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正直、私も行こうか迷っていた。
異世界転生の花形である“魔王討伐”
それに参加できると聞けば、喜んでついて行きたくなるもの、でも、この臆病な私は、自分の命を惜しんだ。
笑顔で旅に出る“勇者”一行の背中を笑顔で見守る村人Aの立ち位置を選んだのだ。
**
「…ヒスイ…!あなたは救世主だよ…!」
「私たちを救ってくれてありがとう…!」
「…生まれながらの救世主だわ…!」
称賛の声を浴びる“救世主”ヒスイ。
魔王を倒した、彼らの救世主。
「…トウカ!ただいま!無事に倒せたよ! 」
帰還した当日、私の家までやってきたハルカら涙ながらにその喜びを語った。
「それでね、ヒスイったらすごいんだよ! 」
彼の口から飛び出す、ヒスイの行った善行の数々。暴力を避け、平和的な解決を目指した彼女の武勇伝。
気持ち悪い。すごく、不快。
ハルカが帰った後、その場から動けずにぐるぐると思考を巡らせていた。
体の奥で渦巻く不快感の正体は、浅はかな嫉妬だった。
街を歩いている時に、耳に入るのはやっぱり救世主の武勇伝。
私に突き刺さる、蔑むような視線。
魔王討伐に参加せず、安全な街でのうのうと生きていた私を攻めるような視線。
違う、違うでしょう…?
ヒスイのしたことは歴史に残る、素晴らしいことだと思うわ。
でもきっと、それだけが努力、苦労ではないでしょう?
私だって…努力したのに。
**
日光の当たらない、暗い部屋でうずくまる。
部屋に篭もり始めて、一体何日…何週間が経ったのだろうか。
突然、部屋にノックの音が響いた。
私はそれを無視して窓の外を眺め続ける。
「え、っと…もしもし?トウカ…?大丈夫?」
ドア越しに聞こえるハルカの声。
「最近、元気ないみたいだけど…大丈夫?
みんな、心配してるんだ…」
“みんな”という言葉に体がぴくりと反応する。
淡い期待が胸を彩った。
もしかして、まだ皆は私を見捨てていなかったのか…また、昔のように笑い合えるんじゃないか…
そうだとしたら、私はまた皆の輪の中に…
立ち上がって、ドアの方へと向かう。
ドアノブに手を伸ばす。
「……ヒスイがね、君のことすごく心配してるよ…転生者同士仲良くできるかもって…」
「……は」
ドアノブに掛けようとした手が行き場を失い、固まった。
“ヒスイが”?貴方じゃないの…?
「それで…もし良かったらヒスイに話してみない?君の悩み…きっと転生者じゃない僕では分からない話も多いと思うんだ…だから__」
「…帰って」
私の淡い期待はこうしていとも簡単に打ち砕かれた。
彼への失望と歪で醜い嫉妬が私の中でぐつぐつと煮えたぎってきた。
身勝手なのは理解してる。
離れていったのは私なのに、こんなこと図々しいと分かってる。
それでも、彼に手を差し伸べて欲しかった。
私を輪の中へと招き入れて、“救世主”ヒスイが居なかったあの日々へと戻たかった。
どうしようもない程の嫉妬。
それをぶつけた相手は、ドアの向こうのハルカだった。
怒りに任せ、困惑した様子のハルカに怒鳴る。
「帰ってよ!…私の気も知らないで…勝手に踏み込んで来ないで!」
勢いよくドアを蹴りつけた。
「と、トウカ…?」
やってしまった。
明らかに怯えたハルカの声。
冷や汗が頬を伝う。
私は取り返しのつかないことをした。
嫉妬なんてくだらない、浅ましい感情に任せ、
彼を傷つけた。
冷静に考えることもせず、彼に行き場のない感情をぶつけた。
私、最低だ。
優しく歩み寄った彼になんてことを言ったんだ
後悔をするのはいつだって全部終わった後なんだ。
「…君が、そう言うなら…もう、何もしないよ…」
「ごめんね」と言い残して彼の足音は遠ざかって行った。
「……」
薄暗い部屋の中で後悔と自己嫌悪が私の心を埋めつくした。
結局同じだ。
転生したって何も変わらない。
私はどうしようもない奴だ。
私なんて…