まで黙ってたの?」
『普通に暮らしてほしかったから』
その言葉が、胸に刺さった。
普通に暮らしたかった。
私だってそうだった。
家族と暮らして、仕事をして、休みの日には友達と遊んで。
ただ、それだけでよかった。
なのに。
『それからね……』
母の声が小さくなる。
『あの女は、あんたが介護施設で働き始めてから、また現れるようになったのかもしれない』
「どうして施設なの?」
『あの女が最後に働いていた場所が……その施設だったの』
私は息を呑んだ。
最初に襲われた利用者さん。
あの人は何かを知っていた。
そして、あの女は私を指差した。
全部、繋がっている。
『お願い。もう施設には戻らないで』
母が言った。
「でも、あの人たちは……」
『もう誰も助けなくていいの。自分の命を守って』
私は返事ができなかった。
介護の仕事をしているからこそ分かる。
誰かが助けを求めていたら、見過ごすことなんてできない。
あの夜だってそうだった。
私は助けたかった。
ただ、それだけだった。
そのとき、母が突然叫んだ。
『後ろ!!』
私は振り返った。
部屋の入口に、女が立っていた。
母が電話越しに泣き叫ぶ。
『見ないで! 絶対に目を合わせないで!!』
女はゆっくり顔を上げた。
そして、私の名前を呼んだ。
一度。
二度。
三度。
私は返事をしなかった。
すると女は、初めて怒ったような声を出した。
『どうして返事をしないの?』
私は震えながら、スマートフォンを握りしめた。
『お母さんの言うことを聞いたのね』
女が笑った。
『でも、もう遅いよ』
次の瞬間、部屋の電気がすべて消えた。
暗闇の中で、母の声が聞こえた。
『あんた……逃げて!!』
そして電話が切れた。
私は暗闇の中で立ち尽くした。
目の前には、女の気配。
もう、逃げ場なんてなかった。
コメント
1件
第7話、一気に不気味さが加速したな……! 写真の謎、母の告白、「次に生まれてくる子を私にちょうだい」ってセリフがマジで怖すぎる。施設と女が繋がってたのもゾッとした。 最後の暗闇で電話切れるとこ、息止まったわ。続き気になる🔥
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椿
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